表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
逃亡の魔女編
198/252

この灰色の空の下で

「…………けど、ごめんなさい」


聞き間違いだろうか。ごめんなさい、と。さっきまで丁寧だった英語が、いきなり日本語になった。だから三人は戸惑った。


「…………わたくしは、遅すぎましたの……」


何を言いたい。瞑鬼の体が動いた瞬間、マーシュリーの身体に歪な文様が。それは神経のように太く、全身に張り巡らされていて。


漆黒の粒子が隙間から顔を出す。アヴリルを包んで、やさしく大きく。


なぜだ。確かに彼女の目は母親のそれだった。それに、さっきのも本音じゃなかったのか。一瞬で言葉が脳裏をよぎる。だが口から出てこない。喉の奥で引っかかって、勝手にどこかへ消えていった。


魔法回路を限界まで振り絞るマーシュリー。爆発的な量の魔力が空を覆う。だが二人の体は動いてない。そして不思議なのは、マーシュリーがアヴリルを抱きしめたままだという事。魔法を使うなら離れるし、直接ならやはり離れる。


だからそんなマーシュリーの姿は、瞑鬼たちの目には映った。身を呈して子を守る、母親のそれとして。


「【嫉妬の雷(ディアン・ボルト)】」


なぜだろうか。瞑鬼はその声に聞き覚えがあった。意味がわからない。説明してくれ。


しかし現実に時間は過ぎる。気がつかなかった。反応できなかった。瞑鬼たちの真横を通り過ぎ、一直線にマーシュリーの元へ。光速並みに早いそれ。一億ボルトの電圧を帯びた、青白い閃光が真夏の昼間を駆け抜ける。


骨が透けるような衝撃が背骨から。苦悶の声を上げる事なく、マーシュリーは落雷に打たれていた。


全開魔力で威力を殺したが、それはマーシュリーの体を貫いた。もちろんアヴリルごと。咄嗟すぎて、マーシュリーにはこれくらいしかできなかったのだ。自分が消炭になろうとも、子供を守ることくらいしか。


マーシュリーの身体中を暴れまわった電流が、やがて空気へと溶けてゆく。全身ぼろぼろになりながら、力なく地面に崩れ落ちる。かろうじて焼け死ななかったのは、やはり魔女の生体によるところ。


「あ?んだよ生きてんじゃん」


「もぅ……。だから言ったじゃない。皮膚のつくりが違うのよ」


そこにいた人物。中年くらいの男と女。瞑鬼はその二人に確かに見覚えがあった。向こうがどうだか知らないが、こっちは脳裏にこべりついて離れそうにない。


煙草と酒で腐っているはずの身体。加齢臭がしそうなスーツからは、桁違いの魔力が漏れていた。杖を持って、なぜだか堂々と佇んで。神前義鬼がそこにいた。


血が湧く。脳が作りたてのグラタンのように音を立て、ぐつぐつと。自分を止められないと思ったのは今日が初めて。恐怖でもない。落胆でもない。ただ、一縄の怒りだけが、瞑鬼の全身を支配していた。


「…………ざけんな……」


魔法回路が勝手に開く。全身から、どす黒い粒子が漏れ出した。筋肉が硬直し、脳が震える。


崩れ落ちるマーシュリーを支えながら叫ぶアヴリル。だが当然返事はない。ぷすぷすと口から黒煙を吐いて、ただがっくりと項垂れている。理系じゃない瞑鬼でもわかる。さっきの一撃が、とんでもない威力がったことが。


静かに激昂する瞑鬼とは裏腹に、瑞晴たちはただ驚嘆していた。声も出さずに、顔だけで驚きを表現して。


「どうする?もう一発いっとく?」


「そうねぇ……。お願いするわ。教会の犬を始末するのが、私の仕事ですもの」


勝手に二人だけの世界を作り、そこに他人を寄せ付けない。相変わらずなクソ親の態度。そんなんだから、息子にも嫌われる。だから殺意が湧く。


久しく忘れていたのに。このまま、思い出すことなく暮らしたかったのに。もう十分だ。世界の不条理さには飽き飽きした。だから、頼むから。瞑鬼は願うことしかできない。少ない自分の幸せを、これ以上奪わないでくれと。


義鬼の身体に、歪な文様が浮かび上がる。漆黒の粒子が渦を巻き、手に持った杖に集中。やがてそれが巨大な焔珠へと姿を変えた。


一番最初の【改上】。たしか名前は、【強欲の炎(バルジ・フレイム)】だったはず。


こんな場面なのに、瞑鬼の頭にはどうでもいいことしか思い浮かばなかった。そして動きたいのに、身体が言うことを聞いてくれない。


義鬼に殺され、明美に殺され。恐怖なんてとっくに支配したと思っていた。復讐心すら、己の内に封じ込めれたと。だが現実は違ったらしく、どうやら瞑鬼の身体には、二人に対する怖れがたっぷりと刻み込まれていたらしい。


だから、なにも反応できなかった。あいつらがしでかすのを見守ることしか。炎が成長し、やがてバレーボール大までに。今度は杖を大きくなぎ払い、軽いボレーの速度でゆっくり飛ばす。


けれどそれは確実に近づいてきて。わかっている。狙いが瞑鬼じゃないことは。義鬼が狙ったのは、フレッシュではなくマーシュリーだった。なんで魔女を殺そうとするのか。誰かの依頼か、それとも正義感か。ありえない。反吐が出る。


コンクリの壁を溶かしながら、それは着実に迫っていた。だけど動けない。瑞晴と千紗は圧倒的な魔力に当てられて。ソラは訳が分からなくて。そして瞑鬼は、情けなくて。


「…………っっ!関羽!!」


ありったけの勇気を振り絞り、飼い猫の名前を呼ぶ瞑鬼。空を飛んでいた関羽が、何かを察知したのかすぐに猫に戻る。そして瞑鬼の肩に乗ったかと思うと、勢いよく頰を引っ掻いた。


激励のつもりか、それとも単に指示に従っただけか。それでも、瞑鬼には十分だった。痛みのおかげで、恐怖を忘れることができたから。


魔法回路全開で、なんとか脚をバタつかせる。しかし分かってしまった。下手に空間把握能力に長けていたから。自分の身体能力を、吉野との訓練で知っていたから。


ーー間に合わないーー


悟る。ちょっと後ろに回ってしまっていたから。二人を見守っていたかったから。瞑鬼の魔力なら、あれを相殺できる可能性は高い。仮に死んだとしても、どうせ【改上】で生き返る。だから。


せめてそれだけは。アヴリルだけは。


その事をどこかで理解したからだろうか。このままじゃマーシュリーが死ぬと分かったから?とにかく理性が働かない頭で瞑鬼が見たもの。それは、熱球の軌道上に立つアヴリルの姿だった。珍しく魔法回路を開いて、全身から魔力を吹き出して。


「……せめて、このくらいはやりますわ」


気に病んでいたのだろうか。この作戦で、自分だけが囮としてしか機能してなかったから。他の人は身を粉にして事件解決に乗ったのに。ソラですら。それなのに、アヴリルだけが何もしてなかったから。


「…………アヴリルっっっ!!」


必死の瞑鬼の雄叫びが、虚しく空気に溶けてゆく。アヴリルが腕を突き出す。それはとても美しくて。まるでどこぞのジャンヌダルクのように。民衆を思う、マリーアントワネットのように。


アヴリルの顔は、慈愛に満ちていた。命を投げ出して仲間を守る自分に対する、誇りのようなものさえ。


熱球とアヴリルが重なる。が、その一瞬前。確かに瞑鬼は目撃していた。彼女のそばに立つ人物を。娘を危機から守ろうとする、半分以上死んでいる母の姿を。


「…………一人はイヤでしょう?」


「……メルシー、マム」


二人の魔女の全開魔力が、熱と空気をかき散らす。腕が灼ける。肺がただれる。けれどやめない。これを消すまでは、絶対。


魔力を全身から爆散させる。魔女特有の表皮が死細胞に包まれて、一瞬にして代謝。新たな細胞の構築を繰り返す。


ほんの数秒だった。決着がつくまでは。それは生まれ持っての生物としての差なのか。それとも二人の気合い勝ちか。


炎が消える。熱が解ける。残ったのは、腕を焼かれた二人の魔女。魔力を出しすぎたせいか、いやに呼吸が荒い。


「…………おいおい、マジかよ」


自信のある一発だっただけに、義鬼の落胆は大きい。さすがの彼も、本気の魔女と戦った経験は浅いらしく、だからデータも少なくて。


二人はその場に力なく倒れこむ。折り重なるように。揺かごで眠るように。


謎に現れた新たな敵。その隙が一瞬だけ見えた。だからその刹那に付け入って。


「……っふっざけんなっっ!!!!」


怒りの臨界点を突破した瞑鬼の咆哮が、全身から力を引き出した。何度も死んで、血反吐を吐いて手に入れた力。始まりはそう、こいつらを殺すため。


だから今使って何が悪い。この魔法も何もかも、全部使い切って殺す。そのための数ヶ月。これが終われば、またいつもの日常が戻ってくるから。


全ての憤怒を指に込め、千切れるほどに擦り合わす。瞑鬼の脂肪を媒介に、着火剤は爪のカルシウム。そして魔力がそれを大きく。


鬼の形をした爆炎が、二人の狂人に襲いかかる。瞑鬼の左手を全部持っていった、多分二度と出せないであろう威力のそれ。


余裕のあった二人の顔に、一瞬だけ曇りが落とされる。警戒レベルが百上がり、明美も魔力で自分をガード。そして義鬼が杖を振りかざし、魔力をかき集める。


「【憤怒の転移(コール・キング)】」


無情にも、世界は瞑鬼に勝利を許さない。鬼形をした爆炎の塊は、義鬼の魔力とともにどこかへ消え去ってしまった。


そこにあったのは、小さな、人一人が入れるかどうかのゲート。そこに入ったから、瞑鬼の渾身はどこかへ行ったのである。もう戦う力などあるはずもなく、だからと言って英雄か夜一を呼んでももう遅い。


アレだけ経験を積んだのに。地獄を見てきたのに。どうやらまだ世界は、それほど甘くないようで。


魔力が尽きたせいで、瞑鬼の身体も力を失っていた。焼け焦げた両手では落ちる自分の身体を支えることもできず、ただその場に倒れ臥す。だけのはずだった。


だが、現実に今、瞑鬼は誰かに支えられていた。柔らかい細腕に。くすぐったい毛並みに。嗅ぎ慣れたけど、まだどきっとしてしまう。そんな女の子の汗の匂いと言う奴が、瞑鬼の鼻から煩悩を刺激。野生の匂いがそれをかき消した。


「……瑞晴?」


力なくした瞑鬼を支えていた人物。それは紛れも無い、疲労困憊の瑞晴だった。けど顔はこっちを見ていない。もっと奥。狭い通路の奥にいる、クソ野郎たちに向けられている。


「…………意味わかんないし、怖いけど……」


瑞晴の手は震えていた。当たり前だ。たとえ訓練を積んでいても、例え慣れていたとしても。彼女は優しいから。人が死ぬのは耐えられなくて、世の中にこんな巨悪がいるのにも耐えられなくて。


せめて瑞晴には、あれの存在を知られたくなかった。籠の中の鳥が、外にいる鷹を知らなくていいように。それと戦うなんて、間違った気を起こして欲しくないから。


「……だけど、わかるよ。うん」


分からないでくれ。守らせてくれ。君まで離れてしまったら、もう。声を出したいのに出せない。肺がうまく呼吸をしてなかった。


「…………あの人たちが、悪ってことは」


汚れを知らない破幻の瞳が、二人の悪人を貫いた。生まれて初めて、瑞晴は純粋な怒りというものを腹に抱いていた。今なら沸騰した血液で湯煎ができるくらい、瓦を持って来られたら、全部残らず叩き割れるくらい。


瑞晴の身体が魔力を放つ。それは同時に魔法を使うことでもあり、だから場にいた誰もが瑞晴に目を奪われて。


だからなのだろうか。それとも任務を終えたから。さっきまでばりばりの戦闘態勢に入っていた義鬼と明美は、魔法回路を閉じていた。


「……あのガキ、やべぇな」


「…………そうね」


「帰るか?」


「えぇ。私あの子嫌いだわ」


クソうざい。年老いた老害たちのいちゃつきなど見せられても、全く心に響かない。瞑鬼の心が濁る。目が淀む。全身から不浄が溢れ出て、それでも全然足りなくて。


悪びれる様子もなく、また説明する素振りもなく。二人は背中を向けて歩き出した。無防備にも程があるのに。ここに遠距離魔法使いがいないと知ってか、やけに余裕を見せながら。


本当なら後ろから、全力で殴りかかりたい。だけど今の瞑鬼にはその力がなくて。それは即ち、復讐する権利すらないのと同じで。殺したいほど憎いのに。怨んでも恨んでも、うらみ切れないほどなのに。


そんな瞑鬼の想いが届いたのか。世界が意思を組んだのか。おっとりした口調で、けれど掠れて殆ど聞こえなくて。でも確かに魔力を感じた。


「…………ば……ん」


なぜ狙えたのかは分からない。目が見えないはずなのに。だけど今はどうでもいい。


はるか前を行っていた明美の身体が、ひとつびくんと脈打った。そしてふらふら脚を崩し、咄嗟に義鬼にもたれかかる。乳酸漬けの筋肉を動かして、瞑鬼は見ていた。マーシュリーの最期を。彼女の悪あがきを。


「…………協会の裏切り者に……お土産ですの」


「…………ちぃっ!」


今度こそ力を失うマーシュリー。だが明美はすぐに幻覚から帰って来て、今度は額に血管を浮かばせていた。誰でもわかる、キレたサイン。


魔法回路を展開し、手にいつものククリナイフをアポート。すかした顔でそれを投げ、また彼女らは振り返る。もう用などないように。命を奪うものとして最低限の、散り際さえも見ないように。


勢いよく回転しながら迫るそれを、人化した関羽がはたき落とす。金属が砕ける音が反響し、場には静寂だけが残された。


ぐったり倒れる魔女二人と、ただ立ち尽くすソラに千紗。瞑鬼を支える瑞晴の手は未だに震えていて、とても見ていられない。


敵が完全にいなくなったことを確認すると、瞑鬼は瑞晴に抱きつきながらも姿勢を戻す。途中何度か胸やら腰を触ったが、ボロボロの手じゃ感触を楽しめなかった。


誰が言うでもなく、目を合わせることもなく。皆んなは一つの場所に集まっていた。力なくしたアヴリルと、それに折り重なるように倒れるマーシュリー。焼けて半分灰になったドレスは痛々しく、綺麗だった髪も煤とストレスでぼさぼさに。


「…………喋るな。動くな。まだ生きろ」


二人のそばに座りながら、声にならない声を出す。そうじゃないと、今にも二人はどこかへ行ってしまいそうだったから。


ふっと笑って、何かを言おうとしたマーシュリー。だが肺に詰まった血栓が、彼女に血霧を吹き出させた。誰の目にも明らかだった。もう二人が、あと数分だと言うことは。


そしてそんなのは本人が一番わかっている。だからせめて、最後に伝えたくて。魔法回路を開いたアヴリルが、震える手を瞑鬼に差し出した。


それが意味するところ。千紗は知らないだろう。彼女の魔法を。今まで使わなかった、最初で最後のアヴリルの。それを見るのはソラも初めてらしく、だけど瞑鬼に譲ってくれた。


今にも崩れそうなアヴリルの手を取り、それを頭まで持っていく。おでこの真ん中あたりにつけ、そっと呟く。もういよ、と。


すると、アヴリルの魔力が瞑鬼の中に逆流してきた。脳天に直接語りかけるように。そして優しくて、何かに包まれるように。


ーーあー、あー、てすてすですわ。瞑鬼さんーー

ーー……アヴリル?ーー


ーー驚きました?私の魔法って、こう言うこともできるんですわよーー


ーー……そうか。まぁ、そもそも見たことないし、驚くも何もないけどなーー


ーーうわぁ……。そんなんだから、ソラも瑞晴さんも困るんですわよ?全く。それで、今瞑鬼さんはどういう状況ですの?詳細よろですの!ーー


ーー…………瑞晴の胸が柔らかかった。桃よりも。……ってか、お前もう……ーー


ーー……あー、まぁ、そんな事はどうでもいいですわよ?どうせ分かってますしね。自分の事ですしーー


ーー……まだ生きれるさ。魔女の身体は強いだろーー


ーーまぁ。瞑鬼さんが人を励ますだなんて。明日はマシュマロでも降りますわねーー


ーー…………やかましい。んで、伝えたいのはなんだ?ーー


ーー……話が早くて助かりますわ。時間もないですし、それではーー


ただ眠るように、瞑鬼は目を閉じていた。アヴリルの魔が二人の全身を包んで、黒い幕を張っている。こんなのは聞いた覚えがない。ソラでさえも。


死に直面した魔女だけが得ることのできる、最後の一絞り。火事場の馬鹿力の魔法版を、アヴリルは発動していた。


「……何話してんだろ、二人とも」


「……穏やかな顔、してますね」


空はひたすらに青く、広がる雲は外国まで連れてってくれそうで。それを見たら、人は願わずにはいられないのだろうか。この世界の平穏を。


瑞晴の手が、瞑鬼の手を包み込んでいた。堅く。きつく。絶対に離さないように。


ーー…………マジか……ーー


ーーマジですわーー


ーー…………わかった。んじゃ帰って皆んなにも伝えんぞ。いいな?ーー


ーー……残念ですが、砂が落ちきってしまったみたいですの。帰りのチケットは、瞑鬼さんの分だけですわーー


ーー俺は死なん。だから、俺のぶんやるから……ーー


ーーそれは瞑鬼さんのですもの。私には扱えませんーー


ーー…………まだ日本語、マスターしてねぇだろ……ーー


ーーそうですわね。それでは、次会うときは、あたり一面お花畑がいいですわーー


ーー……ハーゲンダッツ、腹壊すまで食っていいーー


ーー綺麗なバルコニーで、紅茶を持って、ケーキを食べてーー


ーー……大好きな夜一だって、お前を待ってるーー


ーー…………。一つ、言伝を頼みますわーー


ーー………………ーー


ーー……ソラに言っといて下さい。ヒロインはあなたよ、ってーー


ーー…………おぅ。一言一句漏らさずに、全部伝えてやるーー


アヴリルの意識が消えてゆき、やがてそこは真っ白な空間になった。切符を持った瞑鬼には、ご丁寧に帰り道が用意されていた。だからそれをたどって帰る。みんなが待つあの場所に。


まだまだこの手は小さくて。守りたいものも守れなくて。何度でも。叶うまで。


俺の記憶に、君たちとの記憶を上書きしよう。一つ残さず、全部。


見えた気がするフィーラも。アヴリルも。魔女の、白十字教の教義は十三転生。だったらまた、別のどこかで会えるかもしれない。それを信じるから、瞑鬼は明日を生きられる。


この絶望と希望が入り混じった、暗くて明るくて、幸せで不幸せな世界を。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ