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すれ違い  作者: 麻沙綺
4/15

伊織side2

思ったまま出てきちゃった。

行く宛なんて、何処にもないのに…。

どうしよう…。


途方に暮れて、駅のベンチに座り込んだ。

帰宅ラッシュのピークを過ぎた駅舎内は、かなり閑散として居る。強いて言えば、ホロ酔いかげんの中年男性が行き交ってるくらいだ。


これからどうしよう……。

ここから近いのは、弟の頼の所だけど、連絡入れてから行くと断られそうだし…。直接行って、お邪魔させてもらおう。


荷物を手にして、頼の家に向かった。



頼の家の前に辿り着いたのはいいが、呼び鈴を押すのに戸惑う。

彼女とか居たら、と思うと躊躇してしまう。

迷惑だと思うけど、行く宛もない自分にとって、唯一頼れるのが、頼しかいない。

私は、意を決して呼び鈴を鳴らした。

室内にピンポーンと音が鳴り響く。…が、返事も何もない。

もしかして、留守だった?

週末だし、何処かに飲みにでも行ってるかもね。

あ~あ、私、そんな事考えもしなかったよ。

何て思っていたら"ガチャ"って、ドアが開く音がした。

見れば頼が不思議そうな顔をして、私を見てくる。

「こんな時間にゴメン。今日一日だけ泊めて」

私がそう言うと頼は、顔を一瞬だけ顔を強張らせそして笑顔で。

「部屋、余ってるからいいよ」

中に入れてくれた。

そして、そのまま部屋に案内してくれて。

「この部屋、好きに使っていいから…」

入りが、ドアを開けてくれた。

そこには、何色にも染まっていないただベッドが置かれているだけの部屋だった。

「ありがとう、頼。明日には、出て行くからね」

私が、そう口にすれば。

「そんなに慌てて出ていかなくても、暫く居てくれても構わない。部屋が見つかるまで居ても大丈夫だよ。それと引き換えに飯、作ってくれれば良いし」

入り口のドアに凭れて、ぶっきらぼうに言う頼。

頼の言葉に甘えさせてもらおうかな。

「本当、助かる。ありがとう、頼」

私は、笑顔でそう答えた。

すると頼が、突然顔を背け口許を手で覆い隠す。

どうしたんだろう?顔、少し赤くない?

私は、不思議に思いながら頼を見ていた。


頼がリビングで寛いでるなか。

「頼。夕飯食べたの?」

聞いてみた。

「まだ、だけど…」

聞かれるとは思ってなかったのか、少し動揺してる。

「じゃあ、何か作るね」

私は、そう言葉にしてダイニングにある冷蔵庫を開けた。

「姉貴、悪い。俺、買い置きしてない」

冷蔵庫を開けると同時にそう声がかかる。

「そうみたいね。入ってるのお酒とミネラルウォーターだけだもの」

う~ん、どうしようか?

この辺の地理知らないし…。かといって、何にも食べないわけにはいかないし…。

少し考えてたら、此処に来る途中にコンビニがあったのを思い出した。

「コンビニで、何か買って来るね」

私は、鞄を手にして玄関に向かう。

「俺も行く」

リビングで寛いでいた頼が、突然声を上げて言う。

一人で大丈夫なのにな。

何て思いながら、二人で玄関を出た。



「なぁ、どうせなら、どっかで食べていこ?」

頼が言い出した。

この時間なら、買ってから帰って作るよりも食べてから、朝食分だけ買った方がいいか…。

「そうだね。その後にコンビニに寄って、朝食とお酒とつまみを買って帰ろ」

頼の言葉に同意した。

「何が食べたい?」

頼の言葉に少し考えた。

「う~ん。定食が食べたいかな」

バランス良く食べれそうだし…。

「それだったら、こっちだ」

頼が指で指し示して、手を繋いで店に向かった。



頼がよく行くお店だけあって、美味しかった。

それに女将さんも大将も気さくな方で、楽しい時間が過ごせた。


店を出て、コンビニで買い物をして、家に着くと買った物を冷蔵庫に仕舞った。

おつまみとお酒を手にして、リビングで寛いでいる頼に。

「頼、飲も?」

とビールを手渡す。

「ん、いいよ。姉貴と飲むの久し振りだしな」

頼が、笑顔で言ってくれるから、ホッとしてる自分がいる。

「いただきます」

私は、そう言って缶に口をつけて一口飲む。

甘いフルーティーな味が、口一杯広がる。

「おいしい…」

ポツリ呟く。

頼も一口飲み、おつまみに手を出す。

「ごめんね、頼。急に押し掛けちゃって…」

そう口にすれば。

「別に構わないよ」

何でもないように言われれば。

「ありがとう…」

と返すしかできない。

次のの言葉が、見つからないのだ。

「辛いのなら泣いて忘れろよ。明日は、仕事も休みだろ?気の済むまで泣いちまいなよ」

その言葉で、頼は何かに感付いてるのはわかったけど、話す気になれなくて、さっき見た光景が頭の中に浮かび、涙が溢れてきた。


こんな風に泣くつもりはなかったんだけどなぁ…。

頼が、包み込むように抱き締めてくれる。

今思えば、私が辛い時は何時も傍に居てくれた頼。

私の方が姉なのに…、もっとしっかりしなくちゃって、何時も思わされてた。

ダメだね。

寄り添ってくれる人が身近に居るとそれを頼りにしちゃって、強くなれないよ。

頼に頼ってばかりじゃいけないと思ってるんだけど、今だけは傍に居て。

気付けば、涙もおさまり、安心感からかそのまま意識を飛ばしていた。



翌朝。

目を覚ませば、見知らぬ天井が迎えてくれた。

はて?ここは…。

そう思いながら、昨日の事を思い出す。

そっか、頼のところに来たんだ。

私は、ベッドから降りて、部屋の片隅においたトランクの所に行き、着替えを手にシャワーを浴びるために部屋をでた。


シャワーを浴び終え、洗面台の鏡を覗き込めば、目許が赤くなっていた。

あれだけ泣けば、赤くなるのは仕方がない。

私は、昨日着ていた服を洗濯機に放り込み回した。

その間に朝食の準備に取りかかった。


頼は、朝が弱いため少し遅めに起きてきた。

「おはよう、頼」

リビングに入ってくる頼に声をかける。

「…おはよう」

驚いた顔をして、私を見る。

「姉貴…これ…」

そう言って、ダイニングテーブルの上を指す。

「ん?足りなかった?だったら、私の分もあげるよ」

って、にこやかに言えば。

「そうじゃなくて、料理の腕上がってる」

と、呆然とその場佇んでるし…。

「これぐらい、なんともないよ。早く食べよう」

私の言葉に頼も席につく。

「いただきます」

頼が、手を合わせて食べ出した。

どうだろう?

頼の口に合うだろうか?

不安になりながら、じっとその様子を見ていた。

「姉貴、美味しい」

満面の笑みを浮かべて、頼が言う。

「よかった」

ホッとして、自分も食べ出した。



食後、食器を片付けて、洗濯物をベランダに干し終えると。

「頼。買い物に行って来るね」

そう言って、お財布の入ってる鞄を手にして玄関に向かう。

「ちょっと待って。姉貴、何処に何があるのかわかるのか?」

一瞬、何の事かわからずに頭の中に疑問符が浮かぶ。

あっ、そういえばそうだ。

この辺の地理、何も知らないや。

「ったく。準備するから、待ってて…」

頼の準備が出きるまで、玄関で待っていた。

慌てて着替えたわりには、様になってるのでは?

何て、頼を見ていた。

「行くぞ」

頼が、ドアを開けて出る。

「ちょ…待って」

私も、慌てて玄関のドアを潜った。


頼の案内でスーパーへ行き二三日分の食料を購入し、家に戻ると買った物を仕舞う。

コーヒーを淹れて、頼に渡す。

「あ、ありがとう」

私も座り、コーヒーを啜る。

ふー。

小休憩して、掃除しようと立ち上がったところで、私の携帯が鳴り出した。

画面を見たら彼…琉生からで、出るのに戸惑っていると。

「出ないの?」

頼が不思議そうな顔をして私を見てくる。

「…う、うん」

私の困った顔を見た頼が、電話を奪って。

「彼女…姉貴は出たくないそうですが…」

気付けば頼が、その電話に出ていた。

何で、最初の発言が"彼女"なのか疑問に思ったが、話が淡々と進んでるようで、頼から、電話を返された。

「今の、彼氏だよな。とても焦ってたけど、何かあった?」

静かな声で、頼が聞いてきた。

私は、ゆっくりと頷くだけで、言葉に出来なかった。

はぁー。

頼が、溜め息を吐く。

「明日。仕事が終わったら、話し合おうってさ」

頼の言葉に血の気が引いていく。

話し合う?何を話し合うの?

別れ話だよね。

私に愛想尽きたから、出ていけってことだよね。

そんなの、話し合う必要ないよね。

「姉貴?何か、勘違いしてるんじゃないか?彼の口ぶりからすると別れ話じゃないと思うけど?」

頼が、少し寂しそうな顔をして言う。

そんな筈無い。

だって、あんなに楽しそうにしていたんだから…。

「とりあえず、明日、彼に会って話してきた方がいい。何か誤解してると思うよ。姉貴は」

優しい口調で頼が言う。

私は、コクリと頷いた。






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