はうおーるどって聞いて「いくつに見える?」って返すやつにまともな人は訪れない。
なけなしの気力です。これの後は、多分かなりまばら投稿になります。そう言いつつも、明日にも出るかもしれません。
そして今度はあって間もない少女三人。元の世界なら、相当に頭と金銭感覚がぶっ壊れた奴として、一躍学校で有名になれるかも知れない。
瞑鬼の出した提案に、ソラの目が光る。長々と聞かれるより、一発が大きい方が好みらしい。この辺は瞑鬼と似ている。
「……いいですわよ。私たちの知る限りなら、答えますわ」
やっぱりアヴリルには気品がある。元どこぞのお嬢様か、あるいは漫画にでも影響されたのか。
別に理由なんて何でもいいが、アヴリルの英語は実に優しいものだった。特に、発音とアクセントが完璧なのが高得点だ。
三人から了承が得られたところで、瞑鬼はずっと気になっていた事を言葉に変える。瑞晴も黙って事の成り行きを見守っていた。
想いを言葉に変え、疑問を音に変え、瞑鬼は全ての鍵のありかを訊ねる。
「……ソラってさ、何歳?」
「…………へ?」
瞑鬼がほんの七文字だけの質問を終えた後、最初に出た言葉はそれだった。しかも、それは解答者である彼女たちの口からではなく、質問者であるはずの瑞晴の口から漏らされた一言だ。
三人は三人で、質問の意図するところとか、何かの暗喩になっているのではないか、とか、そんな無駄な事を考えるのに糖分を消費させている。しかし、いくら質問を咀嚼しても、他の答えなんて見つかるわけがない。
瞑鬼はただ単に、年齢を聞いただけなのだから。
年増の合コン会場でもなければ、年齢を聞くのなんてごくごく当たり前のことだ。むしろ、それを一番最初にしなければならなかったのだ。
魔女特区かどうとか、魔女の生態がどうとか。そんなのは調べればわかる。増えた瞑鬼の魔法を使って、また実家に侵入でもすれば手に入るかも知れない知識だ。
しかし、名前と年齢だけは違う。特殊な情報収集技術も、優秀なエージェントを飼っているわけでもない高校生には、自己申告でしか身元不明の人間の個人情報を知る方法はない。
例えるなら三人は、魔女のいる場所とか、日課とかについて聞かれるとでも思っていただろう。けれど、知ったところでどうしようもない情報を手に入れておくほど、瞑鬼は愚かじゃない。
その事をようやく察したのか、困惑する二人を差し置いて、一人ソラが答える。
「十五歳です。瞑鬼さんは?」
「……十六歳。ってか歳下だったんだな……」
自分から聞いておいてだが、これはあまりに意外すぎる情報だ。
ソラは確かに見た目は瞑鬼と同じくらいなのだ。身長や体格に差はあるが、高校二年生の平均と比べてもまだ高い。
そして何より、三人は色々と豊かだった。道行く人が思わず振り返ってしまうくらいには、目立つスタイルだ。
ソラが十五と言うことは、恐らくはアヴリルやフィーラも同い年と考えていい。瞑鬼の目がアヴリルの胸元に注がれる。
ティーシャツ一枚ではあまりに心許ないので、これは帰ったらもう2枚ほど買う必要がありそうだ。
どちらにせよ、今日はあの家に泊める予定だった。まさかこんな熱帯夜の中に、中学生を放り出せるほど、瞑鬼のハートは頑丈じゃない。
どどんと堂々と胸を張るアヴリル。どうやら大人っぽく見られるのは嫌いじゃないらしい。以外にも、この子達は子どもらしいところがあるようだ。
思わず吸い寄せられる視線。何とか己の理性に打ち勝ち、瞑鬼は瑞晴の顔を見る。すると、そこには絶望一色な顔色の瑞晴がいた。
なぜだかテーブルに肘をつき、司令官のような格好で項垂れる瑞晴。しかし、その鋭く尖った刃のような両目だけが、じっとアヴリルを見つめている。
ただ黙って、下を向いては前を向き、を繰り返していた。一体その行動が何を示すのか。残念なことに、瞑鬼はそれが理解できてしまう。
「……ま、まぁ、アヴリルは大人っぽい方だよな?アレだ、早熟ってやつ」
このままだと瑞晴が闇落ちしそうなので、なんとか一歩踏みとどまらせようと瞑鬼は試みる。別に瞑鬼からしたら、瑞晴は貧乳でも肥満でもない。
むしろ、全国の男子高校生の理想のようなプロポーションだ。あまりに歳不相応な大きさだと、気後れすることもある。
しかし、やはりそこは女子高生。何かしら自分の体型にコンプレックスがあるらしい。
「そうでもありませんわよ。フランスとかですと、十二歳でもこのくらいの人はいますわ」
「……十二っ⁈」
たった2つの数の並びに、瑞晴がびくっと反応する。アヴリルはこれに気がついていたに違いない。
くすくすと笑うアヴリル。やはり子どもだ。高校生をからかって、それだけでこんなにも笑えるとは。
出会った当初は不安だった瞑鬼だが、それは杞憂だったらしい。この世界は元世界のような、クズだけで構成された世界とは違うのだ。
そんなくだらない話をしていると、いつの間にか時間は過ぎ、時計の針は十一時へ。店員さんからラストオーダーとの指示が入る。
そろそろ帰ろうか。そう言って、五人は立ち上がった。当然だが、ここのお代は瞑鬼持ち。魔女界隈の話が聞けたのだ。諭吉一人なら、まだ何とか釣り合うといえるだろう。
財布からなけなしの一万円が消える。お会計の時に、一瞬だが離したくないと思ってしまったのは、瞑鬼だけの秘密の話だ。
外に出ると、もう完全に空気は夜中だった。田舎の街からは街灯が消え、聞こえるのは蝉たちとカエル、およびキリギリスのオーケストラ。海の近くだからか、時折波の音も耳につく。
すっかり涼しくなった道を歩きながら、瞑鬼は今後のことを考えていた。通常の手続きを踏むのなら、この三人は警察に行き、保護を受けることになる。
施設の数は問題ないだろう。以前瞑鬼が調べた時には、ここら辺でも空きがある所がいくつかあった。親がいないのなんて、ここでは比較的普通のことなのだ。
しかしそれと同時に、こいつらがやっていけるのか、という懸念もある。まず第一に言語の違い。そして文化の違い。
最大なのは、3つ目の育った環境の違いだ。魔女特区で育ったという彼女たちは、当然だが人間界の常識を知らない。身の振り方も、人との接し方も。学校だって、向こうにはなかったらしい。
「…………どうしたの?神前くん」
瞑鬼が思い悩んでいると、隣を歩いていた瑞晴から声が降ってくる。立ち止まっても、顔を覗き込んできたわけでもない。けれど、瞑鬼が悩んでいることに気づいた。
何度も思う。これこそが、瑞晴が瑞晴たる所以なのだと。
「……これからどうしようかと思ってさ」
「あぁ……、まぁ、ちょっと事情が事情だからね」
ほんの数メートル先では、ソラたちが楽しそうな笑顔でお喋りに花を咲かせている。三人の間での公用語は、やはり英語らしい。
「施設とかは厳しいだろうし、かと言って放置は最悪だし……」
「……三人、か」
最も難しいのは、漂流してきたのが三人だったという点だ。一人か偶数人なら、もっと事は簡単だったかもしれない。
それに今回ばかりは、朋花の時とはわけが違う。
したがって、陽一郎に頼ることも不可能と見ていいだろう。
さすがの陽一郎と言え、見ず知らずの三人を養うだけの、無駄に広い器は持ってない。
施設にも入らず、かつ頼れる金持ちもいない。せっかく助かったのに、これではあまりに運が悪すぎる。
「……帰ったらさ、一回お父さんにかけあってみる」
「……なんなら、俺はでてくぞ。身分証もあるし、奨学金もあるからな」
「それはダメ。神前くんには一緒に頭下げてもらわなきゃね」
「……俺の頭なら、いくらでも下げてやるよ」
おねがいね。瑞晴は最後にそう言った。そうして三人に駆け寄って行き、ソラに後ろからダイビングハグをかます。
瞑鬼としても、どさくさに紛れて抱きつきたかった。しかし、そんな事をすれば四発の鉄拳が飛んでくることになるだろう。
大人しく肩を巻き、一人気だるく息を吐く。その直後、ポケットの中の携帯に振動が走る。
見ると、かけてきたのは吉野だった。内容は想像できる。『こんな時間にどこ行ってんだ?瑞晴ちゃんとデートか』
大方こんな内容だろう。明日の仕事中聞き回されることを覚悟し、瞑鬼は通話ボタンを押す。
「はい、神前です。お疲れ様です」
社会人特有の、電話に出てからのステップを踏む瞑鬼。しかし返ってきたのは、そんな堅苦しい瞑鬼とは真逆のテンションの吉野の声。
『あー、もしもし瞑鬼?突然で悪いんだが、お前の友達で明日暇なやつ知らんか?』
「暇なやつですか?まぁ、いると思いますけど……。どうしたんです?随分賑やかですね」
スマートフォンの向こう側からは、おっさんたちの笑い声やグラスをぶつける音が聞こえてくる。それに、やけに吉野の声も大きかった。
『いやなに、明日急な仕事が入ってな。俺、そっちに出れそうにないんだよ。だから何人か友達呼んで、店開けといてくれ』
誰かが向こうで吉野を呼ぶ。もっと飲めよ。多分、そんな内容だったと思う。
吉野はそれに適当に返事をして、瞑鬼の反応を待っている。そして瞑鬼は、絶望の中から生まれた光と言うやつを、生まれて初めて実感していた。
今ばっかりは、吉野のこの性格に感謝する他ない。いつもだったら、確実に面倒がっていただろう。バイト一日しかしてないのに、店を開けるなど無茶だと思ったに違いない。
けれど瞑鬼の頭は今、チャンスという言葉で埋め尽くされていた。
「それって、三人でも大丈夫ですか?」
『おう。回せると思った人数でやってくれ。あぁでも、百人とかは勘弁な』
「あの、もし今から来れるなら、泊めてもいいですか?それで、できたら明日も」
『今から?まぁ、来れるんなら全然いいぞ。それに、できれば明後日も頼みたいしな」
「……わかしました。では」
そう言うと、瞑鬼はスマホの黒電話マークを押す。短い電子音の後に、電話が切れたことを知らせる通知音が鳴った。
運がいいとは、恐らくこのことを指す。悩んでいてどうしようも無くなった時に、都合よく助けが現れた。なんて、フェアリーテールだけだと思っていた。
この世界は瞑鬼に厳しい。それは間違いない。もう疑いようのない事実だ。
しかしそれと同時に、この世界は他の人には優しいのだ。もちろん辛い人だっているし、現にそいつらは目の前にいる。
けれども、必ずしもどこかで修正が入ってくれる。他人の手助けとか、そういうのが。
「どうしたの?やけに嬉しそうだね」
前を歩いていたはずの瑞晴が、いつの間にか隣に来ていた。
「朗報だ。三人のバイトが見つかった」
「ほんと?なんの?」
「吉野さんから、海の家でのバイト探せってさ。泊めてもいいし、明後日も雇ってくれるらしい」
この展開は予想外だった。そう言わんばかりに、瑞晴の眼に輝きが宿る。そう。瑞晴は人の幸福を喜べる、現代では珍しい人間なのだ。
幸せは歩いてこない。そんな歌があったことを、瞑鬼は思い出していた。続きは、だったら歩いていくんだよ。確かそんなだったハズだ。
まさか本当にこの砂利道が幸せへの道だったとは。
気がつくと、もう家のすぐ近くまで着いていた。
潮の香りが強い。今夜は波が低く、ざざん、という音しか聞こえない。
「こうして見ると、海もいいよね」
「全てのお母さんですもの。当然ですわ」
「…………走る」
「私から逃げられるかな?」
「瑞晴さんは軽そうでいいですわねー。私、少々走るのはハンデがありますわ」
「……アヴリル……、請逃跑」
「えっ?」
「追いついたら、その栄養吸収してやる」
「いやぁー!ですわー!」
夜の海。月に照らされた四人の天使たちが、浜辺でなにやら追いかけあっている。
明日は早い。とっとと部屋に戻って、今は寝るのが正解だ。汗をかいたら、店のシャワーを使わなければ。
けれど、今はこの光景を見ていたい。
たった一握りの勇気でこれが見れる。随分とお得じゃないか。瞑鬼は満開の星空に向かって、一人つぶやいた。
女の人の年齢は最大のタブーと言いつつも、別に可愛ければ何歳でもいいですよね。問題なのは見た目と体。