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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
逃亡の魔女編
199/252

祭囃子と火薬の匂い

夜九時。花火が上がる。祭囃子とどでかく響く大輪の音が、瞑鬼の耳を支配していた。漂ってくるのは特有の賑やかな匂い。仄かに香るは焼きそばか、それともたこ焼きか。


さすが田舎だけあって、空には煌星のオーケストラが広がっていた。満月がそれを引き立てて、周りが満月を引き立てて。


香ばしいソースと、熱々のたこ焼きを口に運びながら花火を見ている瞑鬼。今日の昼間あんな事があったのに、世間では何も知らずに呑気に祭りなんてのが開かれたらしい。


浴衣を着て、草履を履いて。記憶さえ消せるのであれば、まさに瞑鬼が望んでいた日常だ。外国少女とジャパニーズフェスティバルをまわり、友達にからかわれながらベビーカステラを食べる。もしそんな事ができる日が来るのなら、それまではいくらでも耐えれる。だけど、残念ながらそれは瞑鬼の幻想だ。現実に記憶は残り、心に重石としてのしかかっている。


「…………美味ぇ……」


口に広がるとろとろの生地に、歯ごたえのあるたこ。考えた奴は天才だと思う。この風味は、そこいらの人間に考えつく代物じゃない。


また花火が上がる。今度はスターマインが空に散り、ひらひらと舞い落ちて。さすが地域の一大イベント、空祭りだけあって、なかなかに人は多い。今瞑鬼は神社から少し離れた森の、ちょい高台に足を運んでいた。


まだ全部納得しきったわけじゃない。アヴリルのことも、義鬼の事も。だけど、何を言っても今は変わらないわけで。残ったのは、悪い魔女をやっつけたという、世間からすれば好評だけだった。


戦いの幕が閉じてから凡そ五時間ほど。すでにアヴリルとマーシュリー、及びその他の魔女の遺体は埋葬済みだ。フィーらと同じ海岸沿いに、並べるようにして埋めたのだ。それは騒ぎを起こした魔女たちへ、瞑鬼からの小さじ一杯分の敬意。マーシュリー・リストラストという女に可能性を感じたから、そうした。


それから今までは、ほとんど瞑鬼は覚えてない。ただ気づいたら家に帰っていて、はっとした時には浴衣を着せられ車に乗っていた。魔力の使いすぎのせいで倒れていたらしく、記憶が混濁しているよう。


でも、そんな腐った頭でも覚えていることが。ここに来るまでの、里見先生のボックスカー。あの中にいた瑞晴の目には、確かに赤く腫れた跡があった。


「…………こんなとこにいたのか」


がさがさと茂みをかき分けて、やってきたのは陽一郎。右手に持ったお好み焼きと、左手のビールから察するに、怪我が治りきってないのに抜け出してきて里見から逃げ回ってでもいるのだろう。


きょろきょろと辺りを見回し、鬼医者の姿がないことを確認。そうしてやっと瞑鬼のとなりに腰を下ろす。


「…………食うか?」


「……いただきます」


勧められて断るのもアレなので、別に腹は減ってないが一口もらう。お返しに瞑鬼のも一個リリースした。はふはふと口の中で冷ましながら、なんとか飲み込む陽一郎。


特に何を話すわけでもなく、ただ二人は花火を眺めていた。アヴリルが見たいと言っていた、日本製の枝垂れ柳が空に咲く。フィーラが興味を示していた瓶入りのラムネを仰ぐ。


もうここに、彼女たちの姿が現れることはない。たった三人で逃げてきて、必死に戦って。それでも、生き残ったのはソラ一人だけ。自分の力の足りなさを、世界の残酷さを、瞑鬼は再確認していた。


なんでこんな事になったのだろう。何が悪かったのだろう。考えることはいくらでもある。けれど、そのどれもが正解で、不正解のように思えてしまうのだ。だから悩むし、結論を出せない。


「…………義鬼、だったか?お前が言ってた魔王軍のやつっての」


しゅわしゅわと泡を立てるビールに口をつけ、ぷはーと一言。そして陽一郎が訊ねた。その顔に親父臭さはなくて。だから瞑鬼も真面目に答えざるを得ない。思い出したくない、あの悪夢を。


「…………はい。【円卓の使徒】?的なやつだったと」


「……今よ、英雄たちが調べてるんだが、どうにも家には帰ってないらしい」


「…………そうですか」


何を問われても、今の瞑鬼に頭を働かせる事など不可能に近い。ただでさえ魔力不足で脳がぐわんぐわん揺れている状態なのに、それに加えてあの事件。誰だって現実逃避の一つでもしたくなる。


怒りはあった。計画もあった。だが、それを実行に移すだけの気力が、今の瞑鬼には欠けていた。


あの笑顔が、風に揺れる稲穂のような、黄金の髪が、もう見れないと知っているから。無口だったけど、いるだけで何となく落ち着く、あの不思議な存在感を感じれないから。


なんて言ったらいいだろう。この感情に色をつけて、形にして。そんなのをいくら繰り返せば、記憶が薄れていってくれるのだろう。


たった何週間か。あくまで異国から来た少女。あぁ。他人から見ればそうかもしれない。しかし、瞑鬼からしたらもう彼女たちは普通の家族だ。いや、陽一郎や瑞晴と同様、家族以上に家族なのかもしれない。


「…………普通ならよ、こういう時、この経験がお前を強くする、みたいなこと言うんだけどな」


「…………まぁ、戦場だとそうですよね……」


「……けどよ、今のお前見てると、そう言うこと言えねぇよ」


「…………ありがとうございます」


ほとんど目を合わせることもなく、ただ淡々と会話を繰り返す瞑鬼。陽一郎が気を使ってくれているのは分かる。なにせ彼も、大切な家族を戦いで亡くした一人なのだから。


だから陽一郎なりに、瞑鬼を元気付けているのだろう。だから。それがわかるから。唯一信じていた愛を失ってしまった自分が、一体なにを肯定されるのか。守れたはずなのに。もっと強ければ。もっと人がいれば。


今回ハーモニーをどかしたのは、半分以上瞑鬼の個人的判断だ。本当のことを話せば、英雄は協力してくれたかもしれないのに。裏切ったのは瞑鬼。失敗したのも瞑鬼。そして何より、フレッシュのリーダーは瞑鬼だ。だから、責任は頭が取る必要がある。


「……俺、どうしたらいいですかね?」


情けなくも、こうするしか手段はない。頼りたかった。誰かにこの気持ちを押し付けたかった。みんな同じくらい辛いのはわかっているが。それでも、子供にならずにはいられない。


さらさらと芒の間を通る風。夜になったからか、すっかり蝉の声はなくて。代わりに蟋蟀やら梟やら。そんなのがオーケストラを代用していた。


今にも崩れそうで、だけど重圧がそれをさせなくて。フィーラの思いを、アヴリルの思いを代弁したとしたら。多分、彼女たちが望むのはソラがずっと生きることだ。それこそおばあちゃんになって、孫に囲まれて穏やかに最後を迎えるくらいまで。


だったら、二人亡き今、その意思を継ぐのは誰か。そんなの、瞑鬼に決まっている。ソラが信じてくれるから。ソラだけは、最後の最後まで瞑鬼について来てくれるだろうから。


だけど、それが無くなってしまったら。杖がなくなった盲目の愚か者は、あっという間に奈落に落ちるだろう。そしてきっと、二度と戻ってこれない。だからこわい。何かをして、何かを失うのが。


「…………腹たったら、いつでも俺のとこにこい」


それまで黙ってお好み焼きを頬張っていた陽一郎からの、突然の返信。少しだけ焦って、はっと振り返る。


「……無条件で殴られるのは無理だけどよ、まぁ、スパーリングくらいならやってやる」


「…………ありがとう、ございます」


「……んで、それでも無理なら……。まずはな、お前の周りにいるやつを頼れ。何のための仲間か、ちょっと考えてみな」


空になったビールの缶を握りつぶし、さっと立ち上がる陽一郎。その口ぶりは、なぜだか他の誰かに向けているようなものだった。それも、ここいらの人じゃなくて。


そう、言うなれば、昔の誰かさんに。瞑鬼と同じように無駄に責任感の塊で、無駄に悩みまくって。そして瞑鬼と同じで、突いたらすぐ崩れるような奴へ向けての、そういう言葉。


ずっと眼に映る花火のせいで、じゃっかん視界がちかちかしてきた。一瞬で咲いて、一瞬で散って。それはまるで、魔女っ子たちの人生を体現しているようだった。


ふと何かを感じ取ったのか、陽一郎が急いで残りのお好み焼きを掻き込んだ。


「…………いいか?今日だけだぞ?明日からこんなことしたら、果実鍋やみなべだからな?」


何だかよくわからないことを言い残し、そそくさと離れていった。取り残された瞑鬼はわけがわからなくて。でも、ほんの数秒後にわかった。


月と大輪の光の中、木の陰から瞑鬼を見る人が一人。女の子で、高校生くらいで。もうすっかり髪も元どおりに生え揃っていて、なんだか浴衣が妙に似合っていて。


草道を草履が踏みしめる。束ねた髪がつやつやとして、少しだけ化粧をしているのか、肌もやたら白くて。だから光が当たったら、それはもう美しく。気がついたら、声に出して彼女の名前を呼んでいた。


「…………瑞晴」


この気温のせいなのか、瑞晴のほおはやけに紅い。温暖湿潤な日本だけあって、浴衣を着ていると汗を掻く。だから彼女は手に持ったハンカチで、化粧が崩れないように顔を拭いていた。


花火がやかましくなる中で、瑞晴はそっと近づいた。おしゃれをするのは慣れてないらしく、だから足がちょこちょことしか動かない。でも瞑鬼のところまでやってきて、それでやっと隣に腰を下ろす。


火薬の匂いが鼻について、ちょっと湿気った緑も薫る。食べかけのたこ焼きから漂う湯気に目もくれず、瞑鬼は瑞晴を見ていた。あんなことが起こったすぐ後で、腐って淀んで隠し決めれない目をもって。


言いたいことは山ほどあった。守れなくてごめん、とか。大変だったよな、とか。でもそれらは全部口の中で音を消し、出てきた時には意味も失っていた。そんなのが意味ない軽論だと言うことを、直感的に悟っていたから。


始まってから一瞬しか見てないが、きっと今ごろ祭りは大盛況なことだろう。事件を知らない町の人たちは、魔女の脅威が無くなって安心しきっているだろう。その事を責める資格も、そのことに怒る権利も瞑鬼にはない。だって隠したのは瞑鬼なのだから。重たかった。アヴリルが今際の際に残した言葉。あれを誰かに話したなら、どれだけ軽くなるだろう。でも出来ない。それは約束だから。


「…………一つ、いい?」


いきなりの事だったので、一瞬何を言っているか分からなかった。けれど瑞晴の指が差していたたこ焼きに気づき、すぐさま察した瞑鬼。


「……熱いぞ」


嘘だ。正直もうそんなに熱くない。けれど何か会話をしないと持たない気がしたし、だからと言って、おう、の一言じゃ味気ない気もしたし。だからこんなやりとりになってしまった。


プラスチックの容器を瑞晴に差し出し、勝手にとってくれるのを待つ。でも彼女はなかなか爪楊枝を手にしようとしなかった。ちゃんとまだ三個も余っているのに。


瞑鬼がはてな顔で固まっていることに気づいたのか、あぁ、と言って瑞晴が言う。


「ごめん、手汚したくないし、お願い」


そう言われてふと手を見ると、瑞晴の爪には少しばかりのネイルが施されていた。いつもは果物を触るから陽一郎から禁止されているのに、何故だろうか。でもおそらく、千紗か里見あたりにやらされたのだろう。せっかく浴衣着るんだから、とか言われて。


だったら瑞晴の言っていることも理解できる。たこ焼き屋のおっちゃんがぶっ刺した爪楊枝は雑極まりなくて、ソースがついてしまっている。


だからと言って瞑鬼もそれは触りたくない。ちょっとだけ考えて、恐る恐る自分の使ってたので刺した。それを瑞晴に差し出す。美味いたこ焼きってのはちょうど中がトロトロで、だからあんまり持ち上げれない。必然的に瑞晴も口を大きく開け、はむっとそれに食いつく形に。そして恒例のはふはふを。


「……いける」


「…………だろ?」


ハーモニーのおっさん陣が出した出店で買ってきたそれは、陽一郎のお墨付きだ。来る前から勧められていたので、ついつい手を出してしまった。陽一郎の名前を出したら、何個かおまけもしてくれたし。


残り二個になった内、一つは瞑鬼の胃袋に。そして日本人特有の遠慮というやつで、最後の一つはまだ食べず。高校生らしく携帯をいじるでもなく、何かを食べるでもなく。二人は月を眺めていた。


正直言って、まだ頭の整理はついてない。ついこの間から、いろんなことに巻き込まれすぎた。普通のちょっと不幸な男子高校生から、異世界に来て、人が死ぬとかなんとか。そして果てには、自分が殺ったり殺られたり。人間百日あればその環境に慣れると言うけれど、瞑鬼がこっちに来てからまだ五十日と少ししか経ってない。たった半分じゃ、魔法を受け入れて生活するのが限界だ。


知ってしまった。最後の瞬間というやつを。本当に死に面した人間の、背後に川を迎えた人間の、今際の愛というやつを。瞑鬼にはそれができるだろうか。フィーラやアヴリルのように、世界を知って、世界を許して生きれるだろうか。


恐らくは無理だ。そんなに聞き分けがいい人間じゃないことくらい、自分が一番わかってる。だからこうなってしまえば、脳の血管が捻じ切れるくらい思い悩んでしまう。陽一郎が言っていたことも、話半分にしか聞き取れない。


あたり前にそこにいたやつが、明日からは起きてこない。楽しいと思っていた日本語教室も、残った生徒は一人のみ。


英雄でも勇者でも、ましてや正義の味方でもない瞑鬼にとって、仲間を二人も失うのは辛すぎた。身近なやつが一人消えるだけで、心が不浄に満ちてしまう。そんな自分も嫌いだし、この世界じゃ割り切れない自分がおかしいのもわかっているのに。


「…………私の笑顔、引きつってない?」


焦点も合わせずにぼんやり星を眺めていた瞑鬼に、よこから声が飛んでくる。


ふと振り向いて、そこで瞑鬼も気づいた。


「……まぁ、安心しろ。ちゃんとおしろいが付くほどには」


さっきまで、てっきり瑞晴は平然なのだと思っていた。こんな世界で生まれて、幼い時からそういうのを見て来て。だから瑞晴は慣れているものだと。けれど違う。瞑鬼が見ていた彼女の顔は、気張ったほんの表面に過ぎなかった。


そこにいた瑞晴の顔。無理して作ったと一目で分かるぎこちない笑顔。全く自分が嫌になる。知っていたはずなのに。瑞晴が、普通の女子高生だということくらい。


「…………今日は湿気が多いね」


そう言って袖をたくし上げる瑞晴。ほっそりとした腕が覗き、運動部じゃないことを一目で告げる白肌が現れた。


でもそんな肌にも、いくつかの傷がある。マーシュリーとの一騎打ちや、ルドルフの時の。里見やユーリでも完治させれない、ほんの小さな傷。いつかこれが積み重なる時が来るのだろうか。その時は、そんな時は瑞晴が今のままでいてくれるだろうか。


瞑鬼が一人悶々としている中、瑞晴もまたせかせかと頭を働かせていた。勇気を出して肌を晒したというのに、目の前の朴念仁が何を思って目を逸らしているのかを知りたいのだ。


そりゃぁ、普段家では半袖短パンでいることもある。だからと言って、そんなにも女性として見られてないのだろうか。いずれにせよ、瞑鬼の目は自分を見てなかった。


「……なんか、予想以上のことになった」


「……ね」


最後の一個に手をつける素振りも無く、ぼんやりと足元を眺める瞑鬼。水場が近くにあるからなのか、ちょこちょこ蛍の姿が目に入る。それが妙に綺麗だったりして、だから瑞晴も目線をそっちにやる。


言いたいことは山ほどあった。気づいた気持ちとか、今後のこととか。でも、今何を言っていいのか。まだ決着がついてから一日も経ってない。それに瞑鬼が何を思っているのかも、今の瑞晴には知るすべがないのだ。


あの空白の三日間。その間、瞑鬼はずっとソラと一緒だった。瑞晴とて嗅覚過敏な女子高生、だから他人の感情の機微には、誰より早く感づく自信がある。それは当然、言葉の通じぬ少女でも。


そして瞑鬼が帰ってきてから、まだ何も話してなかった。あまりにも展開が急すぎて、それに、葬儀の最中の瞑鬼の顔が、想像以上に険しくて。噤んでしまった唇は、そう簡単には開かない。


目の前の青年が、その内に何を抱えているのか。その全てを受け止めるだけの技量はないが、一緒に堕ちることくらいならできる。最悪で最低で、クラスじゃ絶対話せない。


でも、それだけで、たったその程度で瞑鬼の気持ちが傾いてくれるのなら。瑞晴は覚悟ができていた。


「…………言ってたよね。これ食べたいって」


「……あぁ」


「……可愛かったね。二人とも」


「……魔女は単性生殖だからな。不細工は栄養回してもらえないんじゃね」


「……やっぱひねくれてるなぁ」


どうでもいい会話。でも、二人ともこれ以外に何を話していいかわからなかった。片や気を使いすぎて。片や相手の出方を伺いすぎて。


じっとしていても始まらない。どこかそんな考えが瞑鬼の頭をよぎる。今だって、英雄たちは義鬼の散策に出かけているとのこと。住所を教えたが吉報がないということは、まだ戦っているか逃げたかというところ。あの化け物神峰英雄のことだ。あっさり敗走、なんてあるはずがない。


どうしていいかなんて分かるわけがない。世界の命運だとか、魔王と倒すだとか、そんなのは別の誰かに任せておけばいい。ただ、瞑鬼は今、平穏が欲しかった。だから、そのために何がいるか。


心のどこかで結論は出ていたかもしれない。もうこうしないと、自分が望むものが手に入らないと、気づいてしまっていたかもしれない。口に出すのが怖くて。言ってしまったら、本当になりそうで。


「……瑞晴にとっての、ハッピーエンドってなに?」


だから敢えて言ってしまおう。この広い宇宙にかけて。もうどうせ、これ以外に方法はないのだから。


「……多分だけど、うん。全部終わった時、みんなで完っ!て言えれば、それがハッピーエンドかな」


どこぞの打ち切り漫画にありそうな最後。これからも冒険は続くことなく、ちゃんと最後になって。全部が完結したら、それでいいんじゃないか。


瞑鬼だって同じだ。変わらない日常が続いて、毎日が少しだけ変化があって。瑞晴と一緒ならそれができそうな気がする。取り返せないものもあるけれど、彼女とならいつか。


この先、瞑鬼が決めた道を進んでいけば犠牲も出るだろう。ひょっとしたら、間違いだと悟る日が来るかもしれない。けれど、その時はその時。また別の道を照らせばいい。今そこに、枝分かれもせずに旅人をひたすら待ち続ける路があるから。


いつの間にか終わっていた花火。目がチカチカして、夏特有の火薬臭が鼻をつく。ふっと笑って、瞑鬼は重たい腰を上げた。


すると、パックの中で冷めたはずのたこ焼きが、独りでに宙に浮かび上がった。それも爪楊枝ごと。なにごとかと見ていると、それはあっという間に姿を消した。目の前から「好吃」と聞こえてくる。


「…………何やってんだ?」


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