異世界事変、始まります②
「そうだね。うん」
二人してバケツを持ち、水運びリレーの一員となる。自転車は近くの店の端に放置してあるが、この騒ぎの中乗り逃げしていく奴はいないだろう。
テンポよくバケツを運ぶこと十分。特有の甲高い音とともに、真っ赤な消防車が到着する。
異世界でもシステム自体は同じらしい。積んであるホースも、見慣れた真紅の機体も、瞑鬼の思い描いていた通りの消防車である。
遅れて警察も到着。こちらはテロを警戒していたのか、やけに武装した人が目立っていた。それも、さすがは魔法の世界。空を飛んで現場見聞する警察官までいたのである。
驚く瞑鬼をよそに、瑞晴を含めた何人かは事情聴取を受ける。第一発見者ともなれば、そうとうしつこく聞かれるだろうと思っていた瞑鬼だったが、意外にもあっさりと警官からの質問は終了した。
何でも、魔法で現場の過去を見れば、ある程度の状況はわかるらしい。
「……災難だったな」
「……うん」
すっかり日が沈んだ宵の町を、瞑鬼と瑞晴が並んで歩く。
陽一郎への連絡は既に瑞晴が取り繕ってくれた模様。曰く、お前たちが無事なら何も言うまいとのこと。
結果として、あの爆発事故はガス爆発として処理された。瞑鬼を含め数人は、明らかにガス爆発などではないことはわかっていたが、そこは警察の判断に従うしかない。
「……一つ聞いていいか?」
空を仰いで訊ねる瞑鬼。真夏のせいか、空では星たちが互いを主張しあっている。
隣を歩いていた瑞晴も、黙って数歩進めた後に返事をする。
「……どうぞ」
「なんで、俺たちは子供を連れて歩いてるんだ?」
瞑鬼の右側にいる瑞晴。更にその右側を歩く少女を視界の端に捉えて、瞑鬼は不思議そうな顔をする。
現在瞑鬼のパーティーにいるのは、瑞晴と謎の少女が一人。本来なら二人のはずのところに、もう一人人間がいるのだ。それも女子。
こんな羨まけしからん状況で、冷静でいられるほど器の広い瞑鬼ではない。
「警察の人が言ってたじゃん?もう遅いから送り届けろって」
「……そう……だね」
瞑鬼はつい30分前のことを思い返す。警察の事情聴取の終わり側、少女を家まで送り届けてくれと二人は頼まれたのだ。
本来ならば保護者が来るはずだが、どうやら両親ともに仕事が忙しいらしい。共働きの辛いところである。
警察にしても、現場見聞に報告書作成、その他やる事は大量にある。一人に時間は割けないとのことだった。
そのため、たまたま少女のことを知っている瑞晴に、護衛及び保護者としての役回りが回ってきたという事だ。となると当然、瞑鬼は放って置くわけにはいかない。
その結果、女子小学生と女子高生。及び冴えない男子高校生と言った、見るものが見れば即逮捕レベルのパーティーが結成されたのだ。
「……瑞晴。あの人怖いよ。目が汚いし、体から黒いオーラ出てる。あと目が汚い」
瑞晴の隣を歩いていた少女が、上目で瞑鬼を睨みつける。
瑞晴を盾にし、しっかりと腕にしがみつく。どうやら仲がいいのは本当らしい。
「……こらこら。一応この人も朋花ちゃんの護衛なんだよ?」
朋花と呼ばれた少女は、瑞晴のいう事なら聞くらしい。大人しくそれ以上はなにも言わずに口を閉じる。
しかし、それだけではまだ小学生に認めてはもらえない。
普通の子供にしても、初対面の人と警戒心なしで話すことはありえないだろう。ましてや瞑鬼は六つも年上なのだ。警戒するなという方が無理な話である。
なにを言い返せるわけでもなく、瞑鬼は黙って帰路を辿る。朋花の家も同じ方法にあるとの事で、のんびりと三人で夜道を歩いている。
瞑鬼の眼には、先程から瑞晴と朋花が楽しげに話す様子が映っていた。
はたから見れば姉妹にも見まごうほどの仲の良さ。これでは瞑鬼は完全に邪魔ものだ。
五衣朋花と瑞晴が出会ったのは、ほんの二、三年前のことらしい。何でも、当時からお得意様だった朋花の両親とともにお中元を買いに来た際に仲良くなったのだとか。
それからは、二人して店の廃棄果物を食べたり、たまに瑞晴が勉強を見てやるなどして、二人の時間を過ごして来たのだそう。
既に二人の友情値は、姉妹のそれだろう。だから、この間に瞑鬼が入り込む余地などなかったのだ。




