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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
逃亡の魔女編
182/252

白紙の世界

カラとマーシューリーの戦い。その決着は、意外にも意外なものだった。


瞬間、風速七十メートルの爆風が森を襲った。カラを起点としてではなく、もっと下。発生点は崖の下だ。だから誰にも止められない。


カラの正真正銘最後の魔力を振り絞った、限界ちょい越えの大魔法。暴れ狂う刃風が地を裂き天を覆う。明華もマーシュリーも、規格外の破壊規模に戸惑いを隠せないでいた。


当然爆心地でないカラの身体には、押しつぶされるほどのGがかかっている。至る所で起こる鎌鼬が、三セットで三千円の服をビリビリに。せっかく貰ったのに、一日でダメにしてしまった。


台風は勢いを止めず、ついには頑健なる崖壁までその手を伸ばす。ばらばらとこぼれ落ちる岩石。何をも構わず、真下の川が吸いこんでいく。


崩れる足場。聞こえない声。華麗な足取りで崩れ落ちる土塊を踏みつけ、明華は射程から逃げ出そうと必死だ。


「クラキ、さんも。私が」


限界超えた魔力使用により、カラの身体は既に動かない。それでも、カラは信じていた。あの青年を殺すのは自分だ、と。


以前に出てきた時、いったい何人の犠牲を出しただろうか。どれだけ被害をもたらしただろうか。そんな彼女が、魔法も身体能力もしょっぱい小物を仕留め損なったのだ。だったら、誰かにやられるのは狂おしいほどに憂いを孕む。


「……っ!マーシュリー!」


半径数メートルにわたって崩壊する崖。音を立てて崩れる土壁。バランスを崩したマーシュリーは、明華によって回収された。その全てを、カラは視界の一部に収めていた。


落ちたら死ぬだろうか。そんなことは考えない。今だけカラは確信を持って言える。瞑鬼なら、間違いなくこうすると。


空が遠い。二人が遠い。果て尽きた気力体力。今度はいつまで眠っているのだろうか。次起きたら、全てが終わっているのだろうか。


どうでもいいことを考えながら、カラは身体が水に浸るのを感じた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


全身がだるかった。筋肉痛だとか、疲労だとか。そんなのがいくつも合わさったような。それに熱があるかもしれない。いくら夏とは言え、流石に無防備川ダイヴは厳しかったようだ。


夢と現実の狭間。起きているのに身体が動かない。そんな不思議な体験を、瞑鬼は味わっていた。


今どこにいるのだろうか。順調に流されたのなら、恐らくは海の上。下手したら船に拾われた可能性だってある。


だが、可笑しいのは頭が何か柔らかいものに乗っているということだ。それに、どことなくいい匂いもする。ずいぶん最近、間近で嗅いだことがあるようで。そして鼻がくすぐったい。


不意に、頭にひんやりした何かが乗せられる。少しだけ身体が熱い。誰かが顔の上に来た。小さな手が鼻をつまむ。しっかりと空気を漏らさないよう、大きく口を塞がれた。多分誰かの口で。


肺に空気が入る。これが人工呼吸だと悟ったのは、一つ咳払いした直後のこと。


「…………ソラ?」


気がつくとそんな言葉を漏らし、神前瞑鬼は目を覚ます。


「…………ふぇっ!?」


そして、今まさに自分の口を塞いでいたソラと目があった。瞬間的に離れる二人。まだ感触が残っている。そして海水でも飲んだのか、ほのかな潮の味も。


「……あー、すまんな」


なんとなく事の成り行きを察し、ソラが何かを言う前に先手を打つ瞑鬼。顔を真っ赤にしたソラを見ていたら、どうにもこっちまて恥ずかしくなってしまう。


瞑鬼がいきなり起きたことによほど驚いたのか、ソラは唇を触りつつ、潮らしく体をひねりつつと言った刺激的なポーズを。思わずさっきの感触がまた蘇った。


「……どこだ?ここ……」


このまま二人でもじもじしていたら、余計変な気分になる。そう思ったからこそ、瞑鬼は意識を外に向ける。熱いくらい紅潮したほおをソラに見られないように。あくまで、イメージでは大人っぽい人でありたいのだ。


風邪をひいてがんがん頭痛が瞑鬼を襲う中、そこらの景色を垣間見る。木と土と、そして海と。考えられるとしたら、川から海に流れてきたあたりだろうか。


「私も不很好地明白よくわかんなくて。あの、目覚めたら瞑鬼さんが倒れてて、息してなくて。だからここまで運んできたんです。患感冒かぜひくとあれだから」


今のソラは、どうやら瞑鬼が思っているより相当にテンパっているらしい。英語と中国語がごっちゃになった言語を話し、プラスによく分からないボディーランゲージのおまけ付きだ。


うまく回らない頭を総動員。瑞晴よろしく顎に手を当て、灰色の脳細胞に命令を。いったい今、どんな状況が二人を襲っているのか確認のために。


狼狽えるソラ。元気があるようだが、どこか空元気に見えてしまう。そしてこれは瞑鬼だからだろうが、わかってしまった。暗闇の中、月が照らしていたのはほぼ裸のソラだったということを。


「……使えよ」


そう言って、きていた服を渡す。びしょびしょだが、無いよりかはマシなはずだ。だが、ソラはそれを断った。


「……瞑鬼さん、風邪ひいてます。だからダメです。大人しく寝ててください。大丈夫ですよ。暑いですから。えこるっくってやつです」


また覚えたての、少し違った日本語を話すソラ。


確かに瞑鬼は風邪をひいている。だが、このまま放っておいたらソラだって熱を出す可能性は十分にあるのだ。それ以前に、どこか分からない場所で素肌を晒すのは危険と言える。


良いから着ろ。瞑鬼が言う。瞑鬼さんこそ。いつに無い強情な態度でソラが言った。譲り合いなどという、この場では全くの無意味なこと。そして夏とは言え、夜は寒いこと。口論はそう長く続かなかった。


最後に出した妥協案。それは、二人でシェアしようぜというものだった。一枚のTシャツを、瞑鬼が来てそれにソラが寄り添う様に。


肩と肩が触れ合う。瞑鬼よりだいぶ下にあるそれは、抱きしめたくなるほど熱を含んでいて。だから少し強くくっつく。二人の顔が月光に照らされた。


「…………うつるぞ」


「……魔女に病原菌は効きません」


すいません。次回ちょっと長くなりそうなので、出すの遅れます。でもまぁ、上書き勇者のかなり大事な分岐点になりますので。どうぞお楽しみた。

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