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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
白銀の神狼編
211/252

出撃!フレッシュ一同

「んー?なにー?」


瞑鬼の時と違って、基本朋花は人懐っこい。夜一から見れば可愛い妹のようなものだ。今からその妹に、きつい現実を教えなければならない。それに巻き込まなければならない。


だが、この説明をするのは夜一じゃなきゃだめだった。瞑鬼以外で、嫌な役を押し付けられる。そんなの女子に任せれるほど廃ってない。


「……いいか朋花。今から行くのは、飯だけじゃない。俺たちは瞑鬼と関羽を探しに行く。そして、それはかなり危険かもしれないんだ。下手したら二、三日帰れんかもしれん」


言った。告げた。説明した。噛まずに、つっかえずに、吃ることも無く。でも、だからどうした。それは夜一の自己満だ。言ったから終わりじゃない。むしろここからが始まりだ。


覚悟していた。てっきり面食らった顔をするのだと。そして最悪、行きたくないと泣かれるのではないかと。でも、彼女は強かった。強がった。


戸惑いが顔に現れたものの、朋花はまるで予想でもしていたかのように、うんと頷く。そしてまた黙って夜一の話を聞く体制に。正直、それだけで感服だ。まだ小学生なのに、肝の座り方が瞑鬼に似ている。


「作戦の都合上、全員で動くことになった。もちろんそれにはお前も含まれているが……、これは強制じゃない。いつ戦闘になるかもわからん。それに加えて、まともな生活ができるかも。だから、そのだな、決めてくれないか?お前が行かんのなら誰かを残す。それが責任だからな」


できるだけ難しい言葉を選んで、せめて朋花が分からないように。話も長くして、忘れてくれるように。夜一は臆病だった。こういう実務に関しては、悔しいが完全に瞑鬼に出遅れている。もともとの気性のせいもあるだろうが、どうにも向かない仕事だった。


話を理解してないのか、それとも知った上で考えているのか。朋花はやけに静かだった。それはもう、お泊まりテンションの小学生とは思えないほどに。


ふぅ、と体の中にあった不安を吐き出すように深呼吸。血流が促進され、頭がじんじんする。朋花もなんとか覚悟と予測とを決めてくれたらしく、ベッドの上に転がった。そして暫くすると、息を浅くし眠りに入る。


「……瑞晴たちあがったら起こして。今のうちに休んどく」


全く、感心するほどに肝の座った小学生だった。夜一がこのくらいの歳の時は、もっと我儘だっただろうに。血の繋がってない人の家に居候になっている朋花は、人よりかなり大人びているようだ。


あぁ、と返事を。そして夜一も自分の荷物をパッキング。とは言っても、ほとんどは女子の服と食料なので、夜一のスペースはほとんどない。せいぜい道着を外に括り付けて、お気にのお菓子が入れれるくらい。


一通り準備が終われば、後はもう心を落ち着けるだけだ。優雅に風呂上がりのティーブレイクができるソラと違って、夜一は見かけよりもかなり繊細なのだ。例えば旅行の前日なんかは、忘れ物がないか何度も確認してしまうし、千紗の家に行く時は匂いなんかも気にする。瞑鬼はまだ気づいてないだろうが、夜一も人一倍他人に気を使っているのだ。


そんな夜一が、今回は実質作戦リーダーに。その心労は計り知れない。ひょっとしたら、瞑鬼がフレッシュ筆頭になったのは、ほのかにそれを感じ取ったからなのかも。


「……夜一さんも飲みます?」


落ち着いた風を装ってベッドに腰掛けていた夜一に、ソラがコーヒーを突き出してきた。眠気覚ましは必須だし、何より断るのは申し訳ないので受け取っておく。


「……うまいな」


「……どうも」


てっきり、もっと喋る子なのかと思っていた。でもまぁ、瞑鬼がいなかったらこんなもんだろう。

飲み終わるとほぼ同時に、風呂場の方が騒がしくなる。上がってきたらしく、暫くするとドライヤーの音が聞こえてきた。そしてもうほんのすこしだけ待っていると、閉じられていたエデンへの扉が開かれる。出てきたのは、待望の風呂上がり女子だった。


「ごめん、ちょい長くなった」


「構わん。だが、準備を早くしろ」


へいへいと返事して、女子二人は着替え兼荷物作りに。と言っても、ほとんどはもう夜一のリュックに詰められているので、実はそれほど時間がかからない。


時刻は午後八時過ぎ。今から夜中にかけてが、一番警備の薄まる時間帯だ。だがまだ早い。ホテルの周りには未だに大量の警官が警備に当たっているし、何より街中にも巡回が多い。ソラの魔法が持つのは、曰く三時間くらい。瞑鬼の居場所を割り出す前に夜一たちが見つかってしまっては元も子もない。それに、今逃げて見つかれば犯人にされるのは明白だった。


しかし夜一は急いでいた。瑞晴も千紗も、そしてソラも。それはなぜか。それは、夜中とはまた別の隙を狙ってだ。すなわち晩御飯の時間を。ホテルの人間が一堂に集められ、そこで夕食は振舞われるらしい。もちろんそこには、警備の警官はいない。だが、すこしの間だけでも廊下に人がいなくなるのはこれ以上ない好都合だ。


「いつでもいけるよ」


「私も」


「飯の時間まであと十分。……決行は5分後だ。いいな?」


一瞬で判断を下し、ただ時が来るのを待つ。すこしでも早く希望にすがりたかったから。


脱出後のプランを全員で相談。とりあえずはどこかコンビニでも寄って、向こう二日分ほどの食料を。刻一刻と時間は迫ってきて、逃げたくても問答無用で。だからもう、夜一は立ち向かうことを躊躇わない。


髪の毛を弄りながら、窓の外を見る瑞晴。一体瞑鬼はどこにいるのだろうか。晩御飯までに帰ってこないとは。これはお仕置きが必要そうである。


だから、そう。ちゃんと強引にでも連れ戻して、そして「完っ!」って言えるように。それが瑞晴の望む、たった一つの結末なのだから。


「……行くぞ」


時計を確認し、すぅっと立ち上がる夜一。もうリュックを担いで、やる気は十分らしい。


ふぅ、と息を吐いて起き上がる朋花。それに連なるように、みんなも重たい腰をあげる。こんな面倒くさい事になったのも、全部あの洗脳野郎のせい。だからそいつを捕まえて、一発ぶん殴るでもしなければ気が済まない。


最後にもう一度だけ全員で顔を見合わせて、瑞晴が作戦名を告げた。


「作戦名は、うん。愛をとりもどせ!ってところかな」


「瑞晴さん、あんまりセンスが……」


「……古いな」


「パパ譲りだよね。瑞晴のそれって……」


自信満々だったのに、なぜだかみんなから残念そうな目で見られた瑞晴。恥ずかしさと気まずさと、そして何より自分で大胆なことを言ってしまった事に今更気づいて、三倍顔を赤らめる。でも今はそんな事気にしてる余裕はなくて。だからすぐに締まりを戻し、心を一つ入れ替える。


部活の試合前のように円陣を組むわけでも、個人が瞑想するわけでもない。ただ、ちょっとチームっぽいことをやりたかった。だから瑞晴が手を出すと、みんなも拳を突き出してきた。


こつんと軽く当て、いざ行かん馬鹿の奪還へ。万が一のためにルームキーは持って行く。途中で脱落者が出ないとも限らないから。


扉を開ける。廊下はいたって静かだった。もうみんなホールに集められているのだろう。この重装備を見られないのはかなりありがたい。


エレベーターはまずいとの事で、向かった先は非常階段だ。ほとんど灯りもなく、かつ人が通る事もまずない。来た時は不気味としか思わなかったが、今じゃそれが最高に心強く。夜一はから習った音を立てない歩き方を。瑞晴も千紗も、ソラだってそれは習得済みだ。唯一できない朋花に関しては、極限までゆっくりと歩く事でそれを解消。


一階に着くと、まず向かうは裏口だ。だがそこは当たり前だがより警備が厳重。かつ見張りの交代もない。だから当初の予定通り、プランは正面突破にかけられた。


静寂でもなく、またがらんとしているわけでもない。ホテルマンや食堂のスタッフが行き交うそこは、よく人の出入りがあって、だから必然的に自動ドアは解放されていた。


これほどの好都合はない。誰にも見られない場所でソラの魔法を発動。全員手を繋いで、音を立てないようゆっくりと玄関まで歩いてゆく。向こうはこっちが見えないから遠慮なしに向かってくるが、夜一たちからしたら周りは普通に見えているのだ。だからぶつかられないよう細心の注意を払うし、手を離したらダメという縛りもある。なかなかに脱出は困難を極めた。


だが出てしまえばどうということもない。一人の目にとまることもなく、フレッシュはホテルを抜け出す事に成功した。公園まで走って行き、ソラの魔力が切れる前に手を離す。どうやら人数によって継続できる時間が違うらしく、この人数だと一時間が限界らしい。いつまた使うかもわからないので、残しておく事に。


「……千紗、瞑鬼の携帯は?」


「……結構街から離れてる。時間と移動距離見るに、多分車かなんかで移動してるよ」


「……そう言えば、バイク無くなったとか言ってたよね?あれって瞑鬼くんが……」


「これは……犯人見つけなきゃ怒られますね」


改めて、自分たちのリーダーがかましてくれた事態を把握し直した五人。ふふっと笑って、見たのははるか彼方にそびえる大きな森。


あそこに瞑鬼がいる。そう思うだけで、なぜだかやる気が湧いてきた。せっかくの北海道旅行なのだ。森林浴も悪くない。一足先に観光へ向かった瞑鬼に苛立ちを覚え、足を踏み出すフレッシュの五人。


夜一たちがいないと発覚するのはいつ頃だろうか。夕食が始まり一時間も経てば、きっと部屋に呼びにくるだろう。そこで始めて発覚するというところ。いくら夜一たちが英雄の推薦で来ているとは言え、北海道までハーモニーの権力が通じるとは思えない。きっと警察は夜一たちを犯人とし、捜査網を敷くだろう。


そうなってくれれば、警察も動いてより犯人も見つけやすくなる。当面の目標は、捕まらずに捕まえる、だ。


タクシーを確保し、コンビニを経由。大量の食料を買い占める。携帯の反応が消えた場所までは、ここから大体二時間弱。そこまで連れて行ってもらっては、夜一たちの居場所がすぐ割れてしまう。だからぎりぎり目的地がわからない場所で降ろしてもらい、そこからは歩く事に。


もうすっかり都会の喧騒は消え去って。そこは完全な田舎だった。というよりも、未開の地といたほうが正しいのかもしれない。


周りにコンビニは無いし、自販機だって一つだけ。あるのは木と滅びたような公園と、そして少な民家だけ。夜も10時近くになると肌寒くて、今から森に入るのは危険だと瑞晴の判断が。


「……こういう村って、連続殺人とか怪奇事件とか。そういうのありそう……」


人のいない砂利道を歩いていると、ふと瑞晴がそんな事を。推理マニアの血が騒ぐらしく、いかにもな事件の舞台になりそうな村に興味津々だった。


一方夜一と千紗は今夜の寝場所を見つける事に。一応タオルケットくらいはあるが、この寒空の下で寝れるほどの毛布はない。最悪誰かの家に泊まるか納屋で寝るかだが、人に見つかりたくないのが現状だ。


虫の声と鳥の声。それがやかましく思えるほどに騒いでいた。耳をすませば、どこからか遠吠えすら聞こえてくる。明日以降はいつ戦闘になるかわからない。今日で体力を使い切るわけにはいかなかった。


「寒いな……」


「どっか使ってない小屋でも探す?神前の携帯も、こっから20分くらいで着くとこにあるし」


「……だね」


ソラと朋花を見ると、こっちもこの寒い中寝るのは勘弁らしく、首を縦に振っていた。確か北海道は夏でも気温が二十度を下回る。半袖と薄着しかない夜一たちじゃ風邪をひく。


周りを見渡し、どこかに手頃な建物はないかと確認を。ある事にはあるが、どれも人の手がかかっていそうなものばかり。なんとか誰も使ってないようなプレハブを探し出して、窓を割り侵入。ここで一夜を明かす事に。


完全に犯罪だ。そんなの夜一たちもわかっている。だが、今はそんな細かいこと気にしてる場合じゃない。終わったら弁償でもなんでもしてやろう。英雄のカードで。だから今だけは、瞑鬼と関羽を探すのに集中させて欲しかった。


「……どこにいるんだ……くそ」


がらんどうな鉄の板で囲まれた中は声がよく響く。野郎一人に女子四人。こんな所で寝れるほど、夜一の肝っ玉は座ってない。無理しなければいけないくらい。


見ると、もう女の子たちは眠っていた。こんな事件の連続で、相当に気を病んでいたのだろう。気丈に振る舞っているが、魔女の一件が終わってまだ一月も経ってない。その休養となる旅行がこんなであっては、どんなに体力があっても持たないというもの。


今日一日気を張っていたせいか、夜一にも微睡みがやってきた。目を閉じたら連れてかれるのがわかる。でも逆らうことはできなくて。体を痛めないように、リュックの上に体を乗せる。カバン一つで隔てられた距離。瞑鬼がいれば、少しは違ったんだろうか。


窓の外、雲一つない空の向こうに星があった。数え切れないくらい、目に留められないくらい。それはちょうど窓枠のせいで区切られていて、まるでキャンバスに描かれた絵を見ているようで。


本格的な眠気が徒党を組んで夜一を誘ってくる。


明日はどこへ行こう。見つけたら一発殴ってやろう。ホウレンソウもできない社会人だと陽一郎にしられなかっただけ感謝してほしいくらいだ。



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