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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
異世界制覇、始めました
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異世界事変、始まります。

気づくと、二人の足は商店街最後の店で止まっていた。もう配るものはないはずなのに、家に帰って清掃と会計が待っているというのに。


それなのに、二人の足は動こうとしない。まるで、ここから何かを変えろと言わんばかりに、地面に縫い付けられてしまっている。


「…………なぁ」


いたって自然を装いながら、瞑鬼が口を開く。視界の端で瑞晴の首が動くのが見えた。


「……ん?」


瑞晴だって、次に瞑鬼が何を言うかは既にわかっているだろう。ここらで一つ、互いの気持ちを確認しておくのは、ごくごく自然な流れであるのだから。


「……その、だな。一つ聞きたいことが……」


自分で自分の喉が生唾を飲み込んだのがわかる。ごくりと鳴らした音は、ひょっとしたら瑞晴にも聞こえたかもしれない。


次に出すべき言葉は頭に浮かんでいるのに、なかなか瞑鬼はそれを口にできないでいた。


当たり前ともいえば当たり前。瞑鬼は普通の高校生なのである。超能力が当たり前の世界で生まれたわけでも、孤児院で育ったわけでもない。普通に普通の、片親高校生なのである。


そんな瞑鬼が異世界に飛ばされて、マイナスからのスタートを切っただけでも快挙だと言うのに。


それなのに、この世界はもっと高次元なことを要求してきた。魔王だの何だのの、異世界冒険譚の1ページに名前を刻めなどと、そもそも無謀だったのだ。


けれど、それは今までの話。これから先変わればいい。昨日一晩悩み抜いた結果、瞑鬼が出した結論はこれだった。


「……瑞晴はさ、なんで俺のこと……」


言葉を発しようとした瞬間だった。


少し遠くの方で何かが光り、遅れて爆発音が閑散とした商店街に鳴り響く。


起こされた突風により、通りに面していた店のガラスは粉々に砕け散る。あまりの爆風に、二人に地面に縫い付けていたはずの針は完全に消えてしまった。慣性の法則に従い、二人して床に叩きつけられる。


「……った」


「……なに……?」


舞い散った埃を手で払い、瞑鬼と瑞晴は起き上がる。幸いなことに怪我はなかった。少し足を擦りむいた程度である。


しかし、二人の頭は自分の些細な傷の痛みを脳に与える間も無く働いている。衝撃の原因、魔王軍襲来の可能性、その他最高の場合から最悪の場合まで、実に10パターンほどが既に浮かんでいた。


未だ粉塵が舞い散り奥の方はよく見えない。人の気配は無いようだが、ひょっとしたら魔法の可能性もある。瞑鬼の体は完全に臨戦態勢に入っていた。相手に虚を突かれてはならない。


そんなあたり前のことを、つい二日ほど前に、瞑鬼は自らの父親から体で教え込まれていた。


「取り敢えず下がって。商店街の誰かの魔法ならまだしも、下手したら魔王軍とかもあるかもだし」


威勢良く言ったのは良いものの、はっきり言って瞑鬼に勝算なんてあるはずがない。何せ、瞑鬼の魔法は手を叩くと光がでるだけの魔法なのだ。真っ暗な部屋の中ならまだしも、こうも太陽が紅の光を出していては、殆ど効果はない。


だからと言って、ここで逃げては廃るものがあるのだろう。さり気なく瑞晴の前に立ち、一応は守ろうという意思だけ見せる瞑鬼。


張り詰めた緊張が、物凄い勢いで瞑鬼の体力を奪っていく。それこそ、このまま構え続けたら十分と持たないだろう。ただでさえ帰宅部である瞑鬼にとって、戦闘なんて完全に専門外のことだった。


「……神前くん」


瑞晴の発言とほぼ同時に、商店街のあちこちから声が上がった。やれどうしたのだの、何が起こっただの。誰も彼もが思い思いの言葉を叫んでいるが、その中に緊張はあまり見られなかった。どうやら、魔法の世界の住人は突発的な驚愕に対して耐性があるらしい。


やがて粉塵は消え、やっとの事で商店街の通りを見渡すことが可能となる。


懸念していた魔王側の魔法使いの存在はない。正確にはもういない。粉塵が晴れる一瞬前に、瞑鬼は人影を見ていたのだ。かなり遠目からだったので、人相はおろか性別すら判定不能だったが、それでも確かに立ち込める煙の中から飛び出す一人の影を瞑鬼の目は捉えていた。


爆心地は商店街通り最初の店である本屋だった。


どうやら爆弾は少量の火薬を用いたものではなく、炎の塊の様なものだったらしい。本屋からは火の手が上がっている。


これがもし、魔王軍や魔女たちの仕業なら、彼らは大いに仕事をしたと言える。何せ、本屋なら触媒は大量にある。このままだと、爆風で窓ガラスが吹き飛んだ隣の肉屋にも飛び火するだろう。そうなれば、消防車が到着する頃には引火に引火を重ねて大惨事だ。


燃え盛る炎に気づいた商店街の人々が、何とか鎮火せねばという義務感に囚われてあくせくと水を運んでいる。どうやらここら一帯に水を操る系の魔法使いはいないらしい。


「俺らも協力しようか」


取り敢えずは敵という脅威がなくなったので、瞑鬼は緊張を解いてほっと一息。今でも十分に緊急事態なのだが、それでも瞑鬼の予想していた結果よりかは遥かにマシだ。

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