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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
逃亡の魔女編
169/252

酒と涙と男と嫁と

演歌が似合う男。

そんなのになりたいと思った次第です。


「……陽一郎、貴様は自分の年齢をちゃんと数えているか?生物学は知っているか?衰えと言うのはちゃんと頭に刻んであるか?」


すっかり夜も更けた午後十一時。千紗のマンションに集まった八人は、千紗の親父さんからお説教を受けていた。そして何故だかそれに、一番大人であるはずの陽一郎も含まれている。


瞑鬼たちが来るまでに交渉事態は終わっていたが、許したとは言え小言を言わなければ気が済まないのが中年男子。まるで極道のような威圧感を漂わせながら、みんなの前で仁王立ち。


「いやぁ、俺だって歳だし、無茶ってのはわかってたんだけどよ?アレだぜ?相手魔女だぜ?」


いつもは余裕な顔の陽一郎はどこへやら。千紗の親父さんに対してはどうも強気に出れないらしく、珍しく陽一郎は下手に出ている。


体育会系と理系は多分こういう絡み方をするのだろう。そんな事を考えながら、瞑鬼は降ってくる小言が耳を通り過ぎるのを待っていた。


「……筋繊維が二本だ。早く里見に診てもらっておけ」


「おぉ、前は5本はいったのにな。やはり俺もまだまだ若いってことか」


よく分からない会話を繰り広げる親父たち。様子と会話から察するに、どうやら陽一郎が怒られているらしい。そもそも二人に面識があったことに、娘たちは驚いている。


千紗の母が淹れてくれた熱々のお茶を啜って、ソファにちんと座る高校生。話が終わるまでは解放されないようだ。


流れてくる言葉を聞くに、千紗の親父さんは不動産とは別に、ハーモニーへの物資補給を行なっているらしい。つまりは、彼も自警団の一員だっと言うことだ。あそこにいる親父おふくろたちは、それぞれが家庭を持っている。子供がいるところは隠しているのが大半だそう。


まだまだ終わりそうにないおっさんの戯言を耳からシャットダウンし、若い衆の注目は瞑鬼へと向けられた。


「……怪我は大丈夫か?」


つい二時間前まで血をだらだら流していた夜一に、助けを求めるように話題をトス。ちゃんとレシーブする夜一。


「あぁ。千紗のお母さんが血流操作の魔法でな。全部カサブタになった」


そう言って、少しばかりグロテスクな傷口を見せつけてくる夜一。どうやら頭は撃たれてないらしい。


事態のほどを殆ど知らない瑞晴たちは、あの家の惨状を魔女の仕業だと思い込んでいるだろう。わざわざ真実を話す必要もないので、適当に誤魔化しに入る瞑鬼。一通り説明を終えると、そこは無音の空間へと回帰した。


初対面の大人の前で緊張しているのか、いつもならやかましい朋花、ソラ、アヴリルは血統書付きの猫のようにおとなしい。そしてそれは雑種の関羽たちも同様。


気を使ってなのかお袋さんが千紗に話を振るも、返ってくるのは生返事。事の緩急があまりにもつき過ぎていて、千紗ですら追いつくのが難しい状況なのだ。


「……しかし、魔女が出るなんてねぇ。怖いわねぇ。そうじゃない?お嬢さんたち」


明るく笑う千紗の母。本人には何ら悪気はないのだろう。魔女の事をよく思わないのは、人間側なら当たり前のことだ。だから瞑鬼は思った。ソラたちが日本語を知らなくて良かったと。


流石は大人の女性だけあって、千紗の母は話術に長けている。この状況で切り出す勇気は、普通の高校生は持ち合わせていないだろうから。


しかし、その呼びかけに応えないソラたち。はっと気づいて、急いで瞑鬼が拙い英語に。


「話振られてるぞ、ソラ」


ぼーっとしていたソラに一言。それで気がついたのか、はっと我に返ったソラ。


「あ、ご、ごめんなさい。えっと……」


「あら、お嬢さんたち英語だったの?ごめんなさいね。見た目日本人だったから、ついね。そっちのとびきり可愛い子は……日本じゃないわよね……?」


「そうですわ。100パーセントフランスですの。……綺麗な発音ですのね」


「えぇ。仕事上海外の人とも良く喋るからね。フランス語もできるわよ」


ぎこちなくだが、ようやく話し声が場に響く。あっちの親父たちは酒が入り出してもう止められそうにないので、今はお袋さんに付き合うのが最適解だろう。


高校生組と朋花も交え、八人での下らない会話。不動産屋の奥さんだけあって、本当に千紗の母は話に事欠かない。やれ千紗昔話だの、夜一を初めて連れてきた時の事だのを、コメディー調に語ってくれた。


だが、こんな事態で何かを悟ってなのか、お袋さんはソラたちについてはなにも聞かなかった。唯一魔女特区出身ということだけ伝えたが、魔女っ子たちと言うことはまだ内緒。いつか正直に話したい。正直者なソラとアヴリルにとって、偽りを語るのは気がひけることだった。


話し込んでいると次第に夜も更けて、気がつくともう時計は日を跨いでいた。ここまで気丈に振る舞っていたソラも流石に中学生の限界がきたのか、うっつらうっつら舟を漕ぐ。


一応風呂にだけは入っておけという事で、先に女性陣が。のちに野郎が纏めてバスルームにぶち込まれた。広かったし世話になっている身だしという事で、誰も文句が言えるはずもなく。


幸いなことに飯は食っていたので、上がったら全員が即座に夢の世界へと。部活の合宿のように、タオルケットだけを腹に乗せて眠る瞑鬼と夜一。主人の匂いでも嗅ぎたいのか、関羽とチェルも瞑鬼の頭に。


女性陣はと言うと、鍵付きの寝室でベッドに五人が並んで寝るらしい。夜一が護衛につくと言う名目を付けて行こうとしたが、陽一郎からの圧力で断念。結局、陽一郎が扉の前に居座ると言う形で話はついた。


いきなりの戦闘で散っていった魔力を取り戻すため、瞑鬼も夜一も深い眠りにつく。いびきまでかいていては、朝が来るまで起きることはないだろう。


「……はぁ、これも誰かさんの遺伝かねぇ」


灯りの消えたマンションの一室。植物がいくつか置いてあるだけの簡素な廊下で、陽一郎は一人呟いていた。


胸元から下げたロケットには、最愛の妻の写真。奇跡的な笑顔を捉えた、陽一郎渾身の一枚だ。

桜和晴が魔女特区に行ってから約十年。その間は娘の成長を見ることだけが楽しみだった陽一郎も、ここ最近は新しい興味が増えていた。


瞑鬼が来て、朋花が来て。仲が悪いが関羽もチェルと上手くやっている。瑞晴にも明らかに笑顔が増えた。これまでの安定した生活も悪くないと思っていた陽一郎だが、流れる血までは変えられない。根っからの兵士脳である陽一郎は、何か枷が無いと自分を抑えれない。


兵士になった頃の自分を思い返す。和晴と出会った時のことを。今では随分と時間が経ったことのように思えるが、まだ二十年やそこらしか経ってない。人生の半分と少し。


「……ここ最近よ、瑞晴元気になったと思わねぇか?一年前なんて酷かったんだぞ?反抗期ってやつだな。野郎の俺にゃ思春期の娘は難しいもんよ」


ゴツい拳にロケットを収めて、陽一郎は空に呟く。月明かりだけで見る嫁の姿は、どこか儚げに映った。


陽一郎さんについてはあまり掘り下げがなかったので、ここらで一つと思いまして。

次回からしばらく続きます。陽一郎メイン回。

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