表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
上書き勇者の異世界制覇  作者: 天地 創造
逃亡の魔女編
106/252

賄いのうまさは天元突破

夢の中でも小説を書いていた僕は立派な創作中毒です。

皆さんはどうですか?

「いただきまーす」


閉店後の誰もいない店の中で、三人はテーブルを囲んでいた。もう外はすっかり日が暮れており、当たり前だが砂浜には人の影の一つもない。


最後まで粘った客が帰ったのが、ちょうど今から一時間前。まだ若干日が残っていた、7時ちょうどの事である。


それから後片付けをし、店の掃除と明日の仕込み。それと海岸の見回りを終えると、時計は8時をうっていた。


瞑鬼の目の前に並んでいるのは、今日の余った材料で作ったまかない飯だ。瑞晴お手製のものらしく、意外と味はいい。


切り方も焼き方も、恐らく技術としては瞑鬼の方だが、現役女子高生の手作りというだけあって、それだけで付加価値は絶大となっている。


大喜びで焼きそばと焼き鳥サラダをかき込む吉野。その様子に、瑞晴はえらくご機嫌になっていた。料理には自信がなかったのか、うまいと言われた時は驚いていたほどだ。


「どうだい?今日はキツかった?」


ビールで口の中のものを胃へ流し込みながら、店長様が訊ねてくる。まだ数杯しか飲んでないのに、もう顔は真っ赤になっている。どうやら下戸レベルで酒に弱いらしい。


「……まぁ。思ってたよりかは辛かったです」


「いつもの仕事に比べると、めっちゃ汗かきましたからね」


瑞晴の発言に、瞑鬼の耳がピクリと反応する。


持っていた焼き鳥の串から一気に全部を頬張る。


そして麦茶で流し込む。むだに張り切ったその動作に、店長が思わず期待を抱いてしまう。このままだと、明日にはさらなる重労働が待っていそうだ。


確かに、瑞晴が日頃の仕事で汗を掻くことは全くと言っていいほどない。時代錯誤な自転車で配達も、朝の5時からの搬入もないのだから。


「でもまぁ、普通に楽しかったです。海ってやっぱテンション上がりますもん」


「最後はほとんど貸切で遊べたしな」


くたくたになるまで遊んだせいで、二人の体はぐったりとしている。気をぬくと今にも寝てしまいそうなくらいに、暮時に波に揺られていたのだ。


瞑鬼も瑞晴も、比較的海には好かれている。泳げないこともないし、クラゲと遭遇することもない。


二人の仕事が終わったのは、まだ海岸に若干人が残っていた午後6時だ。海の家は閉まるのが早いのが定石。その法則に則って、この店も日が沈む前には閉められることになっていた。


しかし店長は一人店に残って、最後の客が帰るのを見届ける義務があるらしく、仕方がないから二人で泳いでいたのだ。


だから現在、吉野を含めこの場にいる全員が、水着で晩御飯を喰らっている。上から軽くシャツを着ているものの、現役女子高生の水着姿派なかなかに強力だ。


瑞晴の持つ魔法は、生物を魅了するというもの。そしてそれは、不思議なことに魔法回路を開いてない時も発動してしまうらしい。


残り少なくなったチャーハンに焦点を固定。その端に映る瑞晴の姿を、鮮明に脳裏に焼き付けておく。


「……ほんとにカップルじゃない?おじさん誰にも言わないからさ。ね?」


何度瑞晴が否定しても、何度瞑鬼が勘違いだと諭しても、このおっさんには人の話を聞く耳がないようだ。人間この歳になると、自分の世界が正しいと思うようになってしまうのだ。


何度も聞かれた質問に、何度も返したようにまた返答する。


「……だから、ちがーー」


「さぁ……、どうでしょう」


瞑鬼の声にかぶせて、瑞晴がとんでもないことを宣う。その発言に一番に反応したのは、他でもない瑞晴だった。


恐らくは冗談のつもりで言ったのだろうが、その前にもう顔が赤くなってしまっている。自分の一言に対し、自分で恥ずかしがっているのだ。これでは、嘘であることがバレバレである。


「おうおう、まさか今日なんかあったの?あれか?昼間に店先でガタガタやってたアレか?かぁ〜!おじさん嫉妬しちゃうよ!」


まるで映画に出てくる主人公の親友のような語り方で、吉野は軽快にしゃべっている。一体どこからそんなにポンポンと言葉が出てくるのか。


興味の矛先が向いた瞑鬼が取れるのは、ただ黙って黙々と食事を続けることだけだ。これ以上何かをしゃべったら、どう考えても面倒なことになる。


さざ波まじりに聞こえる海の声に、瞑鬼は耳を傾けていた。


おっ、と言って店長がさらに追求してきそうなのを察してなのか、瑞晴が口を塞ぐ。そして次ぐ店長ターンの攻撃を全て防御。耳を塞いでことごとくを無視し、見事に話をそらしていた。


それから程なくして、今日の晩御飯は終了となる。片付けを終えたら、やっと完全な自由時間が二人に訪れた。


とは言え、明日のことを考えると、それほど遅くまで起きているわけにはいかない。今からなら、風呂に入ってしばらく部屋にいたら微睡みに誘われるだろう。


瑞晴と時間を合わせ、近くの銭湯へ向かう。徒歩で百メートル以内にあるらしい温泉街は、海からの観光客を逃さないための大人の汚い商魂の塊だ。


見慣れた温泉街を歩く。夏休みに入ったせいか、やけに浴衣のお客さんがたくさんいた。まだ七月の中ごろだと言うのに、縁日も開かれているようだ。


子供達の喧騒がやかましい路地を通りながら、二人は歩いている。同じペースで、手にはお風呂セットを握って。


「……知ってる?甘いものってさ、別腹なんだよ」


どこからか漂ってくる綿菓子の匂いにつられたのか、瑞晴が遠回しな聴き方をする。


そしてそこは察しのいい瞑鬼のこと。当然、発言の真意は掴んでいた。


「……別腹に押し込んでくからどんどん……」


「なにか?」


「……いや、なんでも」


にこっと冷徹な笑みを浮かべた瑞晴。そしてそこから只ならぬ殺気を感じた瞑鬼は、自分の身の危機を覚える。


そんなくだらない会話を繰り広げ、向かった先はホテルの温泉だ。海の家にはシャワーしかないため、風呂ならここしかないとのこと。


店長は後から飲み仲間と一緒に来るらしい。恐らく、帰って来るのは日を跨ぐ頃だろう。


高校生なら一人三百五十円で、だたっ広い風呂につかれるというのだから、なかなかの破格と言える。温泉の県ならではの、無駄に安い入湯料を、瞑鬼は初めてよく思った。


一日の疲れと、潮風の運んできたべたべたな肌を洗い流し、熱い湯船に身をつける。ほんの30分いただけだが、随分とさっぱりした気分だ。


瞑鬼が一人休憩ルームでフルーツ牛乳を飲んでいると、そのおよそ10分後に瑞晴がやってくる。


「ごめん、待った?」


「…………いや」


海の家のバイトって、一夏のランデブーとかあるんですかね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ