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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
逃亡の魔女編
132/252

下らない茶番劇

前回の最後、嫁発言がどうなったのか。


「はいっ。あーんだよ神前くん。嫁からのあーんだよ」


「…………心の底から悪かった。俺が悪かった。だから頼む瑞晴……」


「…………だーめ」


太陽沈んだ午後七時。森の中では、一つの惨劇が起ころうとしていた。


二十畳ほどの部屋に、男二人と女子が五人。全員が若者で、それでいて華やかな雰囲気を放っている。約1名を除いて。


テーブルの真ん中に鎮座している鍋を取り囲むように座る七人。夜一と千紗が隣り合わせで、その正面にソラたちがくるような陣形だ。そして、端っこにいる二人。


瞑鬼と瑞晴による攻防戦が、今この場で起こっている最大の問題だった。瑞晴を見る瞑鬼の目は、完全に警戒した野生動物のそれとなっている。


対する瑞晴の顔。表面上は笑っているが、腹の中で火砕流が起こっているのは間違いない。どす黒いオーラが外まで漏れてきそうだ。


魔女っ子たちの歓迎会として開かれた鍋パーティー。季節外れの鍋の中身は、瑞晴の提案で果物となっていた。


陽一郎が新婚時に開発したらしいその料理は、なぜだか美味いと近所で評判となっている。様々な果物を水で煮て、その汁ごと食べると言う特殊調理が鍵。


「……陽一郎さんも言ってたろ?あったかいキウイはダメだって……」


瑞晴のもった箸の先にあるもの。湯気を立てて瞑鬼の顔に迫るそれは、紛れもないゴールデンキウイだった。


つい数時間前、瞑鬼の軽はずみな発言によって、瑞晴は拷問にも近い取り調べを受けていた。好きな人がどうとか、恋人がいるのだとかの話をしていた時に、いきなりの嫁発言。どうなるかは予想しなくてもわかる。


「試してみてよ」


そう言って、瑞晴は勢いよく瞑鬼の口に茹だったキウイをつっこむ。見ていた夜一がうぇっ、と言った。


熱々で、半分溶けたようなフルーツ。それを突っ込まれた瞑鬼の口の中は、一瞬天に昇ったと言っても過言ではないだろう。


反射的に咀嚼。舌が焼けるようなそれを、なんとか飲み込む瞑鬼。瑞晴の顔が明るくなった。苦しむ瞑鬼の姿を見たら、鬱憤が晴れたらしい。


巻き起こるは、一同大爆笑からの無茶振り。悪ふざけは加速し、ソラまでもが瞑鬼に口を開けろと強要している。


「…………口の中を上書きしてくれ」


そう言いつつ、置いてあったペットボトルに手を伸ばす瞑鬼。真っ黒な炭酸水を手に取り、一気に口に流し込む。


むせる瞑鬼を笑いながら、食事の手は進んでゆく。ど真ん中に果実鍋やみなべこそあるが、実際にみんなが食べているのはスーパーのお惣菜などだ。


デザートに果物は大丈夫な夜一たちだが、メインを張れと言われたら無理がある。


「……げっ。瞑鬼何やってんの?」


ぐったりとコーラを飲む瞑鬼を、変態を見るような目で見下したのは、トイレから帰って来た朋花だった。涼しげなキュロットと、柄物のトップスを上手く着こなしている。


朋花がくると知ったのは、インターホンが押された直後だった。何でも、陽一郎が今日は帰れないからと言うのが理由らしい。瑞晴は事前に千紗の家に泊まると言ってあったので、連絡は来なかった。


夜一が朋花とバイクに乗り、瞑鬼は自転車で追いかけて来たらしい。


「……おいで、朋花」


「フィーラちゃぁん」


瞑鬼のことなど全く視界に入れず、朋花はフィーラにダイヴする。不思議にも、朋花とフィーラの相性は良かった。


少し不思議な雰囲気のフィーラと、元気な朋花。側から見ている瞑鬼たちからしたら、姉妹と捉えても不自然はない。


わいわいと賑わう。食事の手は進み、やがて誰かが度胸試しに果実鍋やみなべに箸を突っ込んだ。


日頃から何かと訓練されている瞑鬼と瑞晴ならともかく、初心者には温果物は厳しいジャンル。しかし手をつけた手前残すわけにもいかず、勇敢にもチャレンジャーは食べきった。拍手が起こる。


外では満天の星空が輝いており、見たもの全ての心を吸い取って行きそうだ。


瞑鬼の皿に山盛りの果物が載せられる。もう満腹だと言いたいのに、この雰囲気だと言い出せない。幸せすぎて、思わず瞑鬼は怖くなりそうだった。


不安要素だらけのこの世界で、今こうして安心して飯を食えること。こんなことがあと何回続けられるのだろうか。瞑鬼は思わずにはいられない。


大賑わいの食事会が終わったのは、それから約二時間後の午後9時だった。既に朋花は夢の世界に誘われている。中学生組三人も、満腹感からかやけに眠たそうだ。


「誰か、一緒にお風呂入ろう」


眠りそうな三人を見て、千紗がなかなかチャレンジ的な言葉を放つ。瑞晴と千紗は、ちゃっかりお泊まりセットを持って来ていた。


親に内緒のお泊まり会。それも、誰も知らないこんなところとなれば、興奮しない高校生は居ないだろう。


「いいね。それじゃ私も」


続いて瑞晴までもが、やけにノリ気で片付けをし始める。強盗に襲われた後のようなリビングを掃除し、なるべく早く行きたいのだろう。


甘ったるい舌を唸らせながら、食器を黙って運ぶ瞑鬼。中学生たちの枕となっている夜一には、残念ながら手伝いは期待できなさそうだ。


顔だけ見ればイケメンな夜一。英語もそこそこできるこの優等生が、女の子にモテないハズがない。瞑鬼の記憶が正しければ、去年のバレンタインも随分と盛況だった。


性格は瞑鬼と大差ないのに、好感度は天と地の差。そんな友人が目の前にいたら、いくら瞑鬼といえど嫉妬心が湧く。何とかして邪魔はできないか。考えるのはその一点だけ。


「んじゃ、俺も共にしよう。こんな山奥だ。風呂場に女子だけでは不安だろう?」


「……バカなの?アンタは超がつくほどのバカなの?夜一」


「何を言う。俺は別に下心から言っているんじゃない。ただ単に好奇心からでだな……」


「好奇心で女の子と風呂入れるかっ!」


瞑鬼と瑞晴が台所で片付けをしていると、いつの間にか夫婦喧嘩が始まっていた。


瞑鬼がこれを見たのは、学校を含めて10回やそこらじゃ効かない数。何かとあっては、二人して言い合っているのだ。


冷静にボケる夜一に、動きが大きい千紗。アレはアレで、中々絶妙なバランスと言えるだろう。少なくとも、瞑鬼が目指す理想の形の一つに、あの二人は当てはまっている。


最後の大物土鍋を洗い終えた頃には、もう中学生以下はほぼ完全に眠っていた。無防備にも寝息を立てて、安心しきった顔で寝転んでいる。


フィーラと抱き合うように眠る朋花。お気に入りの夜一の膝で、緩みきった顔で寝るアヴリル。ソラだけが、ソファの上で船を漕いでいた。


綺麗になった机の上を拭く瞑鬼。やっていることは最早主夫。いつも家でやっているので、特に家事は負担ではない。寧ろ夜一の役の方が、瞑鬼的には辛そうだ。


楽しいって多分こういう事を言うんでしょう。

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