悪役令嬢は体育会系
「エリザベス公爵令嬢!君との婚約は解消させて貰おう‼︎」
声高に私に言い放ったお方はこの国の第一王子
まあ、こう言われると知っていたので取り乱すなんて事にはならないけどね
そう、私がいるここは乙女ゲームの世界
で、逆ハーヒロインからの断罪最中でーす☆
私悪役ポジだから
「理由を、お聞かせくださるかしら?」
「お前はマリアを虐めただろう‼︎
そんな事をする奴をこの国の王妃には出来ない‼︎」
「今私が話しているのは殿下ですのよ
黙っていてくださるかしら、ザイアス宰相子息様」
「話をそらそうとしても無駄ですよ
貴女が彼女を虐めたという証拠は既に揃っているのですから」
得意顔のバイモン騎士団長子息
こういうドヤ顔をしてるって事はかなり完璧なニセ証拠品を作ったのね……
全く、へんなとこで昔から器用なんだから
とりあえず、そこのドヤ顔ヒロインをなんとかしないとね
ムカつくわ
「アレを……」
側に控えている侍女に言えばすぐに出てきたアレ
ソレを前につき、彼等を睨み据える
「で、何だったかしら?
同じ事を、もう一度、言ってごらんなさいな」
「エ、エリザベ……」
あらあら声が震えちゃって
マリアさんが不安そうにしてるわよ
ダメじゃない
「大きな声で‼︎
ハッキリと‼︎」
「「「はい!」」」
私が怒鳴ると条件反射のように直立不動になり、返事をする面々
よかったー
私の教育が無駄にならなくて
「もう一度聞くわ
貴女たちが言った事を、もう一度、言ってごらんなさい」
「先生に婚約を解消して頂きたいと言いました‼︎」
「先生がマリアを虐めたと、先生は王妃にふさわしくないと言いました‼︎」
「先生がマリアを虐めた証拠は残っていると言いました‼︎」
元気よく、大きな声で、ハッキリと言うもう18になる高位の青年達
「そう
ねぇ、仮に私がそこの男爵令嬢を虐めていたとして、どんな問題があるのかしら?」
「「「全く問題はありません!」」」
「そうよね?なら、彼女を消されたくなかったら”私の手”が届かないところへ行かせなさい
不愉快だわ
そうね……例えば、修道院とか……ね?」
「「「はい!」」」
私の睨み1つで彼等はヒロイン……マリアを会場の外出そうとする
扉には彼女の養父、それを見てやっと正気に戻ったヒロインが喚き始める
「どうして私が修道院に行かなきゃならないのよ!
私を虐めたあいつが行くべきでしょ⁉︎
とゆーか何なの⁉︎この手のひら返しは
みんな私が好きなんじゃないの⁉︎
守ってよ‼︎」
「さっき怒鳴られて正気に戻ったよ
期待させたのは悪かった……僕、さっきまでボンヤリとしていてね、操られていたような感覚だったんだ」
「すみません……ですが、私達にとって先生は絶対なのです」
「すまない、だが、こればかりは……
貴女もこの変な強制力の被害者なのだろうが、先生の逆鱗に触れてしまった以上もうダメだ
せめてもの償いに評判のよい修道院を紹介しよう
どうか生き延びてくれ」
三者三様の拒絶の言葉に呆然とし、無抵抗で連れられていくマリア
彼女が見えなくなり、会場に静寂が訪れた
「殿下、ザイアス宰相子息様、バイモン騎士団長子息様」
うわー、静かな舞踏会のホールって結構響くのね
余計に怖がらせちゃった
名前を呼んだだけなのにみんなビクッとなって固まってる
「嫌ですわ、そんなに固まらなくても怒ったりしませんわ
よく、最後に正気に戻りましたね」
アレ……もといバットを侍女に返し、彼等に近づき頭を撫でた
正しい事をしたら褒める
うん、常識だよね
「先生ぇ……僕達、なんか、記憶が曖昧で……
彼女を愛さなきゃ、先生を切り捨てなきゃって暗示みたいのにかかってて……
でもね、先生のバット持った姿みたら恐怖で我に返ったんだ」
第一王子が涙を浮かべながらしょんぼりしている
やばいわんこ属性……
尻尾が見える……
「ええ、百本ノックが頭にチラついたお陰で目が覚めました。ありがとうございます」
心底ほっとしたように胸を押さえるザイアス様
あれ?腹黒キャラの筈なんだけど……ただのヘタレになってない?
「鍛錬が足りなかった……
もっと精進する」
言葉少なに反省の意を唱えるバイモン様
ん、安定の無口無愛想キャラだね
まあ私の一世一代の危機を回避してくれた事だし、さっさと許してお開きにした
夜会も迷惑かけたしさっさと退場する
それにしてもこんなに上手くいくとは……
正直、賭けのようなこの方法で上手くいった事は今でも疑問だ
どんな方法かって?
それを話すなら10年前に遡らなければならない
10年前、まだ8歳だった私はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームの世界だと気づいた
そして、当時既に決まっていた殿下の婚約者という立場を利用して陛下に直談判しに行ったのだ
もちろん、前世がどうのとか、そういう話じゃない
このゲーム、実はミニゲームにこの国の歴史のテストがあった
全部正解しなきゃ、殿下と同じ、学年1位に並んで興味を持たれるっていうフラグが立たないから、全力で覚えたよね
その歴史の中で、私が8歳くらいの頃に大地震が起こるっていう内容があったから、それを王に進言して、私が未来を見る力があると信じさせた
そして、『殿下とザイアスとバイモンが将来男爵令嬢に誑かされます』と言って、私を彼等の生活態度の教育係に任命して頂いたのだ
幸い私は殿下達より3つ年上だった為、力勝負でもしばらく勝つ事が出来たので、力にものを言わせる恐怖政治を行った
前世、高校生で死んだ、何のスペックもない私が出来る事なんて、部活動でやられた恐怖政治しかないのだ
私は顧問をリスペクトした
殿下達が私を見つけたら私より先に挨拶をさせ、貴族の子女にイタズラなどしようものなら百本ノック
城を抜け出そうものなら訓練場10周
例えゲームの強制力が働いても体が反応するように仕込みに仕込んだ
これは先程のが良い例だ
ちゃんと効果を発揮している
次に、私がやったのは私的絶対王政を正式書類に残す事だ
ゲームの強制力で私がいじめをした事になる?
上等だ
私がいじめても大丈夫にすれば良いのだ
幸いこの国は絶対王政
このままじゃ農民の一揆が起こると王を諭して、絶対王政の何たるかをしっかり文書にしたためさせた
要約すれば、階級社会でしょ?
王様絶対でしょ?
王様が処刑って言えばそれは天罰なのよ
王様絶対=王様神様なのよ
それって階級社会の名の下に成り立ってんだから、公爵家が男爵家虐めたところでそれも天罰なのよ
って感じ
いやー、上手くいったね☆
……この国大丈夫かな?
そんな訳で私は平和を手にした
どうせ鬼顧問的存在だった私に恋愛感情なんて抱くはずないから、仮面夫婦になるだろうし、公務以外は孤児院に入り浸ろう
前世の夢の保育士を今生でやってやろうじゃないか!
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「もういいぞ、解散しろ」
僕の号令で散り散りになる”貴族達に似せてメイクをしたエキストラ達”
「残念でしたね殿下
折角あの妙な感覚に流された振りをしたというのにヤキモチ1つ焼いて貰えなくて」
笑いを含んだ声で揶揄ってくるザイアス
そう、実はエリザベス曰く強制力というやつは既に自力で打破していたのだ
だから、この夜会のメンバーだってあらかじめエキストラに入れ替えられたのだ
それもこれも、全てはエリザベスにヤキモチを焼いてもらいたいが為であったというのに……
「それにしてもまだエリザベスは百本ノックと言えば俺たちの動きが止まると思ってるのか……
確かにトラウマだが、流石にもう取り繕う事くらい出来るぞ
まあ、あの教育は生意気なガキだった俺たちの性格を矯正してくれたなら感謝はしているが……」
「まあまあ、それは私達がそう思わせて来たんだからしょうがないでしょう
それにしても殿下、いつまで続けるんですか?
あの気持ち悪いキャラ」
「結婚するまで
アレだったらエリーは僕に警戒心を抱かないからね」
「エリザベスが作ったあの穴だらけの絶対王政を唱えた書類で脅せば1発でしょうに」
「そりゃそうだけどさ、
因みにアレ穴もうないから
父上が『アイディアは悪くないな……当たり前の事を今更書いたただの記録文書に見立てて、他からなんの圧もなく王権を強化出来るぞ』って言ってちゃんとした文にしたから」
「はぁ……本当ですか……
全く、親子揃って食えないお人だ
それにしてもなんで殿下はエリザベスに好いて欲しいのですか?
エリザベスの様に政略結婚と割り切るのが普通でしょうに……それにぶっちゃけバカですし、特として好きになる所がわからないのですが」
「それ俺も気になるな
あの鬼教育係だぞ
ふつー嫌いになるだろう」
さっきまで王権の話をしていたのになんの前触れもなく話を変えるのはザイアスの癖だ
……にしても、そんなに不思議な事なのか?
「あのさ、物心つく前からずっと親に好きになりなさいって言われていた子がさ、可愛くて、自分の事を大切にしてくれて、良い子だったら好きになるだろ?普通」
それぞれ自分の婚約者を思い出したのだろう
確かに、と顔に書いてある
俺たちの様な支配階級だと信用できる相手がそもそも少なすぎる。
その点、幼い頃からずっと密偵を走らせたり、共にいたりした婚約者が一番安心して好きになれるのだ
まあ僕の好きは異常な自覚はあるが
はやく僕の手の中に落ちてきてよ
君が前世持ちって事も、前世に想う彼氏がいた事も、仮面夫婦を利用して夢を叶えようとしていることも、
君が寝言で言っていたという報告が密偵から入っているから知ってるよ
何1つ許せない僕を許して
前世の君を僕が知らないのも、君に想って貰える男も、君が僕の元を離れて夢を叶えることも許せないけど、そのかわりに僕は君を大切に閉じ込めて幸せにするから
エリザベスがこの事を知るまであと数年
ドロドロに甘やかされて、翼をもがれるような女性ではなかったと殿下が知るのもあと数年