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すれ違い  作者: 麻沙綺
9/15

頼side2


やべ~。

俺、バカだ。

何で昨日のうちに鍵を渡しておかなかったんだ。

今頃、姉貴は外で持ってるんじゃ……。

俺は、そう思いながら家路を駆ける。


それを思い出したのが、そろそろ定時となる時間だった。

今日は、残業しなくても良さそうだ。

何て呑気に構えてた。

「おーい、頼。飯食いに行こう」

同僚に声を掛けられた時にふと姉貴の事を思い出し、そういえばと考えてから。

「悪い、また今度」

その言葉を言い、机の上を片付け、鞄を手に取ると。

「お先に失礼します」

足早に部署を出た。


会社の出入り口を出ると、一目散に駆け出した。

信号で足止めを食らった時に、姉貴に電話してみる。

「もしもし、姉貴。今、何処に居る?」

そう問えば。

『頼の家に居るよ』

と返ってきた。

もう、居るのか。

なら、玄関の前で待ってるんだろう。

「今から、帰るから、もう少しだけ待ってて」

そう口にすれば。

『うん。慌てなくて良いからね。気を付けてね』

と、逆に心配された。

信号も変わり、通話を切ると人混みの中を駆け出した。



家に辿り着けば、玄関のドアに凭れて、空を見上げてる姉貴。どことなく儚げに見える。

こんな姿、一度たりとも見た事がない俺は、少し動揺した。

それだけ、今の彼氏の事を思ってるのだと、改めて知らされる。


息を整えたところで、姉貴に近寄る。

姉貴が、足音に気付いて、俺の方を向く。

「お帰り」

って、微笑んで見せた。


家の中に入ると。

「姉貴、ゴメン。これ、此処のスペアーキー。昨日のうちに渡しておけばよかった」

自分の間抜けさに肩を落としながら、姉貴に手渡す。


「ううん。勝手に居候してるのは、私の方だし、気にしなくて良いよ」

「俺に遠慮しなくて良いからな」

これは、俺の本音。

姉弟何だから、して欲しくない。

だけど、姉貴は弟の俺に対しても遠慮する人。

だから、言葉にして伝えないと信じてもらえない。

「遠慮は、して、無い、よ」

苦笑いを浮かべる姉貴に、怪訝な目を向けた。


それから、姉貴はキッチンに立ち夕飯を作り出した。

俺は、自分の部屋に行き部屋着に着替えた。

リビングで寛いでいたら。

「頼、ご飯出来たよ」

姉貴が呼ぶ。

ダイニングに行き、食事を済ませてると再びリビングで寛ぐ。

姉貴が居ると飯の心配要らなくて良いや。

何て思ってると、片付けを終えた姉貴が、ソファーに座ったのを見計らって。

「…で、彼氏さんとはあったの?」

聞きたかったことを口にすれば、首を横に振る。

「何で?昨日、会うって約束したよな」

俺は、苛立って問い詰めるように言う。

「今日、仕事に行ってないから…」

姉貴から返ってきた言葉は、俺が予想してなかった言葉だった。

朝食の準備はしっかりしてあったから、会社に行ったんだって思ってたんだ。

何で、行ってないんだ。

「はっ?どういう事?俺は、てっきり、会社が遠くなったから、先に出たんだと思ってた」

俺は、姉貴を凝視してた。

姉貴は、居たたまれなくなったのか顔を伏せた。

「なぁ、姉貴。逃げたって、何にも解決しないんだ。ちゃんと話し合った方がいい」

彼氏さん、凄く困惑してたから。

姉貴が居なくなって、自分が何をしたのかを一生懸命、考えているのだろう。

そう思い、二人が話し合わないと先が進まないと感じたから、俺は彼氏さんに了承したんだ。

なのに、此処に来て、弱い姉貴が出てる。

『私だって、そうしたい……。だけど、怖いんだ。また、彼に捨てられるんだって思ったら…こわくて…」

姉貴の経験上、仕方ないと思う。

今までの男どもは、姉貴の見た目に寄ってきて全く中身を知ろうとはしなかった。だから、振られる度に"男なんて要らない"って口癖のように言ってた。

だけど、今回は何故だか違うような気がする。

俺の感がそういってるんだ。

姉貴の事を大事にしすぎて、会社の人間には、付き合ってることを隠してると思う。

だから、姉貴への被害が無いんだと思う。

俺は、意を決して。

「姉貴。今までの男はそうだったかもしれないが、今回の彼氏は、違うんじゃないか?昨日電話してて思ったんだけど、本当に姉貴の事を心配してた。それに俺の事を疑って"新しい彼氏"じゃないかって」

俺の言葉に弾かれたように姉貴が顔をあげた。

「そんな人が、姉貴を捨てるなんて、思えない」

「……でも」

「大丈夫だって。俺を信じろ」

俺はそう言って、笑みを浮かべた。

姉貴が、小さく頷くのを見て。

「ってことで、姉貴。スマホかして?」

姉貴の前に自分の手を差し出すと、不思議な顔をしながら。

「ちょっと待って、鞄の中だから…」

そう言って席を立ち、部屋に行った。

戻ってくると、俺の手にスマホを渡されたと同時に鳴り出した。

「俺が出ていい?」

と聞けばコクりと頷いた。

画面をタップし、電話に出る。


『伊織……ゴメン…」

と弱々しい声。

俺は、スピーカーにして、テーブルの上に置いた。

姉貴に聞かせるために……。





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