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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
逃亡の魔女編
109/252

可愛い可愛い異国の少女

外国から女の子が流れてくる。怖い。

「…………あ」


焦る瞑鬼と、頭の整理が追いつかない瑞晴。数秒間の沈黙の後、先にそれを破ったのは瞑鬼だった。


「……悪い瑞晴、少し協力してくれ」


瑞晴からの先制攻撃が来る前にそう告げる。そしてそそくさと瑞晴の眼前に移動すると、その手を取って店を出た。


こうもあっさりと見られてしまっては、隠すことはほぼ不可能だ。ここであまり時間を取られていては、あの子達がどこかへ行く可能性がある。


どこに何がいるかわからないこんな世界に、幼気いたいけな少女が放浪するのを、黙って見てれる瞑鬼じゃない。


えっ、えっ、と言って、完全についていけてない瑞晴に御構い無しに、瞑鬼は足を早める。


しかし、なんだかんだと言いつつも、何故だか瑞晴は瞑鬼の手を振りほどかなかった。本当に意味が分からなければ、魔法回路を開いてでもして突き飛ばせば簡単に離れるのに。


瞑鬼のペースに合わせ、瑞晴が足を動かす。


「……なに?なにがあるの?」


流石の瑞晴も、突発的すぎる瞑鬼の行動に疑問を感じずにはいられないらしい。


息を弾ませながら、背後で質問を投げかける。


「……多分だけど、漂流してきたた女の子がいた」


「…………マジ?」


瞑鬼から返ってきた謎の返答に、瑞晴は更にこんがらがってしまったらしい。無理もない話だが、今はちんたら立ち止まって話せるだけの時間がない。


急ぎ足で岩礁まで戻ると、そこにまだ女の子たちはいた。さっきの金髪の少女が全員を起こしたようで、残った二人も目をこすって辺りを見渡している。


その光景を見た瑞晴の口はあんぐりとしていた。一瞬だけ、この世から飛んでいたのかもしれない。


しかし、瞑鬼が駆け寄るよりも前に、瑞晴は足を踏み出す。そして瞑鬼の目の前に立ちふさがると、ん、と言って手を差し伸べて来る。


「……なに?」


そう言いつつ、瞑鬼は差し伸ばされた手を握る。こうされたなら、ほとんど反射的にそう動いてしまうのだ。


だが当然、瑞晴の思惑は違っていた。多少足場が悪いとは言え、まさか人の手まで借りるほどではない。


瞑鬼の手が触れた瞬間、ほんの刹那の時間だけ、瑞晴の頰が赤く染まった気がした。


その瞬間に、瞑鬼は自分が犯した最悪な間違いを悟る。自然にやってしまっただけに、恥ずかしさは何倍にもなってしまう。


「……すまん」


こちらも顔を赤らめて、すぐさま手を離していた。若干名残惜しかった、なんて言えないのは、瞑鬼がまだ意地を張っているからだろうか。


くすくすと笑うと、瑞晴は瞑鬼に暖かな声色で言う。


「荷物貸して?神前くんはさすがに、ね?」


どうやら瑞晴は、この距離で三人が裸であることを見抜いていたらしい。視力が年々地を這うように低くなってきている瞑鬼からしたら、何ともうらやましいことだ。


瞑鬼から、着替えとタオルが入った一式をもらった瑞晴。急ぎ足で少女たちに駆け寄り、丁寧に体をぬぐってやる。


「あなたはこの子をお願いね」


一人だけ瞑鬼のシャツを着ていた少女に、瑞晴がタオルを渡す。もちろん、全ての会話が英語だった。


一目見ただけで、英語じゃないと通じないと悟ったようだ。


さながら娘の世話をするお母さんのような光景に、しばし瞑鬼の目は奪われてしまう。陽一郎といい瑞晴と言い、桜家の人間はやたらと面倒見のいい血筋のようだ。


みるみるうちに、一人の少女が服を装備された。手を休めることなく、瑞晴が二人の少女に駆け寄る。


しかし、アジア系の女の子の近くに寄った二人は、少しばかり言葉を失っていた。


「……神前くん!お店から救急キット持ってきて!」


不満げに星空を眺めていると、不意に瞑鬼の耳に一閃が奔る。いつもは冷静沈着な瑞晴が、珍しく取り乱していた。


あまりに物珍しい光景に、瞑鬼は一瞬口を紡ぐ。


しかし状況的にもたもたしている場合ではないと察知。頭を切り替えて、すぐさま自体の確認に移る。


「なに?どっか怪我でもしてたのか?」


そう言いつつ、瞑鬼は瑞晴たちの元へ駆け寄ってゆく。


緊急を要する場合に於いて、真っ先にしなければならないのは患者の容態の確認だ。それを見のと見ないのとでは、対応が大きく違ってくる。


携帯の明かりをつけ、何事かと確認に入る瞑鬼。しかし、その光が一瞬だけ少女を照らしたかと思うと、次の瞬間には瑞晴によって光源がふさがれてしまっていた。


「……腹部から出血ね。多分、打ち上げられた時に切ったと思う。から、えっと、うん。破傷風の予防と、あとは……」


当たり前だが、瑞晴は完璧に狼狽していた。何度もなんども思っていたことだが、瑞晴はごく普通の女子高校生なのだ。


医学の知識も、一般的な社会人以上には持ち合わせていない。しかし、それは瞑鬼とて同じこと。


多少陽一郎から、果物の感染症やらを教え込まれているとは言えど、基礎なことに変わりはない。


地を見て焦っているのか、瑞晴は嫌に汗をかいていた。いきなり漂流だの何だのと言われれば、ごくごく真っ当な反応である。


けれど、瑞晴は一目見ただけで手伝うことを決めてくれた。他の高校生ならありえない反射速度で、瞬時に状況を判断した。


元々は瞑鬼が拾った種。これ以上、瑞晴に任せっきりなのは、雇い人である瞑鬼のプライドが許さない。


「いいから落ち着け。あとは任せろ。なるべく血を見るなよ?」


瑞晴の肩に手をかけて、瞑鬼は力強く注意した。


最低限のプライドと、人生でも味わったことがないくらいに重たい責任感を背負った、普通の高校生の言葉に瑞晴が首をふる。


心配そうに仲間を見る二人の少女に目をやると、瞑鬼は急いで浜辺を駆け抜ける。体育祭でも出したことがないくらい全力で走った。


魔法回路を開き、筋力を増強。普通なら歩いて十分はかかる距離を1分に短縮した。


明かりが点きっぱなしだった店に入り、言われていた救急箱の棚を確認。赤十字のマークが入ったボックスを取り出し、それを抱えて来た道を引き返す。


魔法の世界なのに、救急箱を抱えて走る瞑鬼の姿は、さぞかし滑稽に映ることだろう。こんな時に役に立たない魔法に、瞑鬼はもどかしさを覚えていた。


天然な主人公。

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