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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
逃亡の魔女編
140/252

逃亡、そして

明日からは不定期に。


今でも後ろのテレビからは、よくわからない言葉が幾度となく繰り返されている。マジョヲハッケン。

言葉が通じずとも、ソラは漢字を知っている。魔女という意味を知っている。だから絶望した。それと同時に圧倒的な無力感に襲われていた。

ここまで二人はしてくれたのに、自分たちのせいで終わってしまったのだ、と。


「ソラ、アヴリル、フィーラ!出来るだけ荷物持って!」


千紗が叫び、非常持ち出しのリュックサックを投げ渡す。ソラがキャッチした。

急いで夜逃げの準備。手遅れだとは思うが、逃げずにはいられない。瑞晴も千紗もよく知っている。魔女の脅威を。


しかし、瑞晴たちは知らない。この家の中にいる少女たちこそが魔女だということを。ソラたちと瑞晴たちの間には、認識のズレがあった。

この国にはいくつかのルールがある。一つは魔法の不正使用の罰則。一つは倫理観を逸脱した魔法は使用禁止。そしてラスト。魔女か魔王軍が現れたら、即刻家に帰れというものだ。


瑞晴はソラたちが魔女だと気付いたのではない。ただこの場から逃げようとしているのだ。魔女とバレた魔女は、街から逃げる。でも国には帰れない。となると、しばらくの間隠れ蓑が必要となる。

人里離れて、電気とガスがあり、海に近い。このペンションハウスはそれらの条件をすべて満たしている。いつどこで不動産屋からここの情報を仕入れていてもおかしくない。


「……千紗も、説得お願いね」


「……んじゃ、夜一も交えてってことで」


この場にいるよりかは、無理にでも陽一郎を説得した方がいい。瑞晴はそう考えていた。

最悪許してもらえなくても、三人の魔法を使えば侵入は可能。瞑鬼を廊下で寝かせれば、三人分の寝台は確保できるだろう。


「……準備いい?できれば迎えに来て欲しいけど、お父さん飲んでるっぽいし、千紗のお父さんは仕事だし。だからここにいるメンバーだけで逃げるよ」


「……魔女がどうかしましたの?」


「……街の中で発見されたって。ここだと危ないから、私の家に行くよ」


瑞晴の顔はいつになく真剣なものだった。つい十分前までは、愚痴を言っていた女子高生とは思えないくらいに。

一人一つのザックを装備。中身は食料庫に入っていた乾パンや水など。野宿の方が、ここよりかは幾分かマシだろう。


千紗が夜一に電話するも、応答は無し。留守番電話も残したが、出てくれなかったらしい。

不安がる少女たち。最年長である千紗も、夜一に頼れないとわかった途端に不安をあらわにしている。

そしてそれは瑞晴も同様だ。何かと危ない瞑鬼といる時の方が、まだ安心感があった。今は自分が守る立場。母親でもない高校生には荷が重い。


「……と、取り敢えず行こ?今ならまだ車も通ってるかもだし、うん」


「……わかりましたわ」


「…………大丈夫、ですよね」


にっと笑って、無理に緊張をほぐす瑞晴。ぎこちない笑顔も、この場では頼りたくなってしまう。

大丈夫。ただ来た道を歩くだけだから。ほんの二十分くらいで着くはずだから。

千紗と瑞晴で、行路を確認。アヴリルが十字架を切って、いざ瑞晴の家へ。その時だった。

瑞晴が靴を履くと同時に、インターホンが鳴った。


「…………」


こんな時間にこんな所。考えられるのは、千紗のお父さんが迎えに来てくれたか、瞑鬼か夜一の訪問か。

誰もそんな希望的観測はしなかった。そんなに現実は甘くないことを、十余歳ながらにして知っているから。

電気は消してあるので、よほど前から見られてなければ居留守はバレてない。この別荘を知っているのは、近所のおばちゃんか不動産の関係者か。その誰もがくるはずがない事は分かりきっている。


黙ったままで目を合わせる。扉には覗き穴が無いので、向こう側の人を特定するには必然的に開けなければならない。

全員がそろりそろりと靴を回収。瑞晴が食料庫の扉を指差し、そこから出ようと提案される。

もう一度インターホンが鳴った。暗闇の中で、家の中に人間がいるなんてわからないはず。だとしたら、灯りがついていた時から見られたのは確実。

瑞晴と千紗の目がかち合う。どちらかが対応しようという話に。けれど、それを遮ってフィーラが前に出る。


「…………ん」


ほとんど声を出さないまま、フィーラが首を振る。目は覚悟が決まっていた。

瑞晴たちとてプライドがある。だが、こうも根を張られては何も言えなかった。


早く行って。一人で大丈夫?……うん。


息を呑む。狭い玄関に密集しているせいか、あたりは汗で蒸しかえっていた。瞑鬼がいたら、フェロモンで鼻血を出すほどに。

とんとんと、千紗がフィーラの肩を叩く。振り向くと、そこにはこちらも腹を据えた千紗の顔があった。

どうやら、二人で足止めしてくれるらしい。

千紗が指を立てる。瑞晴もその意味に気づいて、親指立てて気合を入れた。


二人と三人のグループに分かれ、片方は食料庫へ。窓から脱出して森を辿れば、公道を行くよりも早く家に着く。

最後にもう一度千紗とフィーラに視線を送る。二人して首を縦に振った。


「……遅いっす」


扉の向こうの誰かが喋る。女の人の声が、五人の耳に響いた。そしてその一秒後。

リビングから、ガラスが割れる音が家の中を反響した。あそこの窓は広い。女性なら一人くらい、簡単に入れるくらいに。


ぱりぱりとガラスを踏む音が聞こえる。もはや余裕はなかった。

急いで瑞晴は食料庫の扉を。千紗が玄関の戸を開く。


「…………もう遅いっすよ。五人っすか。二人余分なのがいるっすね」


二人が扉を開いた瞬間、部屋の中央から声が聞こえる。反射的に振り向くと、そこには月下に照らされた長身の女の人がいた。


「…………ルドルフさん、ですか」


最初に反応したのは、じっと女を見つめていたソラ。


「……pireさいあくですわね……」


見えそうで見えないルドルフと呼ばれた女の顔。ただわかるのは、魔法回路が開いているということだけ。そしてその魔力の量の多さから、女が魔女であることがうかがえる。


「……帰るっすよ三人とも。マーシュリーさんも来てるから、どうせ逃げられんでしょう」


さて、第二の魔女の登場ですね。

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