伊織side4
電話に出た頼が、突然テーブルに置いた。
不思議に思っていたら。
『伊織……? 聞いてる? ハァ……。オレと話すこともしたくない…か』
琉生の寂しそうな声が聞こえてくる。
『まぁいいや。オレが、勝手に話す。…今日、会社に来なかったのは、オレのせいだよな。顔も会わせたくないぐらいなんだもんな。話したくもないよな……』
そうじゃない、ただ怖いの。
要らないって言われるのが……。
あの時の二人が、とても絵になっていたから……だから、離れようと思った。
『一昨日は、ごめんな。あの日、思ったよりも早く仕事が片付いて、待ち合わせの時間まで余裕があったから、アイツに"相談がある"って言われて、ほら、オレとあいつ同期だろ、話だけでも聞いてやろうと思ったんだよ。それが、なかなか話をしないアイツに連れられて来たのが、予約してた店の前。オレさ、実は浮かれてたんだ。ほら、最近オレの方が忙しくてろくに一緒に出掛けてなかっただろ。久し振りの伊織とのデートに、さ。何処かで油断してたみたいで、アイツが知ってたんだ、オレがあの店をあの日に予約してたのを……』
琉生が、ゆっくりと事の真相を話してくれる。
『伊織の事だから、待ち合わせの時間よりも早めに来てたんだろ。だから、駅からオレが出てくる所を見て後を追ってきて、キスシーンを見てしまったんだろう。あの時オレは、油断してたんだ。本当なら、オレの隣に伊織が居て、一緒にディナーを食べて同じ家に帰りながら、たわいのない話をしながら歩くことを想像してた。その隙を吐かれて、向こうからしてきた。もちろんオレは、突き飛ばしてやった』
エッ……。
『伊織は、最後のとこを見ずに踵を返したんだろうと容易に想像できる。お前の事をずっと見てきたから……』
その言葉には、嘘はないと思いたい。
『オレが、好きなのは伊織だけだ。お前が傍に居ないと安心できないんだ』
どこか弱々しい声。
私は、思わずスマホを手にし、スピーカーホンを解除し。
「琉生……ゴメン……。琉生の事疑ったりして……」
ポツリと声を出した。
『オレの方こそ、ゴメン。凄く反省してる。だから、オレのところに戻ってきてくれないか?』
「…うん」
って、頷いた瞬間スマホを奪い取られ。
「もしもし、彼氏さんですか?姉貴、大泣きして大変なんですよ。直ぐにでも引き取りに来てください」
頼が、こっちを見て舌を出す。
私、泣いてなんか……。
手の甲で頬をなぞれば、微かに濡れてる。
琉生と話して、安心したのか、次から次へと涙が伝っていく。
あれ、可笑しいなぁ、止まんないや。
そんな横で、頼が淡々と電話していた。
来たときに直ぐに部屋を出て行くつもりだったから、荷造り(?)は直ぐに終わった。
その間に琉生が来て、頼が対応していた。
鞄を手に部屋を出て、リビングに向かえば重苦しい空気が漂っていた。
えっと……。
声をどうかけようかと思い悩んでいたら。
「姉貴、何そんなところに突っ立てるのさ。こっちに来れば」
頼が私に気付いて、声を掛けてきた。