琉生side2
呆然としていて、気付けば夜中の12時を回っていた。
何もする事が出来ずに居た俺だが、伊織の事が心配になりスマホを取り出し電話した。
何処か屋根のある場所に居れば良いのだが……。
数コールしてプツリと繋がったから。
「伊織!今、何処に居るんだ!」
電話口で怒鳴っていた。
居場所を言ってくれたら、迎えに行くつもりで居た。
だが、返ってきたのは。
『彼女は、もう寝ていますが、何か急用でも?』
と落ち着きのある声音が返ってきた。
どういう事だ?
伊織には、俺以外にも男が居たってことか?
「ちょ…お前は誰だ!伊織の何なんだ?」
頭に血が昇り、そう問い質せば。
『何だって良いだろう!彼女は寝てるんだ。明日改めてかけ直してください』
そう返されて、電話を切られた。
俺は、スマホをテーブルに置いた。
今のは、一体何だったんだ?
俺は、彼女に電話した筈だが、出たのは落ち着きのある男の声で、もしかしたら俺よりも年上の男が、伊織を拾ったのか?
そんな事が、俺の頭を掠める。
伊織は、見た目は落ち着きにある大人の女性だが、アルコールが入ると途端甘えたがる。そのギャップに惹かれたのが俺だ。俺だけに見せるその頼りないところとか、普段見せない姿を俺の前でだけ見せる彼女に頼られてるんだと自覚させられる。
何気ない、本の些細なことにでも俺を惑わせ彼女。
今回の事も、俺が気付かないうちに彼女に何かしていたのだろう。それが今の現状なのだと思う。
けど、伊織も俺に対して隠し事をしてるんだと思うと、冷静ではいられなかった。
ここ最近の伊織の態度も、どことなしか冷たかったような気がする。俺の勘違いならいいが……。
もしかして、社内で何か噂がたっていたのか?
でも、よく考えれば、俺と伊織が噂になるはずない。
伊織は、社内では徹底的に俺との関係を隠していた(俺は、バレても良いと思っていたんだが)
伊織は、何を耳にしたんだ?
俺は、そんなことを考え込み、ソファーの上で寝てしまった。
「琉生。そんな所に寝て、風邪引いても知らないよ」
突如、可愛らしく呆れたような声が耳に届く。
俺は、慌てて目を開けるが、そこには誰も居なくて、肩を落胆させた。
幻聴まで聞こえるとは…な。
俺は、苦笑を漏らす。
相当重症みたいだ。
俺は、頭を振る。
時計に目を向ければ、10時を回っていた。
頭を覚醒させるためにシャワーを浴びにバスルームへ向かった。
シャワーを浴びながら、彼女の事を考える。
俺にとって、彼女はなくてはならない存在だと今更ながら思う。
彼女が、俺の隣で微笑んでる姿が、目に浮かぶ。
彼女となら、この先の人生も一緒に歩んでいけるとまで思ってたんだ。
だから、取り戻したい。自分の腕の中に。
彼女が俺に対しての信頼が失われてるなら、成心誠意をもって、彼女に尽くすだけだ。
一度失ったものを取り戻すことは、容易ではない事は百も承知だ。
だからこそ、俺の想いを全て彼女にぶちまけて、彼女の不安を取り除きたいんだ。
その為には、行動するしかない。
頭からシャワーをぶっかけて、勢いを付け上がった。
ソファーに座り、テーブルに置きっぱなしのスマホに手を伸ばし電話した。
数コールしてプツリと繋がり。
「伊織?」
と名前を呼べば。
『彼女…姉貴は、出たくないそうです』
と昨夜でた男が言う。
えっ、今、何て言った?俺の聞き間違いじゃなければ、伊織の弟君か?
「もしかして、伊織の弟?」
前に弟が居るって、聞いていたが…。
『そうですが。それが何か?』
と聞き返された。
それを聞いてホッとする俺が居る。
「じゃあ、伊織は君のところに居るんだな」
『えぇ。目の前で、青い顔をして居ますけど』
その言葉に引っ掛かりを覚えたが、電話に出たくないのなら、弟君に伝言を頼むだけだ。
「明日。仕事が終わったら、話し合おうって伝えてくれるか。彼女、多分何か勘違いしてるから、顔を見て話したいと」
俺の言葉に。
『わかりました。そう伝えます』
何かを勘づいたような声が返ってきた。
「お願いします」
俺は、電話口だというのに顔も名前も知らない弟君に頭を下げていた。
今は、弟君を頼るしかないからだが……。
そんな俺の言葉に。
『そう畏まらないでください。ちゃんと姉貴と話をつけてくださいよ。俺にとっても大事な姉ですから』
苦笑を帯びた声で言われ。
「あぁ。そのつもりだ」
少しだけ、声が固くなったのは仕方がないと思う。
『何時か、姉貴から紹介されることを待ってますよ』
弟君は、そう言うと電話を切った。
これで、明日伊織と面と向かって話ができる。
俺は、そう思って安心していたのだ。