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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
逃亡の魔女編
131/252

嫁宣言

完結設定の項目を、「この話で完結します」「まだ続きます」「終わる予定がありません」

の三つにして欲しいと思った今日のこの頃。


怒涛の質問ラッシュは止まりを知らず、瑞晴のライフがどんどんと削られて行く。やれどこまでいっただの、瞑鬼の夜はどんな感じなのか、だの。


女の子たちが集まって話をすれば、こうなる事は必然だ。そして最終的に行き着くのは、直接確認という悪手。


まだまだ太陽が沈む気配のない午後四時。瑞晴の前にはスマートフォンが置かれていた。表示されている名前は神前瞑鬼。あとは通話ボタンを押すだけで、場所を超えた瞑鬼に電波が送信される。


瞑鬼が仕事中なのは、ここにいる全員が知っている。洋一郎曰く、今日は配達ではないらしい。家にいるし、電話に出る確率も高い。


ごくりと唾を飲む瑞晴。こんなに緊張することはない。ただかけて、潔白であると証明してもらえばこの地獄から脱出できる。


「……じゃ、じゃあ」


黒電話のマークを押す。何度かの電子音の後、無事に呼び出しの画面に変わった。


アヴリルからの命名通り、通話をスピーカーに。瞑鬼に知れたら、多分怒られるだろう。未来を予想し、瑞晴は気が気じゃない。


コールが続く。まだでない。仕事が思ったよりも忙しいのだろうか。それとも接客中か。いずれにせよ、瞑鬼が出なければ全てことは丸く収まる。


夜に来るのは確定事項だが、その時には新しい話題ができているはずだ。女の子の浮気っぷりは、他でもない瑞晴がよく知っている。


10回ほどの呼び出しの後、がちゃっという音がした。通話が開始される。


『…………忘れ物?』


無駄に気の利いた瞑鬼の発言。瑞晴としては安心だ。これ以上ないくらいに、いつも通りの反応だったから。


「……えっと、違くて。まぁ、その、ちょっと聞きたいことがあってね」


瑞晴の話は、変に要領をえていない。時間を伸ばし、瞑鬼に切ってもらう作戦だ。


その作戦に感づいたのか、ソラの目が告げた。早く聞け、と。千紗アヴリルも、フィーラですら興味津々な模様。


画面の向こうからは、時折こすれるような音が聞こえてくる。仕分けと梱包の作業中らしい。


『……なに?』


「えっと……その、今みんなといるんだけど……、まぁ……」


思春期の女の子に、男子への質問はハードルが高い。たとえ仲が良くても、改まって聞くとなると、それなりに緊張してしまうのだ。それも、ギャラリーがいれば尚更のこと。


煮え切らない瑞晴の態度にじれったさを覚えたのか、アヴリルが議論の中心となっていた話題をぶちまける。


「瞑鬼さん!ずばり瑞晴さんのこと、どう思ってますの!」


場所の離れた瞑鬼に、この場の本音が飛ばされる。ただ一人、瑞晴だけが顔を曇らしていた。


『……え?アヴリル?あぁ……、そういうこと』


今日の瞑鬼はやけに勘が冴えている。普段ならはぁ?の一言で片付けられただろうが、今日は全てを察しているようだ。


仕事中であるにも関わらず、瞑鬼はこの妙なノリに付き合ってくれる。申し訳ないと思う反面、返答がきになる瑞晴。


言葉を探すかのごとく、画面の向こうの瞑鬼が唸る。惚れた腫れたの簡単な関係じゃないのは、他でもない瑞晴が一番わかっていることだ。


千紗が息を呑む。自分には関係が無いからこその、余計な緊張というやつが上がってきている。ソラがそわそわと組んでいる手を変える。


1分ほどそうしていただろうか。いい加減みんなが痺れを切らし始めた頃に、瞑鬼は答えた。


『……まぁ、陽一郎さん風にいうなら、家族ってとこだな。天涯孤独の身としては、瑞晴と出会ったのは奇跡だったよ』


「……むぅ。ありきたりですわね」


こんなにも最上級で安全な答えが出たのに、肝心のアヴリルは納得がいってない顔だ。瑞晴としてはここで話題を切り上げたいが、どうやらまだほじくり返したいらしい。


ガールズトーク特有の、一度始まったら止まらない空気。いつもならこの暴走を止めてくれそうなソラも、今では話の顛末に興味津々となっている。


本当ですの?とアヴリルが聞いた。けれど、瞑鬼は笑ってごまかすだけ。瑞晴の望むものをわかっている。


『……それはいいんだが……。……夜一には教えんほうがいいか?このこと』


その言葉を聞いた瞬間、ソラたちの顔が不審に曇る。いきなり名も知らぬ人に秘密を明かしてもいいかなどと言われれば、ごくごく当たり前の反応だ。


もちろん、三人には夜一が誰だかわからない。けれども瑞晴と千紗からすれば、夜一がこの秘密のパーティーに加わってくれるのは願っても無い事だ。


英語の成績だけで言えば、恐らく瑞晴よりもいい。万が一の戦闘を考えれば、瞑鬼を含めたこの場の誰よりも、夜一は頼りになる。


瞑鬼だって、夜一口の固さと頭のおかしさと戦闘力を買っての提案だった。いつまたカラが出てくるかわからない以上、止める役はいた方がいい。【改上】があるとは言え、毎回殺されるのでは流石に割りに合わないとの判断だ。


ソラとアヴリルが目を合わす。少しだけ待って、イエスと頷いた。


「……その方がどんな人かわかりませんが、瞑鬼さんの推薦ならお受けしますわ」


『……悪いな。んじゃ今日の夜連れてく』


全く予定を確認せずに断言するあたり。最初から夜一に拒否権はないらしい。


電話の向こうから、陽一郎の呼び声が聞こえる。瞑鬼は今から接客タイムらしい。


切るぞ。と最後に一言。それじゃあ今日の夜に。とソラが返す。その直後だった。


『…………あーー。瑞晴は俺の嫁』


最後にとんでもない爆弾を投下して、瞑鬼との通話は終了する。残されたのは、虚しく響く電子音のみ。スピーカーから流れてくる耳障りな音が、乙女たちを沈黙に突き落とした。


やがて携帯の画面が暗くなる。音が消えた。部屋の中の声も、消えた。


顔を赤らめて顔を落とす瑞晴。表情は完全に乱れており、いつものお母さんのような冷静さは掻き消えていた。


衣擦れの音が聞こえる。アヴリルの目が瑞晴をじっと捉えている。ソラの目から光が消えた。瞑鬼に近い目をして、瑞晴の頭頂部を眺め続けている。


瞑鬼としては、場に笑いをもたらそうと考えた結果のギャグだったのだろう。しかし、それを今理解しているのは千紗だけだ。高校生のノリがわからない少女たちにとって、相手が言うことは建前でも流れでもない。


「……み、瑞晴……さん?」


「……あの、なんか、ごめんなさいですわ」


じりじりと距離を詰めるソラと、目を伏せて謝るアヴリル。瑞晴からしたら、さぞかし恐ろしい数十秒だっただろう。


声もなく固まったフィーラと違い、二人は真面目に驚いている。


瑞晴は叫びたかった。今すぐこの場で、瞑鬼くんのバカー!と。しかしそれは瑞晴のキャラではない。そんなことが出来るのは、可愛くて賢くてそれでいて主人公とそこそこ仲がいい、ヒロインクラスの女の子だけ。


自分の築き上げてきた物を守るため。己の己であるを貫くため。瑞晴にできるのは、


「…………あ、あはっ」


ただ笑うことだけだった。


はいでました嫁宣言。いいですね。やって見たいですね。

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