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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
逃亡の魔女編
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変態観測

いよいよ魔女の本拠地と思われる所に向かった瞑鬼たち。これを外したら後がない!


フルメタルなそれに目を付けて、遠くにある山小屋を見る瞑鬼。まるで覗きをしているような気分だった。


ここから見えるのは、あの家の横からの図だ。瑞晴の報告通り、リビングのガラスが庭に散乱していた。誰かが入った形跡だとかは、ここからじゃ分からない。


「……どうです?」


真昼間から筒を構えて家を監視する変態に、可愛い女の子が声をかける。集中を目に凝らしていた瞑鬼は、ちょっと驚いた感じで返事した。


「んぁ〜、正直なとこ、ここからだとわかんね」


「……確かに。あの人たち足跡とか消せますからね」


「見た感じ無いですし……足跡」


目をくっつけたままの瞑鬼と、女子中学生二人の会話。瞑鬼が違和感に気づいたのは、ほんの一瞬後のことだった。


「……え?見えんの?お前ら」


そう、彼女たちは双眼鏡を持ってない。ここから山小屋までの距離は百メートル弱。こうも鬱蒼と樹が茂っていては、とてもじゃないが肉眼で見える遠さじゃない。


「……えぇ。わたくしたち、一応訓練を受けてたんですの。五感なら、多分瞑鬼さんより遙かに敏感ですわ」


「……マジか」


魔女特有のなのか、それとも訓練の賜物なのか。改めて魔女と人との生物としての違いを実感した瞑鬼だった。


結局、十分以上の休憩でわかったのは、家にいるであろうという事だけ。それも根拠はない。だがこんなところにいても拉致があかないという事で、三人揃っての民主的な会議の結果、もっと近くからみようという結論が出た。


瞑鬼としては、向こうの目的であるソラたちをこれ以上リスクに晒すのは避けたかったが、透明化の魔法があると言う安心感からかあまり気にしなかった。


切り株に座って少しの水分補給。持ってきた麦茶を三人で回し飲みに。最後に口をつけた瞑鬼が、一番得をしたと言えるだろう。


喉も潤い疲労もそこそこ回復したと言う事で、早速ソラの魔法を展開。三人で仲良く手を繋ぎながら、目的地を目指す。


「……もし居ても、何もすんなよ?逃げるからな」


「……わかってますわ。こう見えて、足には自信がありましてよ」


「私も、そこそこ自信あります」


心強い二人の自己申告を胸に止め、瞑鬼は蔦をかぎ分ける。目下距離は何十メートルかほど。これ以上は流石に危ないだろう。魔女の五感があれば、足音や会話を聞かれる可能性がある。


適当なハンドサインを出し、ソラたちに小屋を見張らせる。馬鹿正直に正面に回っただけあって、部屋の中が一望できていた。


ここでもし魔女がいれば、帰って即刻陽一郎に報告。そこからハーモニーを動かしてもらう。夜一の訓練が終わるのが二日後だから、決戦は遅くとも三日後だろう。


悔しくもその日は、フィーラが楽しみにしていた陸祭りの日だった。見せたかった大空の大輪。届けたかった祭囃子。どれもこれもが瞑鬼の中を渦巻いている。


徐々に徐々に魔法回路を開いてゆく瞑鬼。溢れる魔力は最低で。かと言って少なすぎず。いつでも逃げれる体制をとっていた。


ふと、ソラの目が瞑鬼に何かを告げる。アヴリルはこつんこつんと肘で合図していた。


小屋を見やる。身体が強張った。ほんの一瞬だけ、時間が切り取られてしまったの如く瞑鬼は止まっていた。


その目の先。走れば何秒かで着けるその場所に、彼女はいた。中国風の装いで、パイプなんかも吸っていて。決め手は二つのお団子だ。そこから垂れたおさげの髪も、嫌に鮮明に思い出せた。


「……明華……」


気がつくと、瞑鬼は敵の名を口にしていた。昨日感じた、明美と同じ匂い。魔女の匂い。それらが記憶の中を逆流し、今の瞑鬼の鼻腔を抜けてゆく。


裸眼で一以下の視力、それでも見ることができた。分かることができた。だから、瞑鬼はそこにあるはずの違和感を抱いていた。


明華は間違いなくいる。そして瞑鬼たちに気づいてない。ソラの魔法はほぼ無敵。触れられるか音で聞き分けるかしないと、絶対に位置を特定されない。


瞑鬼はただ不思議だった。なぜ魔女がここにいるかではない。なぜ魔女が、ここに一人しかいないか、だ。敵は三人、あるいはそれ以上。そのはずなのに、家の中を含めて居るのは明華だけだった。


まさか千紗のマンションに?そんな不安が胸中を燻る。しかしあの近くには夜一も英雄もいる。それに、千紗の親父さんが情報を漏洩してない限り、あそこを見つけるのは地元以外じゃ無理だろう。


じっと握ったソラの手が、ふるふると震えていた。恐怖か緊張か、それとも単なる熱中症か。どれであっても最悪だ。


「……ソラ」


怯えるソラに、元気付のつもりで一言。ソラはまるで何事もなかったかのように顔を上げる。

何かが引っかかっていた。いつの話だっただろうか。今日の朝?昨日の夜?夜一から聞いたような気がする。


気がつくと、足元には一匹の蛇。毒がありそうでもない。そして好戦的でも。ただチロチロと舌を出して、そこいらにいる小虫でも狙っているのだろうと。


だから一瞬だけ、何の思惑もなしに放っておこうとしてしまっていた。だが気づいたのだ。蛇が舌を出している理由を。


「…………くっそ!!ソラ!アヴリル!」


名前だけを呼び、二人の注意を引き付ける。その瞬間、瞑鬼は魔法回路を展開していた。顔に細い神経が浮かび上がる。漆黒の粒子が、音もなく溢れ出した。


その刹那後、周りにあった茂みから、突如二人の魔女が飛び出した。真っ白なドレスに身を包んだマーシュリー、サリーをまとったルドルフ。二人の身体からも、既に魔力は溢れていた。


視界の端に映ったのは、遠くでほくそ笑む明華の顔。全然ぼやけて見えないが、それでも喜んでいるというのはわかる。


野生動物もびっくりな、魔女二人の身体能力。木々の間を蹴って舞い、三人の意識を撹乱させている。


このままじゃ瞑鬼は殺され、魔女っ子二人は連れ戻される。そう思ったからなのか、瞑鬼は第一の魔法の構えをとっていた。こんな真昼間に効果があるのかはわからないが、他の三つよりは遥かに意味がある。


稀代の横綱が行うような、気持ちのいい柏手。森の中まで音が響き渡るように、瞑鬼の両手がぶつかり合う。瞬間、太陽にも似た光が辺りにいた人の眼を灼いた。瞑鬼の魔法回路展開を見て眼を伏せていた、ソラとアヴリルも一瞬視力が奪われる。


対策を練っていたとは言え、瞑鬼のこの魔法は現実防ぎようがない。それに、魔力で目の神経を強化していた2人なら、尚更のことだ。


現在の戦況がどうであるなんて全く気にもせずに、瞑鬼はちびっ子たちの手をとる。そのまま魔力を全開、森を突っ切ることだけを頭に置き、全力で駆け出す。


も、それは明華によって遮られた。地面から出てきた何十メートルもある糸が、手を握っていた瞑鬼の左腕を切断。痛いの一言を上げる間も無く、ルドルフとマーシュリーが行く手を断つ。


そのまま瞑鬼は右へ、ソラたちは左側へと別れて逃げ出してしまった。残念なことに、瞑鬼側についてきたのは未だ戦力が未知数のルドルフ。ソラたちの方にはマーシュリーが。


「…………くっそぉ!!」


みなさんは得意ですか?隠密ゲー。

僕は苦手です。どうしても敵に見つかりにいって、戦闘しちゃう傾向があるんですよね。

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