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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
逃亡の魔女編
153/252

実はお嬢様

今から行くのは千紗の家です。ちょっとだけキャラの掘り下げ回ですね。



中島千紗の家は、大体学校から自転車で十分のところに位置する、高層マンションのまるまるワンフロアだ。全国で支部が5件ほどある中島不動産社長の家だけあって、一部屋一部屋はなかなかに広い。普通のホテルのような間取りのLDK。大人が寝転がれるようなバスタブ。娘の部屋としてまるまる一邸など、如何にもな金持ちといった暮らしぶりが目につく。


当たり前だがマンションの入り口はオートロック。それも、鍵認証と指紋声紋の三重構造で、二十四時間の監視カメラも設置されている。

都会でもないのに無駄に豪華なその建物の前に、六人の青年たちがいた。一人は社長令嬢である中島千紗。残りはそのお供たち。


たった一つ街を過ぎただけなのに、一度たりとも来たことがなかったセレブ空間に、瞑鬼は早速息を巻いていた。中国のど田舎で育ったソラたちも同様。これまでに見て来た建物の中で、最上級と言っていいだろう。

観葉植物が立ち並ぶ前庭を通る。一面が人工的に緑緑しい。マンションというよりかは、ホテルといったほうが近かった。


「……マジでここなのか……?」


「……千紗さん……、有錢人おかねもち……」


「声出さないで。怪しまれるから」


どうにも貧乏性が抜けない瞑鬼と魔女っ子。夜一と瑞晴は何度か来たことがあるので慣れたものらしいが、初見の人間には不釣り合いを具現化されたような感じだ。


そうでなくとも、今はもう12時を半くらい回っている。そんな夜中に高校生の集団が来たら、どう考えても警戒されるだろう。

いつでも逃げる心構えをしつつ、瞑鬼は大きな自動ドアの前に立つ。そばには何やらパネルがあり、多分あれで家の人を呼ぶのだろうと推測。

怪しまれぬよう、千紗がいつものように警備員に話しかける。いやぁ、遅くなっちゃいました。そうですか、無事で何より。


至って普通の会話。不自然さなんてどこにもない。よくこんな事があるのか、警備員さんは慣れた対応だった。大方夜一と夜中にツーリングでも行くのだろう。

堂々と扉の前に立って、馬鹿でかい建造物を眺めているのに、瞑鬼たちには誰の目も向けられていなかった。対面上にいるはずの警備員さんですら、瞑鬼たちと目を合わせていない。


「……暑くない?」


蚊の鳴くような声で囁いた瑞晴。額にはじんわりと汗が浮かんでいた。この分だと、ソラたちも同様だろう。着いたらとりあえずはシャワーを浴びたいところだ。


ふいー、と息を吐く瑞晴。確かに暑かった。だが、それは瞑鬼も瑞晴も夜一もソラもアヴリルも。千紗以外の全員が感じている事だ。

少し冷たいソラの手が、手汗の滲んだ瞑鬼の手を握っている。左手にはソラ。右手には瑞晴。まさに両手に花だ。

千紗が早々に話を切り上げたのか、いそいそと玄関の前へ。慣れた手つきでパネルを操作し、親父さんを呼び出す。普通こんな時間に娘が帰って来たらブチ切れそうなものだが、流石は高校生の娘にバイクを許可するだけあって、親父さんは寛容だった。


ごめんごめんと謝る千紗。瞑鬼たちには会話は聞こえない。

少し待っていると、自動ドアが音もなく開く。圧巻にとられながらも、門をくぐる瞑鬼たち。夜だけあって廊下は暗いが、それでも目に優しいくらいの灯りが灯されている。


静まり返るマンション。一時前にもなれば、至極当たり前とも言えるだろう。イメージとしては、こういう高価そうなところに住むのは万年夜中まで働いている社長などだが、案外本物の人たちは時間をきっちり守って行動するらしい。

床には絨毯が敷かれ、壁は落ち着きのある日本風な木造。入り口を入ってまっすぐ行くと、そこにはでっかいエレベーターもある。一階には住民の部屋はないらしく、コンビニや各種専門店のようなものが多かった。


「おかえりなさいませ」


ぼーっと突っ立っていた瞑鬼の耳に、ふと男性の声が入る。見ると、受付にいた人からだった。

しかし、その人の目は瞑鬼を見ていない。瑞晴でもなく夜一でもなく。普通なら目につくはずの大人数よりも、千紗の方に目が寄せられている。


「あー、ただいまですー」


気だるげにそういうと、くるりと踵を返しエレベーターに乗る千紗。締まりきる前に瞑鬼たちも急いで駆け込んだ。

高級そうな扉が閉められ、押されたのは十五階のボタン。最上階まではあと二層だった。


暑っ苦しい筈の外。しかし建物の中はエアコンが効いており、至極快適だ。まるでホテルのような在り方に、感嘆の声を上げそうになる瞑鬼。

マジックミラーで構成された、ガラス張りのエレベーターが上がってゆく。特有の気圧の変化を感じ取り、思わず瞑鬼が声を出した。


「……すげぇな」


「あ、ちゃんと乗ってたのね」


「……まあな。流石に階段は勘弁」


「……もう解いていいよ?」


「…………おう」


千紗の許可と同時に、何もなかった筈の空間から、瞑鬼たちの姿が現れた。

改めて自分の目の前で起こった事実に、千紗は目を丸くしている。それも無理はない。なにせ、瞑鬼たちは今の今まで誰からも姿を見られなかったのだから。


「……それで、神前くん、いつ【改上】したの?」


「…………魔女にやられた」


瑞晴からの白眼視を受け流し、瞑鬼はそっぽを向く。へそくりがバレた旦那のごとく、明後日の方向を一人じっと。ものの何秒かで諦めた瑞晴。

眼下に広がる街の景色。そこそこの田舎なのにも関わらず、ちらほら灯りがついている。


点々と続くそれらを眺めながら、瞑鬼は必死に頭を働かせていた。側から見たら、ただ単にぼんやりと外を見る人。だが、脳内を駆け巡る戦略と交渉術とは既に高校生のそれではない。


ゆっくりと上がってゆくエレベーター。金持ちは焦らないというが、こんな所まで忠実にそれが再現されているらしい。この分だと、あと1分ほどはかかるだろう。

ふと目を下げると、隣にいたソラと視線がかち合った。一目見ただけでは分からないが、本人は疲れている模様。

みんなが無事にエレベーターに乗れたのは、全てソラのおかげだった。瞑鬼は情報を持っていただけだ。ソラの魔法が手を繋いだ人間全てを透明にする魔法だという、口頭で聞いた情報を。


瞑鬼たちがいる事を知られては、親父さんが入れてくれない可能性もあった。インターホンのカメラは結構な範囲が映るらしい上に、警備員さんもいてはやはり見えなくなるしかなかったのだ。


ただ、ソラが魔女で魔法を使えると知っているのは瞑鬼と夜一だけ。だからソラが魔法を発動するところは見られるわけにはいかなかった。そこで、瞑鬼が先に一緒に透明化し、瞑鬼の魔法ということにしたのだった。丁度よかったというのは適切だろう。【改上】が無ければ、こんなにスムーズにはいかなかった。


金持ちが一人いると、一気に動きやすくなりますよね。みなさんには居ますか?学生の分際で何万と課金するご友人。

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