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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
逃亡の魔女編
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英雄と悪役

危機を覚えた時にだけ、毎日更新に変身します。


閉じられた鉄の扉をこじ開ける。その瞬間、痛いくらいの殺気が瞑鬼たちを襲った。出どころは確認せずともわかる。今この場で、これほどまでに気合を入れている人物。英雄以外にいるはずがない。


「まだ十分前だけど、割と早かったね」


余裕綽々といった顔で、英雄は待っていた。バスケットコート二つの間にある、少しの空間。天井にあるゴールを下ろしたら、ちょうど真ん中に来るような位置。そこで仁王立ち。


来る前は自身があった。英雄がいくら実践を積んだ戦士であったとしても、実際に死んだことのある瞑鬼の方が殺意を持っていると。

だが、少なくとも今目の前にいる人物、神峰英雄という、女神でハーレムを作っているような男には瞑鬼の考えは通じない。強いだとか、天才だとか。そんな言葉では表現しがたい何かを、英雄は持っている。


取り決め上はただの学生の喧嘩であるはずなのに、今日のおっさんたちは随分とギャラリー感がすごかった。狭い二階に上がり、手すりに体重を預けながら瞑鬼たちを見ている。

向けられているのは好奇の目ではなかった。もっと単純な、古代ギリシャの戦士たちが決闘するのを見るときのような。


「……柏木くんは?」


「……まだ総合の試合があるんで、後から来ます」


「……そう。あぁ、その大会ね、生徒会の満堂ってやつも出てるんだよ。多分、柏木くんと同じくらいの階級だったはず……。それに、空手部とか少林寺とかもでてたしね。昨日は観れたんだけど、まぁ。あ、終わったら一緒に行く?」


さすがは生徒会長だけあって、コミュニケーション能力は抜群のようだ。瞑鬼の一番苦手な事を、五人相手に容易にやってのけている。


しかも、英雄の凄いのはそれだけでない。何でも夜一曰く、前年度の大会は英雄の圧勝だったそうだ。今年は参加禁止になって、仕方なく観客側に回ったのだから。

全てが完璧な人間。瞑鬼とは対照の人間。恨みも憎しみもない。だが、瞑鬼はこの会長のことが嫌いだ。心の底から。


「……もう、いいですか?」


爽やか笑顔で澄んだ声の会長トークを遮り、濁った目の瞑鬼が告げる。


「……あぁ。もういいようだね」


瞑鬼たちの覚悟が決まったことを察したのか、英雄が軽やかな口調で言う。その間も射殺すような殺気は止められない。

今朝の瑞晴曰く、英雄の魔法は不明らしい。瞑鬼たちもネットなりで調べたのだが、情報は全くといっていいほどなかった。規制されていると考えるのが正しいかもしれない。


英雄の魔法を求めて一時間。瞑鬼たちが得られたのは、神峰勢力の一人であるユーリと満堂という人の魔法の情報だけだった。


「ルール確認、いいですか?」


これは殺し合いでも決闘でもない。ただの試験だ。瞑鬼たちが本当に単独で魔女狩りを行う力があるのかを見極めるための。

だからこそ何よりもルールが大切。ここで怪我をして、マーシュリーたちと戦えませんじゃあ、あまりにも間抜けな話。


「……そうだね、昨日のやつでもいいんだけど、どう?」


夜中に決まったその場のルール。確か、英雄が痛いといったら負けというもの。


「……いや、変えときます」


「そう……それじゃ、自由に決めていいよ。まぁでも、動いたら負けとかなしね?そこら辺は、アレだね。スポーツ的な観点でさ」


真剣な顔の瞑鬼たちを前にしてもなお、英雄は口元の緩みを抑えない。それが英雄なりの流儀なのか、それともただ単に挑発しているだけなのか。今の瞑鬼たちでは、それを理解するのは困難だった。


瑞晴と軽く目を合わせる。こうなる事を予測して、すでに瞑鬼たちは勝敗の条件を作ってきていた。

校庭の木によじ登り、気が狂ったように泣き続ける蝉。その蝉を狙ってなのか、金雀が随分と集まっているようだ。


拷問のような日差しの中にこうも長時間夜一を放り出しておいては、後からの恨みが怖い。瞑鬼は早々に覚悟を決めると、警戒されるのも御構い無しに英雄の間合いに踏み込んだ。


「俺らのうち、誰か一人でも校舎の外に出たら負けでいいです」


「……強気だね」


「まぁ、あんたが瑞晴と千紗掴んで、外に放り出せるんならの話ですが」


「…………」


「んで、あんたは魔法を使ったら負け。どうです?」


なるべく最悪な形で、印象を悪くするように。


瞑鬼にとって、学校での繋がりなど希薄もいいところだ。同じところで背中を預けるわけでもないものに、好かれる必要などない。

だから敢えて瞑鬼は嫌われようとしていた。一見経験豊富そうな英雄とは言え、まだ高校生なのも事実。こんなにも理不尽な敵意を向けられたことは少ないだろう。


挑発的な目。澄んだ眼差しの英雄とは対極的に、瞑鬼のそれは人を見る目ではなかった。だが、そんな瞑鬼が相手でも英雄は怖気付く様子はない。

少しの間の沈黙。重っ苦しい空気が二人の肌を撫でて行く。この暑い中、あまり夜一を外に出しておくのは忍びない。瞑鬼といえど、一応は仲間の身は気にするのだ。


「……あぁ。それじゃ、そのルールでやろうか」


「ちょっと、いいですか?英雄さん」


早速臨戦態勢に入ろうとした英雄。その言葉を遮るように、瞑鬼が強引に割って入った。

こんな無礼な後輩相手でも、英雄は先輩として振る舞うのを忘れないようで。特に考えることもなく返事する。


「俺が魔女特区出身って事知ってますよね?」


「……あぁ」


「……なら、あっちの流儀でやっていいですか?」


瞑鬼の発言に対し、当たり前だが英雄ははてな顔だ。会話だけ聞いていた瑞晴たちも、その意味は理解できてない。


瞑鬼は抜かりなかった。不利ならば不利で、実力の差を埋めようとしているのだ。

普通ならこれは考えものだろう。さしもの英雄とは言え、得体の知れない慣習になど興味を示さないかも知れない。そうでなくとも、瞑鬼の策という可能性が高い。瞑鬼としては、英雄が乗るかは五分五分だった。


「……決闘前の儀式、って感じかな?」


乗った。瞑鬼の直感が告げる。


「えぇ……。魔法回路開いて、お互いの魔力を交えるんですよ。アレです。相手に敬意を払うってやつ」


完全なデマである瞑鬼の話にも、偶然どこかに真実味が含まれていたのであろう。これだけのワガママも、英雄はあっさりと承諾した。


後ろの方から、うわぁという声が上がる。きったね、というもの聞こえた。どうやら瑞晴と千紗は、これが反則スレスレの策だと気づいているらしい。

二人が足を踏み出す。英雄の顔に、細い神経のような模様が浮かび上がった。気孔から魔力が溢れだす。その量は大器の如し。


本当にただの人間であるのか。ただの人間じゃない瞑鬼がそう問いたくなるくらいに、英雄の魔力は膨大だった。【改上】で魔力が平均の4倍となった瞑鬼と比べても、まだ少し多いくらいかも知れない。

大気が軋む。体育館全体に英雄の魔力は行き渡り、明るかった日差しが姿をくらませる。


さて、英雄さんの実力やいかに。

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