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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
異世界制覇、始めました
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異世界湯浴、極楽です②

進路を塞ぐものがなくなったので、瞑鬼は歩みを再開する。ものの十秒で風呂に到着。暴れる猫たちをよそに、服を脱衣所の籠へと放り込む。


睨み合う関羽とチェル。ぶつかり合う視線を見ていると、本当に火花が散ったような幻覚さえ見れるのではないか。そう瞑鬼は考える。そしてしばらく凝視。しかし、何かが起こるはずもない。


何をやっているんだという感想を胸の中にしまい、瞑鬼は扉に手をかける。


猫たちを床にリリースし、早速シャワーをつかむ。実に二日ぶりの温かいお湯は、汚れた全て洗い流してくれるとさえ思わせてくる。


こうして瞑鬼が安心してシャワーを浴びるのは、いったいどれだけぶりの話だろうか。中学校の時にしても、両親の不仲が原因でまともにゆっくりなんぞしたことがないのだ。それだけに、桜家の風呂場は、瞑鬼にとっては安らぎの場であった。


自分の体を洗い終えると、今度は猫の番だ。飼い猫にして毎日瑞晴と沐浴しているチェルは別として、関羽だけはなんとしても綺麗に洗わなければならない。それは瞑鬼に課せられた使命である。


「こっら、暴れんなよ」


必死に関羽を押さえつけ、何とかシャンプーで全身を泡立たせる。やはり、野生の動物というのはシャワーが嫌いらしい。これもまた、瞑鬼が本で得た知識の一つである。


爪を立てられないよう細心の注意を払い、なんとか泡を洗い流す。濡れた状態ではよくわからないが、恐らく乾燥したのちの関羽の毛並みは至福のときを瞑鬼に与えるだろう。


おやじ臭い声を漏らしながら、どぼんと音を立てて湯に浸かる瞑鬼。夏日の夜にまで湯を張るのは、神前家ではあり得なかったことである。


濡れたままの髪をかきあげ、瞑鬼は天井を仰ぎ見る。なんの変哲も無い、普通のタイルで囲われた、至極無難なものである。


「…………ほんとに、異世界なんだよな……」


ぼんやりと開いた目に、水滴が一つ、いい加減目を覚ませと言わんばかりに降ってくる。避ける間も無く直撃。軽い悲鳴が反響する。


「……なぁ、かん……う?」


何を思ったのか、瞑鬼は唐突に関羽に声をかける。しかし、いつも通りの甘ったるい鳴き声が返ってこない。それに、関羽の姿が風呂場から消えていた。


驚きの声が上がるより前に、瞑鬼の目は狭い浴室を見渡していた。しかし、目に映ったのは喧嘩相手をなくして目を丸くするチェルだけだ。どうやら、この数秒間の間に関羽は扉の外へと向かってしまったらしい。


「……まじかよ……」


放った声が壁を伝い、そのまま耳へと変換される。ここで一つ歌でも歌ったら、さぞ響き渡って臨場感が出ることだろう。


しかし、今の瞑鬼にはそんな事をしている余裕がなかった。もし関羽が一人で扉を開け、ふらっと風呂場を出ていったならば、それは考えうる中ではかなり上の部類になる。


唐突にに動物が消える。目を離したのはほんの一瞬だ。そんなことをできるとしたら、それは魔法以外にあり得ないと瞑鬼は踏んだのだ。それに、それが誰の使った魔法かわからない以上、警戒を怠るわけにはいかないだろう。


ひょっとしたら、瞑鬼をこの異世界に召喚した人物のご到着なのかもしれないのだから。


しかし、待てど暮らせど誰かが来る気配もなく、関羽が戻って来る様子もない。これで、一人で出ていったという瞑鬼の考えは湯気の中へと溶けたことになる。もしそうなら、今頃瑞晴から何かしら台詞があるはずだ。


「おーい、関羽ー」


声を上げるも、返ってくるのはチェルの寂しげな声だけ。そのことにいい加減不安が隠せなくなったのか、徐に瞑鬼は立ち上がる。


しかし、その直後に瞑鬼の目は異変を捉えていた。洗い場に置かれた数種類の風呂用具たち。本来ならば一つしかないはずのシャンプーが、次の瞬間には二つに増えていたのだ。


「……え?」


瞑鬼とて、一回使っただけで他人の風呂にある全ての用具を覚えられるはずがない。しかし、ことシャンプーに至っては話が別だ。なにせ、夕食の際に瑞晴に散々言われたのだから。神前くんはお父さんのシャンプー使ってね、と。


二つしかないから、安い方を使え。そのことは理解できる。しかしそれは同時に、風呂場にあるシャンプーは二つきりということを証明している。


だが、現状瞑鬼の目の前にあるのは三つのボトル。突然瞑鬼が複製の魔法を発現したか、または誰かの幻覚にかかった可能性もある。


「……魔法、だよな……」


もしこれが仮に、誰かの魔法だというのならば、瞑鬼は攻撃を受けていることになる。瑞晴と陽一郎が二つ持ちという情報もない今、考えられるのは危ない選択肢ばかりだ。


ごくりと喉を鳴らし、瞑鬼はゆっくりとそのシャンプーへと手を伸ばす。高級な方の瑞晴シャンプーは増えていない。安い陽一郎が使っている方が二つある。

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