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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
逃亡の魔女編
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果たしてどちらが強いのか

瞑鬼は権力、夜一は健力。さて、一体戦ったらどっちが勝つんでしょう。


ぎりぎりと詰め寄る二人。内心ビビっている瞑鬼とは違って、最悪夜一は遠慮なく殴ってくるだろう。間違いを正すためなら、彼はそれができる人間だった。


くだらない仲間割れをしている場合ではないと、二人だってわかっていた。だが、瞑鬼は他人に助けを求め、ソラたちを危険に。夜一は一人で解決に動き、結果を残せない。二人ともの意見が正しくないから、議論に決着なんて着くはずがない。


「このまま魔女を放っておけば、いずれハーモニーが解決に乗り出す。だったら少しでも被害が出る前に、頭下げるのが一番いいだろうが!」


「だから!それでこいつらに何かあったらどうすると言っているんだ!英雄が信用できるのか!あぁっ!」


「……っ!そん時は、俺が一人で海の外にでも連れ出してやんよ!」


この歳の、さらにこの状況の野郎二人の意見が食い違えば、話し合いなどで歯車が元に戻るはずもなく。次第に言い合いは白熱し、気がつくと瞑鬼も夜一の胸ぐらを掴んでいた。


身長百八十弱の夜一と、七十後半の瞑鬼。並んで立つと、その体格の差は歴然だった。


このままでは殴り合いが始まる。夜一がキレた時の危険さを知っている千紗が一番最初に。日本語がわからずポカンとしていたソラたちも、飛び交う怒号から只ならぬ事態だと悟った。


「…………貴様は……!」


シミひとつないフローリングに視点を落としながら、夜一が肩を震わせる。


「貴様は!なぜいつも……っ!!」


遂に夜一の右手がふりかぶられた。あんなのに殴られたら、下手したら頬骨が砕け散るだろう。


身の危険を察して離れる千紗。二人の動きを止めようと、瑞晴が魔法回路を展開する。


「るっせぇぞクソガキ共!」


怒号が飛んだ瞬間、雷でも落ちたかのような轟音が部屋中に反響する。


それを最初に止めたのは、他でもない陽一郎だった。二人の頭を鷲掴み、テーブルに叩きつけている。


さしもの夜一と言えど陽一郎の力に逆らえるはずもなく、必死に体をバタつかせている。対して瞑鬼は完全に沈黙。一撃で落ちたのだろうか。


「ごちゃごちゃ喧しいぞ!お前ら一回原点戻って考え直せ!」


最後に二人の頭に拳骨を打ち込むと、陽一郎は台所へと消えていった。水を飲む音が聞こえる。


しんと静まり返った部屋の中。ソラたちもなんとなく話の展開を察しているのか、申し訳なさそうな顔で二人を見ている。


陽一郎が二人にはなった一撃。頭をテーブルに打ち付けるという古典的な方法だが、余程こたえたらしい。咄嗟に硬化を使った夜一でも、起き上がれたのは五秒ほど経ってからだ。


「……おい瞑鬼」


一度頭の血を降ろされたからなのか、今度の夜一の口調は優しいものだ。夜一と言えど、自分が余計にヒートアップしてたことは理解しているらしい。


「…………わかってるよ」


対する瞑鬼も、咄嗟に魔法回路を展開し魔力でダメージをカット。ほんのりコブができるくらいに威力を抑えていた。


僅かばかりの距離、しかし、今度その距離は落ち着いた空気で詰められた。


「……すまんな。俺ら、だった」


「……俺も謝ろう。結果を残せてないやつの言えたことでは無かったな」


若干ぎこちないながらも、一応和解は成立したらしい。二人してため息をついて、頭をさすっている。


まさかそんな所で喧嘩が起こるとは思ってなかった女性陣。特に瑞晴からしたら、二人の争いはさぞかし見難いものだっただろう。彼女とて、求めているのは日常系なのだ。


少し傷ついたテーブルを誤魔化すためにクロスなんかを敷いて、腹も減っただろうという事でお昼ご飯。今日のメニューはアヴリルお手製のサンドイッチだ。拙いながらも具を詰めたのが伝わってきて、何だか部屋はほっこりとした気分に。


食べ終えると、午後からの作戦を考えつつ一服タイム。暫くすると、英雄から瞑鬼の携帯に連絡が。何でも、あっちも昼飯を食べるから、来るのは一時過ぎになるとのこと。


テレビから流れるお昼のニュース。世間はもう魔女のことを忘れたのか、どっかの議員の不正なんてどうでもいい番組しかやってない。


表面上は謝ったはずなのに、二人の間には若干の溝があった。皿に伸ばす手がかち合う度に、一瞬だけ指先が強張っている。


そんな気まずいランチタイムも終わり、洗物も終わるといよいよ本格的な作戦タイム。この街にいるかどうかすらわからない魔女たちの行方を、ソラたちの情報と推理のみで追わなければならない。


「……なぁ、思ったんだが、この街の外ってことは無い?」


「……多分ないですわね。あの人たちの狙いは私たちなんですから、わざわざ遠くに行くのは非効率ですわ」


「……最悪野宿とかしてるかもしれません。基本的に向こうでそういう訓練はしてますから、水と食べ物さえあれば建物なくてもたぶん……」


ソラたちから出て来る情報も、決定打にはなってない。この魔女っ子たちはあくまでまだ子供。日本に来た際の拠点候補地を教えてもらえるほど、魔女特区にとって重要人物ではない。


だからと言って、ハーモニーの協力は神峰勢力が限界だ。だから瞑鬼たちは頭を悩ませていた。


どこからか地図を引っ張り出して来て、洗いざらいポイントを照らす。どこも午前中に見て回った場所ばかり。もし本当に野宿なのなら、探すのはほぼ無理と言っていいだろう。このまま長期的な守りの体制にはいれば、圧倒的戦闘力不足な瞑鬼たちが不利なのは明らかだ。


「……陽一郎さん。店の方はどうなりました?」


いい加減考えるのが嫌になったのか、一抜けた瞑鬼が陽一郎に質問。爪楊枝を咥えてソラたちとトランプをしていた陽一郎が答える。


「あぁ……、まぁアレだ。魔女関連の話は警察がうるさくてな。ジジイの口添えあっても、現場検証やらがな」


「……いつくらいから再開できそうです?」


「……最低でも二週間ってとこだな。あの魔女がぶっ壊した棚が中々手に入らなくてよ」


雛壇状になった果物棚。恐らくは陽一郎御用達の家具屋で買ったのだろう。木製で量産という感じでも無かったし、そのくらいはかかるかもしれない。


警察やら、果ては政治やら。瞑鬼は改めて自分たちが大きな渦の中に居るのだと悟る。失敗すれば、瞑鬼が死ぬだけでは責任を取れないだろう。そのくらいに、事は深刻を極めるのだ。


ふと、瞑鬼の頭に何かが引っかかる。霞みがかった森の中、見えて来たのは一軒の小屋。


まるで事件のヒントを喉までだしかかった刑事のように、さっと立ち上がる瞑鬼。ぶつぶつと独り言を呟いて、窓の際を歩いて回る。


「……そっか……」


まぁ、あれですよ。なんやかんや言っても、殴り合いにまで発展しないのが日常系です。

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