琉生side3-2
あの日は、土曜日で、伊織は仕事が休みで駅で待ち合わせて行くことにしていた。
伊織の事だから、二十分前には着くようにしていただろう。
……ということは、あの時、俺がキャンセルの電話を入れた時には、もう駅に着いていて、何処かで俺とあいつの様子を見ていたとしたら……。顔から、血の気が引いていく。
「ヤベェ、俺、取り返しのつかないことをした」
俺はポツリ溢しその言葉を岸本が拾い。
「おい、どうした。顔が真っ青だぞ」
と声をかけて来たが、それをスルーした。
あの時、伊織が俺に気付いて、跡を追っていたとしたら……、あれを見られていたら……。
考えたくもねぇ。
でも、あり得る話だ。
こんなんじゃ、まともに仕事できそうもない。
どんなに言い繕っても、取り返しがつかない。
気付けば頭を抱え込んでいた。
「佐木。取り合えず、仕事しろ。昼休みに話を聞くから」
岸本の肩を叩かれ、目前の仕事に打ち込んだ。
気になり出したら、中々捗らない仕事にイライラし、ミスを何度も繰り返す。
そんなことしているうちに昼休みに入った。
「佐木。出れるか?」
岸本の言葉に俺は席を立った。
会社から離れた洋食屋に入った。
「食欲無いだろうが、何か食べないと伊織ちゃんに会った時に心配させるぞ」
岸本の言葉に俺は、オムライスを頼んだ。
テーブルの上に注文の品が並ぶと岸本は、直ぐに食べ始めた。
それを見て、俺もスプーンを手にし、オムライスを掬い口にする。
「…で、その落ち込みは、何があったんだ?」
岸本が、本題に入る。
「……もしかしたら、伊織にあいつとキスしてる所を見られたかも…」
そう口にした。
それを聞いた岸本は、何とも言えない顔をして俺を見る。
「あの日は、久し振りのデートだって、お前自信も楽しみにしてただろう?」
岸本には、言ってたんだよな。
あいつのせいで、そうじゃなくなったんだよなぁ。
俺は、ポツリポツリと岸本に話した。
「何で、あいつがお前が予約した店を知ってたんだ?」
岸本の言葉にハッとした。
確かに。
俺は、あそこに行くなんて誰にも言ってないし、こいつにも……。なのに、何故あいつが知ってるんだ?
俺は、訳がわからずに首を振る。
「それって、お前が予約してるところを見てたって事じゃないか?じゃなければ、そう都合よく"相談がある"何て言わないだろ」
そう言えば、予約が取れたときに後ろに誰か覗いていたような…。
あの時は、伊織の喜ぶ顔を浮かべてて、気にも留めていなかった。
「伊織ちゃんって、生真面目だから誤解を解くの大変かもしれないな」
岸本の言葉に肩を落とす。
確かに、早く伊織の誤解を解かねば何処か行ってしまう。
俺が、愛しく想ってるは、伊織だけなんだと伝えなければ……。
だが、その相手が俺から逃げてるのだから、伝えられない。
「伊織ちゃん、今日休んでるのは体調不良だって聞いた。それって、この事とが関係してるんだろ?どうするんだ?」
はっ、こいつ、どこで聞いたんだ?
俺もその情報掴んでなかった。
体調不良って……何処か悪いのか…心配でならない。
今電話しても大丈夫だろうか?
「おーい。大丈夫か?」
「あ、ああ…」
「…で、どうするんだ?俺が手を貸そうか?」
岸本の嬉申し出だが。
「それは、最終で…。取り敢えずは、自分で何とかする」
そう答えてた。
「そうか。どうにもいかなくなったら、俺に声を掛けろよ」
苦笑しながら、岸本が言う。
俺は、それに頷いた。
社に戻り、午前の分を取り戻すように仕事に没頭し、定時で上がり伊織に電話した。
数コール後、留守電に変わった。
何で、出てくれないんだよ。
出てくれなきゃ、話せないだろうが……。
俺は、焦り出す。
伊織を他の男にとられたくないんだ。
だから、電話に出てくれ。
何度もコールして、やっと繋がったと思えば、沈黙が広がった。