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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
逃亡の魔女編
189/252

嵐の前の

そろそろくる


瑞晴にだけ聞こえる瞑鬼の声。向こうに伝えることはできないし、姿も見えないと分かっている。


だが風呂場で、しかも素っ裸でとなると話は別だ。変に耳に近いだけに、隣にいるような気分になってしまう。


「なんだ、ちゃんと生きてんじゃん。よかったね」


「……まぁね。まだ心臓ばくばくいってるよ……」


伝えられた連絡曰く、瞑鬼はソラと一緒とのこと。何でも吉野さんの所にいるのだとか。少しばかり声が嗄れている気もするが、風邪でも引いたのだろうか。


今すぐ風呂からゲットアウェイして瞑鬼に電話をしたい所だが、丁度よく携帯が壊れたと言われてしまう。なす術なしの瑞晴にできるのは、ただ声を聞いてみんなに伝えることだけ。


時間にして一分ほどだろうか。随分と長いこと話したと思っていたが、実際はそうでもなかったらしい。ぶつっと通信は切断され、後に残ったのは耳鳴りとシャワーの音だけ。


「んで、何だったの?」


「ソラは?ソラはいますの?」


さっきの恋愛話とは打って変わって、こっちの話題ではぐいぐい質問攻めな二人。いきなり言われたので頭の整理が追いついてないが、取り敢えずは報告通りに二人に話す瑞晴。


「なんか、ソラちゃんの考えでは、三日後に魔女が来る可能性が高いって。んで、今は一緒に吉野家いるみたい。修行するとかなんとか」


ただ言われたことを反復して漸く、話の概要を理解した瑞晴。だが、理解できても共感はできない。二人きり?それで修行だって?言語道断横断歩道とはよく言ったもので、羨ましいと同時にソラに対しあからさまなライバル心が燃えてくる。


ずっと、そんなことはないと思っていたのに。今の瑞晴は魔女を開いてどれるほどに肝が座っていた。


「……三日後ですの……」


湯船のへりに座ったアヴリルが、呟くように言う。同じくらいの頃を想定していたようだ。


「……まぁ、指標があったほうが目標も立てやすいしね。うん」


いつの間にか一人体を拭き終えた瑞晴が、タオルを持って脱衣所へ。そそくさと下着を装着し、何も言わずに自分の部屋に。一見無愛想とも取れるその態度を見て、くすくすと笑う二人の女子。千紗もアヴリルも知っていた。あの去り際、瑞晴の顔が赤面していたと言うことを。


開け放された扉を眺め、さっきの表情を思い出す。顔を見合わせて、また笑う。まさか、人が自分の気持ちに気づいたのを目の当たりにするのが、こんなに面白いとは。恋話を糧に生きる思春期女子だけあって、これは願っても無い展開だった。


そんな二人のにやにやを知らないで、瑞晴はどすどすとリビングに。畳で気持ちよさそうに寝息を立てる朋花を踏まないように注意しつつ、牛乳を胃に流し込む。アヴリルまでとはいかないが、目標は目指せフィーラ、だ。


「……あるぇ〜?……なぁ瑞晴、関羽しらね?」


「……知んないよ?」


うろうろと居間を歩き回る陽一郎。言われた通り、どこにも関羽の姿は見当たらなかった。朋花の上で丸まっているのはチェルシーのみ。


だがまぁ、この夜に夜目が効かない人間が探しに行っても無駄骨だ。明日の朝にでも探しに行こうと思い、チェルだけを抱えて自分の部屋に行く瑞晴。


風呂上がりの二人とすれ違う。何やらにやけ顔で見られた気もするが、まぁ、表情豊かなのは悪いことじゃない。まだ顔が熱かった。冷めてくれそうにない。少なくとも、次会うまでは。


自室に戻るや否や、ベッドめがけてダイビング。ひんやりとしたシーツが肌を冷やす。エアコンが効いた室内は、特有の機械臭い匂いで満たされていた。


机を見る。その壁の向こう側は、瞑鬼の部屋だ。ほとんど何も置いてなくて、まるで旅行客に貸しているかのような寂しい部屋。行ってみようかと考える。だが、何だか変態な気分が支配しそうので却下。理性には自信があると言った手前、おいそれと行動には移せない。


「…………熱いねー、チェルー」


自分の顔が熱を帯びていた。それを猫のせいに。


少しだけ不満げな声が上がる。


このまま眠れず悶々とするのだろうか。そう思っていた瑞晴だったが、寝転んでいると次第にまどろみが。残る力でエアコンを切り、そこで瑞晴の記憶は途切れる。


今夜はつきが少しばかり欠けていた。あと三日もすれば満月になるだろう。そしてその時には、全てが終わっているだろう。


その日瑞晴は、ちょっとだけ幸せな夢を見た。近い未来に、みんなでお囃子を楽しむ夢を。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


慢性的な寝不足と、昨日の筋肉痛が相まってか、この日の夜一は地獄の中にいた。脱水と酸欠で死ぬのでは。そう思えるほどに、真夏の体育館は蒸しかえっている。


「どうした柏木?結局は威勢だけなのか?」


「……くっそ!喧しいわ!」


室温三十度越えの中、しきりに組手を続ける英雄と夜一。その姿は見ているだけでも苦々《くるぐる》しい。ましてや、昨日の夜一の様子を知っている千紗からしたら、それは尚更だった。


滴る汗は水蒸気に。流れる血が沸騰し、ただ目の前の敵を喰らうことだけに集中する夜一。だが、奮戦虚しく英雄には殆どヒットしない。


同じ近接型とは言え、英雄の基本形態は二刀流。対する素手の夜一の方が、この武器なし防具なしの組手は有利なはずなのに。二人の間にある隔たりは、それこそエベレスト級だった。


そして何故だか、今日その場には瑞晴を含めすべてのフレッシュメンバーが総結している。と言うのも、店の修理は朋花とアヴリルと陽一郎が。探索も何も相手がいる場所がわかっている以上、何もすることがないのだ。


ソラの情報が確かなら、攻めてくるのは三日後。ならばそれまでに、六人だけで戦う技術を身につけなければならない。その点だけなら、英雄を選んだのは最適だ。


「……あんな夜一見るの、なんか久しぶり」


「ってか、英雄さんも英雄さんでヤバくない?本気の夜一と渡り合ってる人、初めて見たかも」


壇上に腰をかけ、その様子を眺める瑞晴と千紗。


夏休みの学校なのに部活がないのは、英雄が禁止令を出しているからだそう。何でも、魔女の一件が片付くまでは基本的にダメらしい。それはきっと、ハーモニー活動のためだろうが。


でもまだこない

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