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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
逃亡の魔女編
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動き出した駒たち

無性に鰹節が食べたい。そんな事って、ありますよね?



魔法回路を展開、第二の魔法で瑞晴に連絡を。一方的にしか要件を言えないから会話も何もないが、携帯が水没したのだから仕方ない。


全ての要項を言い終えると、いよいよ微睡みが徒党を組んで瞑鬼に襲撃。英語の長文を読んでいる時のような、逆らえない波が瞑鬼を襲う。


現実と虚構の狭間を行ったり来たり。ソラもそうなのかと思えば、残念ながらぴんぴんしている。すると、何故か窓の外を見つめるソラ。何かを見つけたようで、近づいてそれを手に取った。


「…………関羽?」


直後、口から出てきた信じられないその単語に、瞑鬼の頭は眠りから引きずり出される。猫か、それとも武人の方か。当てられたふわふわの毛並みから前者だと知覚。


なんでこんな所に来たのか。と言うか、どうやって匂いを追って来たのか。


「……もしかして、ソラに嫉妬?」


落ちかけの頭を振り絞り、愛猫に確認を。何故だかやたらと反発的に二人の間に体を挟みこむ関羽の姿がそこにはあった。


「……負けませんよ」


大人気なくも、猫に敵意を露わなソラ。もうこのやり取りがたまらなく瞑鬼のドーパミンを放出させるが、松果体のメラトニンが猛攻。ついに瞑鬼は、関羽のやわ肌に頭を埋め、眠ってしまった。


その様子を見て、二人の女も休戦協定を結んだらしい。寝息を立てる瞑鬼をそばに、関羽が顔の前を。ソラが背中を分割する。


熱も高くいい感じにあったかい瞑鬼の背中で、ソラは幸せな夢を見た。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…………遅いな」


夕暮れ時の商店街。半壊した桜青果店の前で、夜一は一人通りの道を眺めていた。英雄との猛特訓が終わってから今までの間、店の修繕に駆り出されていたのだ。壁も何も全部吹き飛ばされた店の中は閑散としていて、貼られた黄色テープも半分剥がれてしまっている。


瞑鬼たちが森へ行ってからもう六時間。いい加減サザエさんが始まる時間だというのに、まだ誰一人として帰ってきていなかった。


現在ここにいるのは、朋花と陽一郎を含めたフレッシュ全員。と言っても、三人も足りないが。


店の部分は全開だが家のスペースは住めないこともないので、戻ってきていたのだ。フルーツ臭かった店内も、すっかり鉄と火薬の匂いで満ちている。


「……携帯もでないよ」


障子の代わりに被せてある布の端から、スマホを耳に当てたまま出てきた瑞晴。何回も掛け直しているが、未だに瞑鬼には繋がらない。


「……あのバカが……」


最悪、瞑鬼だけなら死んでいても構わない。問題なのはちびっ子二人だった。彼女たちが帰って来れば、一先ずこのもやもやは回復するというのに。


ずたぼろになった筋繊維が悲鳴をあげる。ただ座っているだけでも辛いのに、夜一は無駄に店の前に立っていた。影を見つけたら、一秒でも早く迎えに行くために。


遅くなるなら連絡しろ。首尾がどうかも知らせろよ。全く、貴様のせいで飯が遅くなったじゃないか。帰ってきた時用の言葉を考えながら、微動だにせず立ち続ける夜一。


「……代わるからさ、夜一は奥で休んでなよ」


瑞々しい洋梨を皿に盛り付けて、わざわざ運んできた千紗。彼女はむしろ夜一の方を心配していた。ただでさえキツイはずの鍛錬を終え、それでも尚休まない。そんなバカに付き合わされるのも慣れていた筈なのに、身体が止められない。


「お前じゃあいつらに怒れんだろ。遅くなったバカ叱んのは、俺が頑固オヤジって決まってる」


誰がいつ決めたのか謎の俺ルールを適用させ、頑として動かない夜一。そんな様子を見て何か思ったのだろう。千紗もぶっ壊れた棚に腰掛け、わざわざ店の外で待つ。


もうあと数時間もすれば、完全に日は沈む。そうなれば探すのは絶望的だ。今は神峰勢力が纏まって探索しに行っているらしいが、それも報告はない。


出来るなら、今すぐ走って森へ行きたかった。だが、夜一はそれを出来ないたる理由がある。一つは陽一郎からお達しがあったから。もう一つは、一番気が気でないであろう瑞晴が、黙って三人の帰りを待っているからである。


あんな自信満々に構えられていては、さしもの夜一も動けない。


現在この家にいるのは、朋花と陽一郎を含めたフレッシュ全員。だが三人も足りなければ、それは最早組織とは呼べなかった。少なくとも夜一には。


「おい夜一、ちょっと行くぞ」


惚けていた夜一に言葉を投げかけたのは、車のキーをちゃらちゃら振り回す陽一郎だ。どうもいつものエプロンを外して、外に出る格好で。


一瞬だけ瑞晴が驚いたような顔をしたが、すぐに事情を察知。何も言わずにお茶をすする。


何でですか。そう聞きたいのは山々だったが、ここで陽一郎に気を変えられては意味がない。質問を頭に押し込めて、夜一は首を縦に振る。


筋肉痛が尋常じゃない身体。試合の後でもこんなになった事はない。英雄との実戦訓練は、これまで戦ってきたどの格闘家のよりも厳しかった。


気合と根性で体を動かす。魔法回路は展開せずに、筋肉からの信号を無視し続ける夜一。白の軽トラに乗り込み、すぐにアクセルが蒸された。


「お前的にはどう見る?」


運転席に座った陽一郎の顔は、普段じゃ見れないくらいに真剣だ。多分、戦争地域での事でも思い出しているのだろう。遠い日を見ている目に、夜一は心当たりがあった。


「……拠点の目処はあってて、見つかって殺害。それか、捕えられたかですね」


「あいつらの目的上、多分監禁はねぇな。見つけたらその場でやるだろ。多分」


「そんなもんですかね」


「そんなもんだよ。戦場での兵士ってもんは。余裕ねぇからな、色々と」


経験をしているからこそ、陽一郎には勘というものがある。完全にアウェーな空間で、たった数人の兵がどう動くのか、とか。


いなくなった瞑鬼と、帰りを待つ瑞晴。いい図だ。

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