異国の少女にお料理を。
なんだかんだ言って、隙間時間に更新します。
少女たちが出したアイデアは、どう考えても狙いすぎだ。わかってて言っているのではないか。そう思えるほどに、男心を抑えている。
仮にそんなことをそれたら、とてもじゃないが我慢できる自信が瞑鬼にはない。まず確実に理性が暴走するだろう。
そのことを知ってか知らずか、瑞晴の顔に警戒の色がこもる。まるで、少女たちの動向を気にしているようだ。
三人対一人の図式が出来上がった所で、もう瞑鬼の処理力は限界を超えていた。これ以上面倒ごとになられたら、ます確実に投げ出すことになる。
「……とりあえず、店行くか。海の家のスペースなら、使っても大丈夫だろ」
「……まぁ、そうだね。今日くらいなら泊まれるかも」
さくっと結論を決めて、その道に二人は従うことにする。ここでずっと話しているわけにもいくまい。潮風にあたり続ければ、髪も痛むし肌だってベタつく。
岩の上に座って手をつないでいた少女たちを立ち上がらせ、そのまま店まで案内する。
裸足では岩場は痛かろうと言うことで、無事に瞑鬼のサンダルはソラに渡った。本人きっての願いと言われれば、断れないのが小心瞑鬼である。
海岸を歩き、水平線を臨みながら海の家へ。あそこなら、ちゃんとしたところに座れるし、お茶だって出せる。
道中の話曰く、日本の海岸と中国の海岸はほとんど変わらないとのだとか。川沿いは汚いが、海沿いはなかなかに綺麗らしい。そしてそれは日本も同様。
そうして店に着く頃には議論白熱し、ついには瑞晴対ソラの一騎打ちが始まろうとしていた。議題はどっちの民族料理の方が不味いか、らしい。
できれば勝負は控えてはしいところだ。万が一食べ比べなんて事になったら、食べるのは間違いなく瞑鬼なのだから。
店に入り、適当なテーブルに腰掛ける。
その後水を持ってこようとした瞑鬼だが、瑞晴からの私がやるの一言で動きを止める。
瞑鬼の正面には、テーブルを隔てて三人の少女が鎮座していた。いきなりこんなところに連れて来られれば、それは緊張だってするだろう。警戒するのも無理はない。
なるべくなら、瞑鬼は尋問のような事はしたくない。この子達がどうであれ、瞑鬼には関係のない事だ。
「……随分暗いね」
五人分のグラスと、でっかいポッドを持って来た瑞晴が、場に漂う異様な空気に気づく。
つい何分か前までは、確実に賑わっていたはずなのに。今ではここは完全な葬式ムードに包まれていた。
誰もが他の人が何かをしゃべるのではないかと神経をとがらせて、絶好のタイミングを伺っている状況だ。
一度誰かが喋り出せば、ほぼ確実に会話は弾む。だが、その一歩目が一番責任は重たい。下手なことを言えば、その後の会話に混ざるチャンスを失うのと同義。
ここにいるのは、全員が英語を習った人間たち。つまり、誰一人として完璧な英語は喋れない。が、通じるのは英語しかない。
魔女特区出身だとは言え、元々は人間界にいたハズだ。明美の部屋にあった本が正しいのならば、この子たちは異国から攫われてきた可能性が高い。
ソラの顔を見る。あちらも状況を伺っているようだ。
「…………あの」
意を決して、ソラが口を開く。その瞬間だった。
静寂だった室内に、誰かさんの腹の虫が鳴った音が響き渡る。
瞑鬼ではない。晩御飯はこれでもかと言うほど食べた。瑞晴も同様。
二人揃って前を向く。すると、ソラが半分口を開いたまま顔を真っ赤にしていた。裸を見られた時よりも更に紅潮している。年頃の女の子には、非現実的な過去よりも、現実的な今の方がダメージが大きいらしい。
金髪ヘアーの子が、堪え切れないと言った顔で笑い出す。そのあまりにも不正解極まりない反応に、ソラが怒った。
耳の先まで真っ赤にして、顔を伏せて金髪少女を殴っている。弱々しく、痛みなど微塵も感じさせないような叩き方だ。
瞑鬼も少しだけ口元を緩める。瑞晴を見る。目があった。どうやら同じことを考えていたらしい。
財布の中身を確認し、瞑鬼はより先のことを思いやる。
腹の減った三人の少女。ファミレスならいくらで済むのだろう。
「…………お前ら、何食いたい?」
腹を括った瞑鬼の発言に、三人の少女の目が輝いた。
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「我幸福!大謝謝瞑鬼さん!」
「日本のレストラン、美味しいですわー」
「……美味」
海の家から徒歩十分。そのくらい歩くと、温泉街を抜けて歓楽街に出ることができる。夜に暇を持て余した観光客たちから金を毟り取ろうと、そこには大量の店が乱立している。
飯屋は当然。服屋に本屋、怪しい占いからゲームセンターまで、まさにここら辺の娯楽殿だ。
しかし、いくら張り切ったところで片田舎の賑わい方。都会に比べれば、まだまだ熱は低い。
そんな少し寂れた街の、ありきたりなファミリーレストラン。窓際の席に、瞑鬼たちは座っていた。
テーブルの上には、まだ着いて十分なのに三千円分はあろうかと言う量の皿が並んでいる。それがかける三人分。
きちんと服の代金を収めた瞑鬼の財布は、もうかなり寂しいことになっている。完全に全てのバイト代が吹き飛びそうだ。
「……ほんとに一週間何も食ってないのか……?」
「……村を出たのが七月の19だから」
道中の彼女たちの話によれば、ソラを含めた三人全員、ここ一週間ほど何も口にしてないらしい。
三人が村を出たのは、ソラの言った通り七月の19日。ちょうど今から一週間前で、瞑鬼たちの夏休みが始まった時期と同時である。
何でも、夜に船を使って海に出たらしい。頑張ってある程度まではオールを使ったが、途中で帆が破損。そのまま流れに身を任せていたら、嵐にあって今に至るそうだ。
当然のごとく舟は大破。流される途中で、服も一緒に海の藻屑と化したと考えるのが妥当だろう。
三人一緒な海岸に流れ着いたのは、完全な奇跡と言える。
「……落ち着いたら、名前くらい教えろよ」
ちびちび水を飲みながら、瞑鬼はそう言った。
異国へ行くと、まず驚くのが料理ですよね。特にアジアからヨーロッパなどへ行くと、生ものの衛生観念の差に驚嘆します。