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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
逃亡の魔女編
151/252

長いものなら絞め殺す

設定資料とか考えてみるも、ぜんぜん書くことがない模様。


闇夜の中でも流石は英雄。飛来した黒い缶を見逃すことなく左手で。しかし、それと同時に視界の下には瞑鬼の姿があった。


なるべく激しく、英雄の胸ぐらを乱暴に掴む瞑鬼。道端のヤンキーのように顔を近づけ、暗闇でもお互いの目を視認できる位置につく。


「……いつか一度だけ命を救う。それで貸りはチャラだ」


「……マジで君らだけで?」


「……もしできたら、二度とソラたちに関わらないでくれ。それが条件だ」


「…………ワケありってやつか。まぁ、魔女狩りの仲間が増えるのは反対じゃないし」


英雄の了承が取れたところで、ようやく瞑鬼は手を緩める。思い切り絞めあげようとしたのに、体幹がしっかりしているのか英雄は全く動かなかった。

薄暗い光で照らされた二人。殺気を剥き出しの瞑鬼に対し、英雄は至って冷静だ。かつてないほど頭が爆発しそうな瞑鬼と、いつも通りに任務をこなす英雄。どちらが有利かはまだわからない。


「でもまぁ、俺としてもあんまりの弱者を前線に置きたくなくてね。判断はフレッシュの実力を見てからかな」


心底どうでもいい英雄の提案に、瞑鬼は首を縦に降る。了解は得た。これで瞑鬼たちは大手を振ってソラたちを連れて歩ける。

英雄は実力どうこう言っているが、夜一が戦力として役に立つのは周知の事実。瑞晴と千紗はそもそもが白兵戦をする前提ではないので、実力とは言っても頭くらいだろう。とうの瞑鬼も、魔力だけなら折り紙つきだ。


あんまり長いと妙な憶測を立てられるかもしれないので、二人は保健室に戻ることにした。瞑鬼からの熱意がこもったプレゼントを一瞬で飲み干す英雄。連続で二杯は腹にくるらしい。

明かり一つない階段を昇る。そこそこの人がいるはずなのに、保健室からは一つの声も聞こえなかった。


「……明日の昼でどう?」


「……陽一郎さんに聞いてからですね。まだ社会人なんで」


陽一郎とてハーモニーの一人。英雄の一声があれば、多分臨時の休みくらいくれるだろう。

ぱったんぱったんやかましいスリッパの音を鳴らしながら、鉄のドアノブに手をかける。少し軋んでから、扉が開かれた。


「早かったね、英雄」


入って一番に声を発したのは、神峰勢力の一人であるユーリ。フィリピンと日本のハーフらしく、顔面偏差値は驚異の七十を叩き出している。


室内を見渡した瞑鬼の目に映ったのは、未だしょげた顔をしたソラとアヴリル。それに付き添いながら、無理やりの笑顔を浮かべる瑞晴だった。

陽一郎も状況を聞いたようで、里見と一緒に渋い顔で座っている。鉛のような空気で満たされた保健室。何度願っても、どれだけ時間が経とうとも、フィーラの目は冷める気配がない。

今瑞晴たちに心配をかけるのは得策じゃない。瞑鬼は適当に椅子に腰掛け、いかにも話し終わりました感を演出を醸し出す。重っ苦しい空気が肺に絡まり、息を吸うのも一苦労だ。


不思議なくらいに、みんな冷静だった。慣れているであろうハーモニーの連中は置いておくとして、問題なのは瑞晴と千紗の心の強さ。少なくともこの子たちの存在を知っていた二人。フィーラが殺されるのを間近で見ていた二人。

普通の女子高生なら、覚悟も決められずに泣きじゃくっている姿がお似合いのはずなのに。瑞晴の目からは一行の涙も流れていない。


「……フィーラちゃん、だっけ?彼女の遺体はこっちで埋葬していい?」


静かだった室内に、主である里見の声がゆるりと響く。反応したのは瞑鬼。


「……どうする?ソラ」


「…………對你請求おねがいします


「丁寧におねがいしますわね」


ええ、もちろん。里見は言った。一応は医者である彼女なら、そう悪いことにはなるまい。

異国の地で眠るのはフィーラにとっても不服の事態だったことだろう。だから瞑鬼は誓う。全てを清算して、せめて二人だけは必ず救うと。


これ以上ここにいても、誰の心が癒えるわけでもなし。あまりに辛気臭い雰囲気に飲まれると、復讐どころではなくなってしまうため、本日は解散ということが英雄から促された。

ハーモニーは明日明後日と、魔女の捜索を続けるらしい。だが、見つけても手出しはしないとの事。フレッシュとの約束の期限は、陸祭りが始まるまでと定められた。それを過ぎたら、瞑鬼たちがどれほど抗議しようとハーモニーが解決に乗り出ることになる。


勝手に取り決められた対決にも、みんなは意外に反対しなかった。内容は、英雄一人に対し瞑鬼、夜一、千紗、瑞晴の四人で模擬戦闘をし、一撃でも英雄「痛い」と言えば負けというもの。圧倒的に不利な状況にしたのは、戦力差と考えろというのが英雄の意見だった。


外に出ると、満天の星空が瞑鬼たちを出迎えてくれた。田舎で真夏の夜空だけあって、数え切れないほどの輝きがある。

いつも通っている校門をくぐる。夜の学校というはっちゃけ空間から、六人は一気に現実に引き戻された。


現実的に考えて、ここまで大きな組織と対立したのは無謀だろ言えよう。高校生四人に対し、向こうは大人が百人単位。後悔しても後の祭りを、身を以て体験できた瞑鬼。

どれだけ月が綺麗でも、お迎えの使者はやってきてはくれない。今フレッシュが考えるべきは、今日の寝床についてだ。あれだけ啖呵を切って置いて、桜青果店に戻るわけにはいかないだろう。


「……どうする?俺らは野宿でもいいんだけど、やっぱ無理だよな……」


「……そもそも公園とかあんま無いしね」


「まぁ、またいつ奴らが現れるかわからん。窓と屋根がないんなら、俺と瞑鬼は眠れんぞ」


「……だよな」


組織結成から約一時間。すでに壁にぶち当たっていた。それも、一番当たりたくない、経済問題という、賤しくも現実的な難関に。

夜一の家はマンションな上、当たり前だが両親がいる。この人数でいきなり押しかけるのはあり得ないと言っていい。人数は六人もいるのに対し、定住地があるのは三人だけ。それも、フレッシュが抱える解決策のない事実だった。


今あるのは、夜一が乗ってきた電動バイクが一つだけ。サイドカーが付いていても、寝れるのはせいぜい二人が限界だ。

学校の裏の土手に回る。芝であろう草で埋められていて、堤防のようなところへ向かう。悔しいくらいに綺麗な景色だ。


「……きいてみる。ってか説得する。うちもマンションだけど、ワンフロアあるし」


「……すまんな」


「まぁ、大丈夫っしょ。それに、私だってフレッシュ?の一人だしね」


そう言うと、千紗とはポケットから携帯を取り出して、親父さんとの交渉に打って出た。


大きな組織に懐柔されるもの、まぁ時折悪くはないかも。

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