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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
逃亡の魔女編
152/252

交渉、そして決裂

ちょい短めです。


甘えたような声で親父さんを説得する千紗。しかし話は難航しているらしく、顔には余裕がない。こんな時間にいきなりと言うことを考えれば、ごくごく当たり前のことだった。

何もできない瞑鬼。黙って見ている夜一。祈ることだけな瑞晴。三人が三人、自分に無力感を抱いていた。どれだけ腐っていても、強くても、生き物に好かれるとしても、今必要なのは金。何事においても、先立つには地位と金がいる。


「……わかった。わかったから。はい。ごめん……」


激しかった説得も終わり、千紗がスマホを握りしめる。結果は聞かなくてもわかった。こんな急展開だ。むしろ、理解しろと言う方が無茶な話だったのだ。


「……ごめんみんな。仕事じゃないからダメだって」


「……いや、無理言った俺らが悪い」


しゅんとして俯く千紗を慰める夜一。唯一と言っていい希望が断たれた今、もう頼れるものはなかった。

吉野家が一瞬だけ瞑鬼の頭に浮かぶも、電車がないので行きようがない。その他何個が出てきたアイデアも、実行するには不可能なものばかり。


当てもないまま街を徘徊せる瞑鬼たち。都会でもないこの町には、二十四時間の満喫なんてあるわけがなく、カプセルホテルも簡単には見つからない。

いつの間にか時間は過ぎて、気がつくともう日をまたいでいた。英雄と取り決めた、明日の決闘は一時ジャストから。寝ないまま突入して勝てる相手ではないのは、マーシュリーとの戦いぶりを見ていれば十分に分かることだった。

そうでなくとも、瞑鬼たちはただでさえ疲れている。かたや魔女に殺されかけて、片や魔女を撃退して。もう魔力も底を尽きている。


「……私一人なら簡単に他の部屋入れるんだけどねー。鍵も貸してくれるし。でも六人もいると入り口厳しいな……」


よほど疲れがたまっているのか、千紗がぶつぶつと独り言を漏らし始めた。確かに一人だけなら簡単だろう。親父さんだって、娘だけの我儘なら聞き入れる。

窓から侵入。それも手の一つだろうが、見つかった時のリスクが大きすぎる。それに、千紗の家はオートロックのお高級たかいマンション。高層に縄をかけて入れるほど、セキュリティは甘くない。


「……なぁ、さすがに家の中にはカメラとかないよな?」


千紗のつぶやきに反応するように、瞑鬼が質問を投げかける。


「……え?まぁ、そりゃないよ」


「部屋の鍵はいくつある?」


「……何?怖いんだけど」


「防音は完璧か?フロアごとに出入りの制限なんかはある?」


怒涛の瞑鬼の質問ラッシュ。意図が読めてない千紗からしたら、自分の家のことをグイグイと迫られている気分だったことだろう。不審者扱いも至極当然。

不思議な顔をする瑞晴に、瞑鬼を訝しげに睨む夜一。ソラとアヴリルでさえ、若干距離を開けていた。だが、何かに気づいたのか、ソラも一歩前に出る。


「教えてください、千紗さん」


「たのむ」


二人して頭を下げ、千紗に請願。そこまでされては、さしもの千紗も投げっぱなしにはできなかった。


「……えっと、鍵だっけ?まぁ、普通に一個と、管理人室にマスターがあるよ。防音は確か完璧だったわ。去年瑞晴来た時に騒いでも、一個も苦情来なかったし。最後のは知らない」


そそくさと要点だけまとめると、千紗はさっさと夜一の影に隠れてしまう。どうにも千紗は考えの読めない瞑鬼を警戒する傾向にあるようだ。

確認が取れたところで、一旦声が届かないくらいまで離れた二人。夜一ですら理解不能な瞑鬼とソラの思考は、当たり前だが誰もわかっていなかった。


「……いいな?俺のってことに」


「……はい」


誰でも憧れるシチュレーション。耳打ちという最高演出を、瞑鬼は何でもない話に使ってしまった。鼻腔をくすぐるふわっとした女の子特有の匂いも、暗がりで見えないはずのソラの顔も。どれもが瞑鬼の煩悩を刺激する。が今はそんなあらぬべき思考を巡らせるわけにはいかなかった。


身体のうちから湧き出してくる欲望を、全開の理性を持って封印。今するべき作戦を考え、そこだけに頭を集中させる。

一通りソラとの確認を済ませると、何事もなかったような顔でみんなの元へ。多分アヴリルが理解しているっぽいが、それも怪しいところ。理解のりの字もしていない三人には、今からゆっくりと説明するつもりだ。


「……んで、なに?」


こそこそと内緒話をする瞑鬼が気に食わないのか、千紗が若干イラついた口調でたずねる。ただでさえ今は0時過ぎ。お肌のハリを気にする女子高生にとっては、もっとも眠りたい時間である。


今から千紗の家に行ったとして、最低20分はかかるだろう。いつもならそれほど苦でもないが、今日の疲労は今まででもトップクラス。気力だけで身体を支えるのも、そろそろ限界が近い。


川原を過ぎる、夏の生温い風をほおに感じる。慣れたはずの青臭い匂いも、周りが暗けりゃ少しは変わる。


「あー、その、ちょっと心苦しいけど、いい方法思いついたから。聞いてくれ」


「…………ふむ」


「……どんなですの?」


蒼天の元で語る瞑鬼。水面に映ったその影は、何とも情けない男のそれだった。



こういう、バトルでも日常でもない感じの、どっかでありそうなシチュレーションが大好きです。

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