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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
逃亡の魔女編
150/252

先輩と後輩

イラストが描けるようになりたい。挿絵とかあった方がいたですよね。


「…………は?」


さっきまで何かを考えるように目を伏せていた英雄からの、いきなりの提案。


「柏木くんのことはよく聞いてる。格闘技、かなり良いとこまでいったらしいね。その分なら充分通用すると思う」


「…………そうですか」


「それに、説得すれば向こうだってわかってくれるかもしれない。俺は思うんだよ。魔女とか人間とか魔王とか、そんなのは表面だけだってさ」

英雄の言葉は澄んでいて、正しくて、乗せられやすい。きっと元の世界の瞑鬼なら、簡単に帰属していたところだろう。

長いものに巻かれるのが、この世で一番生きやすい。そんなことは1たす1よりわかりきった答えだ。


だから英雄は知らない。この世にはイレギュラーが存在すると言うことを。自分の限界知覚領域を超えた、思考的な化け物が存在すると言うことを。

この世界のこの場合。簡単な事だが、英雄には理解できないだろう。魔女の思考を。愛する故に殺すという、狂気にも似た親心を。


「どうだ?手を取り合おう。今は人類の危機だから」


台詞を並べ、人を誘う。実に英雄らしい行動だ。

話を聞いていたはずのソラとアヴリルは何も言わなかった。ただ、黙ってフィーラの手を握っている。

二人を除いた十六個の視線が夜一に注がれた。


「…………お、俺たちフレッシュのリーダーは瞑鬼だ。引き抜きの交渉ならそっちとしてくれ」


何を血迷ってか、謎の組織に所属しだす夜一。何か言い返しをやりたかったらしいが、どうやら上手く思いつかなかったらしい。


「……私も」


「…………わ、私もね。ソラとアヴリルも」


「…………まじ?」


いつの間にか大所帯のリーダーとなっていた瞑鬼。言ったもん勝ちなこの状況では、乗り遅れた瞑鬼が悪い。

英雄は間違いなく一緒にやりたがる。それは他の三人も分かっていた。瞑鬼よりもこちらの英雄に慣れた三人だ。英雄ヒイロの英雄思想も理解しているだろう。


初めは夜一しかつかないと思っていた瞑鬼だったが、瑞晴も千紗も同じ考えだったらしい。もちろん瑞晴と千紗はソラの正体を知らない。だが瞑鬼側に付いた。

つまりはここで、親父の属する組織に反発したと言う事。反抗期を過ぎた娘の判断だから、単なる好奇心からではない。瑞晴も千紗も、自分の判断でソラたちによりプラスになる方を選んだ。


「……頼むぞ、リーダー」


「……へいへい」


強引に押し付けられた称号とはいえ、なってしまったものは仕方ない。ここで揉めるよか、適当にリーダーらしく振舞う方が英雄の説得もしやすかろう。

無駄に重たい期待を背負い、瞑鬼の視線が英雄に注がれる。


余裕な顔で澄ます英雄。敵対心と反発心を剥き出しに、腐ったドブ川の目で睨む瞑鬼。勝ち目がないことは明白なのに、ここにハーモニー対フレッシュの図式が出来上がっていた。

気がつくと、ソラの左手が瞑鬼の右手を。霊前で涙を堪えているのか、随分と力強く握られていた。向かい側では夜一も同じ状況にいるらしい。


少しあったかくて、ほんのりと冷たさも感じる女の子の手。ソラが鼻をすする。帰ったら思い切り泣かせてやろう。キザでもいいから、胸を貸してやるものありかもしれない。

日常を取り戻す。そのために魔女を殺す。瞑鬼の、フレッシュの意見が一致した。


「……英雄さん。ちょっと外で話しましょう。その方が、お互い言いやすいこともありますし」


全ての不浄をひた隠しに、瞑鬼が適当に提案。それに英雄がのった。

ソラの手を瑞晴に引き渡す。意外にもおとなしく従ってくれた。無言の圧力が、瑞晴の背中からばしばしと伝わってくる。失敗したら、瞑鬼史上最低な結果が待っていることだろう。


陽一郎や里見先生が見守る中、二人は保健室を後に。月明かりだけで薄暗く染められた、閑散ともとれる廊下を歩く。何となくだが向かう先はわかっていた。

先輩と後輩が話をするといえば、やはり自販機の前。人がいないとなればなおさらその可能性が高い。それに相手は主人公気質の英雄だ。ほぼ間違いなく先輩という立場での最適解を選んでくる。


人っ子一人いない玄関。夜の学校はやけに静かで、体育館からの叫び声もほとんど聞こえない。

購買も事務室も、この時間だと既に消灯されていた。今瞑鬼たちを照らしているのは、少ない自販機の光だけ。


「……何か飲む?先輩らしく奢ってやるよ」


そう言いつつ、英雄はちゃっかり自分の分を購入済みだ。断る理由もないので、瞑鬼も適当に黒豆の煮汁を要求。百二十円の貸しが手渡される。


「……強いな。瞑鬼の部隊は」


炭酸爆発の音を鳴らし、ミックスサイダーなるものを飲む英雄。果物の汁を炭酸に浸しただけのジュースなのに、やたらと生徒からは好評だった。

どうでもいい世間話。瞑鬼の心に余裕がないのを知らないのか、英雄はやたらと饒舌だ。でも違う。瞑鬼が聞きたいのはそんな表面の言葉じゃない。


不覚にも謎の部隊のリーダーとされた瞑鬼だが、なった以上は仕方ない。それに、魔女の目的はあくまでソラたちだ。関係ない人間が首を突っ込んでいい話じゃない。


しかし、その点において英雄の相手をするのは手強いだろう。口の悪さと心の汚さならまず負けないだろうが、相手は全国模試上位の脳内ウィキペディアだ。普通に交渉していたのでは瞑鬼に勝ち目はない。

ソラもアヴリルも、赤の他人の干渉を望んでいない。人が増えれば、それだけ正体が発覚するリスクも高まる。協力を仰げるのはフレッシュと千紗の親父。あとは良くて朋花と関羽くらい。


「……この町の安全を守ってることは素直にすごいと思いますよ」


「……そんな事ないさ。創立してからの十五年で、失った仲間の数は少なくない。俺は二年前からだけど、そこからでももう二人」


英雄は本気で落ち込んだ顔をしている。仲間が百人いようと千人いようと、本人にとっては一人の重さは変わらないのだ。

いつの間にか空になった缶をゴミ箱に。そして瞑鬼は財布を取り出すと、徐にもう一本コーヒーを購入した。

別に喉が渇いていたわけじゃない。カフェインが不足したわけでも。


「……それで、君はどうしたい?」


英雄の目は暖かい。瞑鬼のような腐った泥水とは対照的で、鯉が住めるくらい潔白だ。

きっと、この先輩なら手を貸してくれるだろう。真実は言えないが、嘘と知りつつも魔女狩りに力を貸してくれるかも知れない。体育館の親父どもが反対しても、説得し得るだけの弁論術を彼は持っている。


瞑鬼がやろうとしていることは、それらを全て断ち切る覚悟が必要だった。もし決行すれば、今後二度とハーモニーの協力は望めなくなる。

手のひらの中で弄ばれる、冷えた缶。全ての冷たさをそこに込めて、瞑鬼はコーヒーを投げつけた。


同じ人間だからと言って、必ずしも和うとは限りませんね。

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