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上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
逃亡の魔女編
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浜辺で見たものは。

同級生と一緒に銭湯って、どんだけ羨ましい状況だよって感じですよね。


さっと会話を終わらせて、とっとと店に帰ることにする二人。あまりここに長居しては、眠気に襲われた時に帰れる体力がなくなってしまうから、との判断だ。


来た道を引き返し、再び縁日に差し掛かる二人。湯上りの瑞晴なんてこれまでに何度も見たはずなのに、やけに今日は艶っぽい。


全く意識して無かったのに、瞑鬼の心臓は高鳴っていた。こんな雰囲気を感じれたのは、人生で初めてだ。


今だけ、今だけ瞑鬼は、この世界が魔法の世界であることを忘れてしまう。魔王がいることも、魔女がいることも。この平和な景色を見ていると、思わず忘れてしまいそうになるのだ。


明かりのついた露店を抜けると、もうそこはただの田舎に戻っていた。すぐそこが海岸なので、潮の匂いがひどく鼻につく。


海の家に戻ると、もう店長の姿はなかった。万一のために鍵だけは渡されていたので、正面から堂々と入る二人。


二階の自分の部屋に行き、そこで本日の会合は終了する。ここに来て初めて、瞑鬼は一人になった。関羽がいなければ、やかましい朋花もいない。


今頃、あの家で二人と二匹は何をしているのだろうか。恐らくは、2日後に瞑鬼たちが持って帰る海の幸とお土産を期待して、全員交えて話しでもしているだろう。


やれあのイカは炭火焼だの、ブリを照り焼きにするだの。そんなどうでもいいことを話して、今頃はもう布団の中にでもいるかもしれない。


時間が過ぎるごとに、だんだんと瞑鬼は寂しさを覚えていた。いつもなら、隣を見れば必ず関羽がいる。一人でこんな世界に来て、あの猫の存在にどれだけ救われたか。


こんな幸せな日々を、あとどれだけ過ごせるだろう。瞑鬼の周りには、間違いなく不幸が渦を巻いて取り囲んでいる。このままいたら、何か事件が起こる確率は百パーセントと言っていいだろう。


何せこの世界に来て一ヶ月で、もう三回も死んだのだ。元からそんな殺伐とした世界でない以上、この結果は異常であるのに間違いはない。


「…………どうすりゃいいんだよ……」


誰にもなくそう呟くと、ふと瞑鬼は部屋の中を見渡してみる。


海の家の二階に陣取った、従業員ハウスという名の小さな部屋の一つ。あるのは安っぽいベッドと、四角の机だけ。フローリングの上におまけ程度に敷かれたカーペットが、より一層悲惨感を強めている。


窓から覗く空を眺めていると、次第に瞑鬼の中に変な感情が芽生えて来た。いまは夏。この家には瑞晴と瞑鬼しかいない。


店長が帰ってくる時間は不明だが、飲み歩いている以上日付を超えるのは確実と言っていい。そして何より、この場には最大にして最強の長城である陽一郎がいないのだ。


何週間か前からある、瞑鬼に芽生えた変な感情。それを知るために、瑞晴に色々と聞く必要がある。


気がつくと瞑鬼は、瑞晴の部屋のドアの前に立っていた。完全に無意識だった。いつの間にか、というヤツを、生まれて初めて味わったのである。


ここで一つ、部屋を軽くノックでもすれば、瑞晴は入れてくれるだろう。「波の音聞いてると、眠くなるよね」なんて言って、他愛もない冗談を言い合う時間をとってくれる可能性もある。


しかし、そこは瞑鬼も男子高校生。こんな気持ちで部屋に入ったら、待っているのが考えうる限り最悪の結果だということはわかっている。


何度か自分の中の天使と悪魔と決闘。天使が勝った。


大人しく部屋の前から去り、頭を冷やそうと海岸へ。


「……すげぇ」


そこには、瞑鬼の予想以上の光景が広がっていた。


眼前にあるのは、見渡す限りの海。反射した星の光が照り返って、まるで世界が二つあるかのような錯覚に陥ってしまう。


空を見ても月、海を見ても、同じ半月が浮かんでいた。そんな幻想的な感覚に、瞑鬼は目を奪われてしまう。


浜辺から少し先へ行くと、もっと海に近い岩礁地帯へ行ける。そこは岩と苔とで構成されており、感傷的な気分に浸れること間違いなしだ。


こういう役得があるから、海の仕事は辞められない。そう改めて実感した瞑鬼。


サンダルでビーチを歩くと、足の裏から伝ってくる感触が妙に気持ちいい。じゃりっと砂を踏む音も、波がせせり立つ音も。それから、潮風の匂いだって嫌いじゃない。


「写真でも撮っといてやるか」


明日瑞晴に見せるために、瞑鬼はこの写真を記憶と記録に収めることを誓う。本来ならば、一緒に来るべきであるが、こんな心境ではかえって危険と言えるだろう。


足場の固定を確認し、瞑鬼は岩の上を駆け抜けてゆく。砂とは一風変わった、硬くてごりごりとした感触。それも、瞑鬼は好きだった。


ある程度のところまできたら、瞑鬼は携帯のナイトサイトをオンにする。こうすることで、周りが真っ暗でも綺麗に星の光を撮影することができる。


夜空に向けて、シャッターを一つ切る。構図も角度もいい。星空を切り取ったような画が、瞑鬼の携帯のフォルダに追加された。


次は水平線も撮ってみようと思い、携帯を地面と水平に傾ける。すると、画面の下に不思議な影が映った。


今までは暗かったせいで見えてなかったが、その影は明らかに人間のものだったのだ。


「……マジ?」


流石に、こんな所に死体が流れ着いたとは考えたくない。と言うよりは、考えにくいのだ。


船の上から捨てるなら、日本海で捨てるよか太平洋に流した方がよっぽど効果的だ。余程でない限り、潮に乗って流れ着くことがないのだから。


しかし、こんなものを見てしまったら、反応しないわけにはいかないのが瞑鬼だ。理性と好奇心を測った結果、好奇心がわずかに勝ってしまう。


たまたまここで寝ていた地元民、もしくは観光客であってくれ。瞑鬼の頭はそれで一杯だった。


携帯の照明をつけて、恐る恐る近づいてゆく。


「…………これは……、マジか」


あまりの驚きに、瞑鬼はその言葉以外の言葉を失ってしまう。


そこに寝ていた三人。その三人が三人とも、裸で寝ていたのだ。


見た限り、全員同い年くらいだろう。金髪のヨーロッパ系の人が一人と、黒髪のアジア系、それと、よくわからない国籍の人がいた。


そして最大の問題は、一人残らず女の子だった事だ。となると裸なら当然、見えてはいけないものが見えてしまう。


瞑鬼と同じくらいの年齢の女の子の、一糸まとわぬ姿はなかなかに破壊力が高い。一度その威力を身を以て味わったことがある瞑鬼では、変に見たことがある分よけいな記憶のフラッシュバックというオマケ付きだ。


もう瞑鬼はかなりのところまで近づいているものの、三人からは何の反応もない。


もし死んでいたら、なんてことを考えると、気が気じゃなくなる瞑鬼。ダメだとはわかっているが、ついつい手を取って脈を確認せずにはいられなかった。


そして、それが最大の失敗だったと言えるだろう。散々悩んだ末に金髪ヨーロッパ系の女の子の手を取った瞬間、


「…………ん?」


可愛らしい声を出して、少女の目が開く。


さあさあ。出会ってしまったのは誰なのか!?

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