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第七説 北欧に眠りし神々

前回のあらすじ

いくつかの宝玉を封印した彼らは次に目指したのはユグドラシルの谷だった。

 世界の中心は現状地上では帝国が世界を支配しているため、帝国を中心とされている。その帝国をはるか北上し、西へ向かうと光の国、そしてデグラストルがある。その途中の国がユグドラシルの谷である。この時代はまだ帝国には侵略されておらず、健在である。


 そのユグドラシルにレイジ達は向かう。


「なんでユグドラシルなんかに? あそこって他国と関わりないしヘタすれば問題が起きるぞ」


 ユグドラシルはとても閉鎖的だ。住民は誰も外に出たことはなく、また外から来るものも滅多にいない。


「問題はないよ。同族だしね。ヘイムダルに頼んでビフレストを掛けて貰えばすぐにアースガルズ地方に行ける」


 ヘイムダルとはユグドラシルの谷のアースガルズ地方の門番であり、ビフレストはアースガルズへと続く橋のことである。


「そうか……? まあでもルナにはルナの考えがあるんだろう。ここは大人しく従っておくよ」


「ありがとう」


 彼らはすぐに行動した。そして数時間後、巨大な滝を目にする。


「凄い景色だな……この世のものとは思えない」


「ああ、ユグドラシルは事情さえなければ観光地としてとても良いところだぞ。で、あの真ん中のでかい木がユグドラシルの樹だな」


「別名世界樹というやつか。あそこの根元になんかありそうだな」


「ああ、レーヴァテインというのがある。特異性のある武器でレイジの天地の剣と同じく選ばれた者でしか扱えない。今はシンモラが保管しているがな。で、レーヴァテインを対をなすヴィゾーヴニルというのが世界樹の頂点にいる。ま、この地方の話はこの辺にしておこうか」


「随分と詳しいんだな」


「神様だからな」


「その言葉便利すぎないか?」


「へへ。それじゃ、ヘイムダルを呼ぼうかな。ヘイムダル‼︎」


 彼女が叫ぶとヘイムダルという人物、もとい神が出現した。


「何だ。……お前か」


 どうやらヘイムダルはルナを知っているようである。


「ビフレストを掛けて欲しい。お客様だぞ」


「残念ながらここに客人を入れるつもりはない……だが、お前の連れという理由ならば入れよう」


「助かるよ」


 ヘイムダルはすぐにビフレストを出した。虹色に輝く橋は、これまたこの世のものとは考えられない。


「おっさん、よくわからんがありがとうよ」


「私はヘイムダルだ」


 どうやらおっさんと呼ばれたのが気に食わなかったらしい。


「ああ……すまん。サンキューヘイムダル。俺はレイジってんだ。ただの旅人さ」


 デグラストルの王であることは隠すようである。


「レイジ。一つ忠告しておく。誰もお前を歓迎することはないだろう。いつ敵対するかは知らない。油断はするなよ」


「忠告ありがとうさん。でも俺は俺のやりたいようにやる。旅ってのはそういうのだからな。それじゃあな」


 ビフレストを渡り、大きな門の前に彼らは立った。


「……で、渡ったは良いけど」


「あー……この門はね」


 ルナは門の右側に寄り、押した。すると小さな扉となっていて、それが開いた。


「え⁉︎ そっち⁉︎」


 衝撃的な事実にレイジは唖然とした。


「普段はこっちよ。この門はいざという時のためにあるの」


「……なるほど。それじゃ、街に繰り出しますか」


 門を潜ると、そこには黄金の都市が目に映った。


「眩しっ!」


「太陽だけじゃなくヴィゾーヴニルの光もあるからね」


 その眩しさに目を取られていると、両手、背中を謎の存在に抑えられた。


「⁉︎」


 まさか、いきなり敵なのか、と思った彼だったがどうやら違うようである。


「久々のお客様だ!」


「ちょっとお姉さん張り切りすぎなんじゃ」


「仕方ないわよ。新鮮さが足りないのだから」


 三人の女性がほぼ同時に喋る。ちなみに彼の腕、背中には胸が当たっている。決して豊満ではないが、柔らかい感触に包まれた彼は顔が歪み出す。


「だ、誰? ていうか……右におっぱい、左におっぱい、背中にもおっぱい……!」


 理性がどっか行ってしまった彼は気が狂い始める。


「ちょ、あんたたち!」


「あら、あんたルナじゃん。久しぶりね」


 ルナの方を見て右にいる女はニヤリと笑った。


「このノルンのバカ姉妹共! そいつは私の男なんだから!」


「あー……まあ良いじゃん」


「良くない! 離れてこのバカ女!」


 ルナは一度スイッチを入るとこれだ。


「仕方ないわね」


 三人は一斉に彼を離すと、彼はぷしゅーっと風船から空気が漏れるように萎んでいった。




 その後、気を取り直した彼は彼女らに説明を求めた。


「で、あんたたちは一体何なんだ?」


「ノルンの三姉妹よ」


 何故かルナが答える。


「そう、そこのルナの言う通り私達はノルンの三姉妹と言われている。で、私の名前はウルド。三人の中の長女だ」


 ウルドは先程左に捕まっていた女性で、金髪だ。


「私ヴェルダンディ! 次女よ!」


 ヴェルダンディは黒髪である。右側に居た女だ。


「痴女?」


「じ、じょ!」


「じょ、冗談だよ冗談……はは」


 しかし、あながち間違っていないのかもしれない。


「私はスクルドです。ノルンの末でありながら戦乙女(ヴァルキリー)です。よろしくお願いします」


 スクルドは銀髪。礼儀正しい。背中にくっ付いていたが……。


「成る程、それがあんたらの名前だ。にしても仰々しい挨拶だな。いきなり抱き付いてくるなんて……良いものだな!」


「おい」


 ルナはかなりイライラしているので彼の耳を摘まんで引っ張った。


「いででで‼︎」


「で、なんでここにいんのよ。普段はユグドラシルの根元にいるんじゃなかったの?」


「あ、それは……すみません。私が視ちゃったもので」


 スクルドは未来予知ができる。ライトとは違い、直近のものでしかないものの、かなり詳細なものが視られる。


「そんで歓迎しようと思ったわけさ!」


 耳を引っ張られるのを慣れたレイジは話す。


「ヘイムダルから誰からも歓迎されないって言われてたのにな。全く、よくわからんぜ」


「でもまさかこんな作戦に出るとは思わなかったけどね。ヴェルダンディが言い出すものだから」


「やっぱり痴女じゃないか!」


「言うな!」


 レイジの顔面にヴェルダンディの拳が炸裂する。


「ふべっ⁉︎」


「あっ、ごめん! ついうっかり……ね?」


「ちょっと、レイジに手を出して良いのは私だけなんですけど⁉︎」


「そふぇってぉういう意味なんぇすかね……」


 顔を抑えながらレイジはトホホと嘆いた。


「まあまあ、とりあえず喧騒はここまでにしておいて街の案内をしてやるよ。あんたがどんな目的で来たかは知らないけど、最低限のものはするさ」


 長女のウルドはその場を収めた。一度落ち着いた後、レイジはウルドに案内を頼んだ。


「俺もルナから全く聞かされてないんだ。この地方のこと全く知らないし……なので宜しく頼むよ」


「任せな」


 男勝りなウルドは手招きをして街の中に行った。


「ようし、折角だし堪能させてもらうぜ」


 彼はそれについて行った。ルナ、ヴェルダンディ、スクルドも続く。




 食べ歩きをしながら一通り街を探索すると、ウルドはこれで案内は終わりだと言った。


「ありがとうなウルド。おかげで楽しめたよ。俺とルナだけだったら不安なことあっただろうし」


「そうであろう。感謝するんだな」


「姉様……尊大すぎる態度は嫌われますよ」


「おっ……そうか。まあともかくこれでアースガルズはお終いだぞ。あとはオーディンの元に行くと良い」


 ウルドはスクルドの忠告をサラッと流した。彼女は何もレイジに好かれたいと考えてもいないし、それに尊大は彼女にとって普通なのだ。レイジも大して気にしていない。


「オーディン?」


 彼はその名を知らない。ルナに聞くとあんた馬鹿ねと返される。


「オーディンは我らの主神です」


「とはいっても本当は敵なんだけどね」


「んん? どういうことだ」


「この黄金の時代を終わらせるのが私達だからだ。だが、現状終わらせるつもりはない。どうせすぐにラグナロクは訪れる。私はそれまでにお前をオーディンの元に案内するだけだ」


「お、おう? 全く話がわからないが要はオーディンに会えば良いんだろう?」


「会えれば良いのだがな」


「オーディンはいつも風のようにどっかいっちまうんだ」


「私の未来を持ってしても視えませんからね」


「特性がレイジと似ているのよ。もしかしたら気が合うかもね」


 オーディンは風神とも呼ばれ、旅好きの爺さんだ。同じ風属性で旅が好きなレイジとは気が合うのは確実だ。


「一つ確かな方法はある」


「ユグドラシルの中に入ることだね」


「ユグドラシルは知識そのものですから。知識を欲するオーディンは度々現れます」


「本当ならあそこにある宮殿、ヴァーラスキャールヴにいるんだけど……ずっといないらしいよ」


「ふーむ……じゃあユグドラシルまで案内してもらおうかな。そのヴァーラ……なんちゃら? にはいないんだろ」


「そうですね。では根元まで案内します」


「そっから私達とはお別れだ。私達とて使命があるのでな」


 ノルンの三姉妹はユグドラシルを維持するための使命が与えられている。そのため長時間空けることは滅多にないのだ。今回はたまたまである。


「分かった。お前らにも使命とかがあるんだな。神様は使命を与える方だと思っていたが」


「ここの神は人間と然程変わらないさ。いやむしろ……。そっからはオーディンから聞くんだな」


「……? それはともかくユグドラシルに行こう。こっから見てもでけえんだ。根元に行ったらド迫力だろうぜ」


 五人はその後ユグドラシルまでノンストップで行った。


「言葉になんねえ」


 それほどまでにユグドラシルのスケールは大きかった。


「世界樹の葉が高く売れる理由ってのはそういうことなのね」


 ユグドラシルの落ち葉を見てルナは感心していた。その葉は一枚で人が包まれるくらいの大きさだ。


「落ち葉に価値はないんだけどね」


 ヴェルダンディが釘を刺した。


「そうなの?」


「あれはもう薬草としての効き目がないんだよ。生えてるのを取ってきたやつが流通してる。とはいっても時間に限りがあるからそれほど本数はないんだ。だからこそ高いのさ」


「なるほどね」


 ルナは頷く。が、レイジは何の話かさっぱりなのでまた聞いた。


「世界樹の葉ってどういう効果があるんだ?」


「簡単に言えば病気の人を簡単に治せる薬草よ」


「おお、そりゃすげえな」


「葉っぱに包まったら数分で治るんだよ。すげえだろ」


 ヴェルダンディは得意気に言う。何故ならユグドラシルを管理しているのは彼女らであるからだ。言い換えればノルンのおかげで世界樹の葉が得られるということである。


「だがそれも今に終わるさ。終焉の刻は近いのだから」


「姉様……」


 ウルドはラグナロクの話を持ち出した。


「ラグナロクが始まればユグドラシルは無くなる。均衡が崩れ、世界に終末が訪れる」


「なるほど」


 実は良く分かっていない。


「あそこに小屋があるだろ? あそこに怪我人を運んで治すのさ。色々と専用の機材があるんだよ」


「ん? こんな平和そうな国に怪我人が出るのか?」


「出ますよ。一見アースガルズは平和そうに見えますが常に戦いを強いられています。ヨトゥンヘイムはアースガルズを敵視しており、時折攻撃を仕掛けてきます」


 何も知らない彼にスクルドが補足する。


「ほーん、まるで俺たちの国と帝国だな」


「帝国の王……まあ、あいつらも同類だもんな」


 ヴェルダンディは意味深な事を一人呟く。


「で、さっきウルドが言っていた終焉とやらが来ると均衡が崩れてヨトゥンヘイムにやられておしまいってこった」


「いや、それは違う。やるのはムスペルヘイム……スルト」


「誰だそりゃ」


「詳しい話はオーディンに聞くんだな。私たちに言えることはここまでだ」


「そうか、残念だ。じゃあそろそろお開きにしてオーディンに会いに行こうかな」


「そうしようレイジ。ではな、ノルンの姉妹よ」


「ああ、もう二度と会うことはないだろうから一つ言っておく。スクルドが」


「え、私ですか。ええ……と、貴方たちの未来は決して明るくはありません。ですがきっと意志は受け継がれます」


「ああ……知ってるよ。救世主がいつか来るってことくらい。そんときゃもうラグナロクは起きてるかもしれねえ。だけど、その救世主はきっとユグドラシルも含めて世界を救ってくれるさ」


「……そう、ですか」


「じゃあな」


 そして三人と二人は別れた。二人はユグドラシルの樹の中へと向かう。




 中に入るとすぐに大きな広場に出た。樹の中とは思えない。奥から声が聞こえてきた。


「待っていた。待ち侘びていたぞ」


「誰だ?」


「オーディン。それが我が名」


 オーディンは姿を現した。あまりにも早い登場で彼はビックリする。


「あら、オーディン。待っていたとはどういうことかしら」


「ヘイムダルから天地の勇者が来たと聞いてここに来るだろうと考え待っていたのだ。天地の勇者には伝えねばならぬ事がある」


「伝えること?」


「ほう、それは一体どういうことだ?」


「我らは世界の神とはズレているということだ」


「……? 何のことだよ」


「まず、世界には十の神のみが存在している。その一つはお前に宿っているはずだ」


 風来神のことである。


「とはいえ、我らも神と呼ばれている。本当の神ではない。造られた存在なのだ」


「うーんと、要は贋作ってことか?」


「今はそれで良い。では誰によって造られたのか。それはミズガルズにいる民。人間によって我らは造られた」


「普通神様が創る側じゃないのか?」


「本来はな。だが世界に蔓延る神話は全て人間達の手によって造られた。ここで天地の勇者の話になってくる。天地の勇者の使命は邪神討伐」


「そうなのか?」


「そうだ。お前はまだ何も成し遂げてはいまいが……。その邪神は何も無形のものばかりではないのだ。我らみたいなものもいる」


「ちょっと待て。それじゃああんたら皆邪神なのか?」


「そういうことになる。この世界の基準に合わせればな。邪神が生まれる二つの方法。一つは人の負の感情により造り出されるもの。一つは邪神が邪神を生むこと。我らは人の負の感情によって造られた」


「負の……感情。何故負の感情だとわかるんだ。あんたらはユグドラシルの民に益を齎しているじゃねえか。ユグドラシルの樹みたいに」


「ああ、分かりにくいだろうな。まず、神とは信仰が無くてはならない。信仰とは人の心を満たすもの。人は誰かに縋らなければ生きていけない。独りぼっちは寂しい。寂しいという負の感情が神を造り、それに縋り、信仰を神に与える。本来は人々の(よこしま)な神経が神を造り出しているのだ」


「えっと……なんとなくは分かった。つまり本来の十の神と負の感情による神、邪神に分かれているってこったな。それで、俺に繋がる話とは?」


「覚えておいて欲しいのだ。邪神だからとはいえ全てが悪いわけではないと。勇者の使命において、邪神討伐する際に良く考えてほしい」


「ああ、そうだな。ここの神を見てたら邪神でもとても敵とは思えない。俺はちょっと邪神に対して偏見があったかもな」


「それなら、良い。……他にも知りたそうな顔をしているな。話してみるが良い」


「ああ、スルトって奴なんだけど。それって誰なんだ?」


「スルト……それは帝国にいる」


「帝国?」


「そうだ。あの蛮行を繰り返す帝国の長スルト。又の名をバイス・ユディナ」


「……! スルトってあの皇帝だったのか⁉︎ 知らなかったぜ……」


「奴は普段スルトの名を隠しておる。悪徳を好むことから自らをバイスと名乗り出したのは数百年前。巨人族は卑しいものばかりだ。ヨトゥンの連中といい、ちょっかいをしてくれる」


「デグラストルも良くちょっかいを喰らうんだよな。今はただ耐えるだけしか出来ないのが辛いところだ。いつか救世主がやってくれるんだろうけど、本当は俺が奴を倒したい……無念だな」


「その心は良く分かる。最高神の私ですらバイスは手に負えない」


「そうなのか……ところでルナ、ずっと黙っているけどどうかしたのか?」


 ルナの顔を伺うと彼女はただでさえ白い顔であるのに、より蒼白となっていて恐怖に突き付けられたような顔になっていた。


「お、おい、どうしたんだ?」


「ロ……」


「ろ?」


 彼女の肩を掴み、揺らしても反応はない。ただ一点を見つめている。何だ、と彼はその方向を見ると、一人の男が立っていた。


「ロキ……」


「やぁ……裏切り者の邪神ルナ。まさかのこのこと此処に来るなんてな」


「‼︎」


「ロキ、それは本当なのか?」


 オーディンは彼女が本当に邪神であるのかを問い正す。


「おいおい父さん、しっかりしてくれよ。老いぼれにも程があるぜ。そこにいるルナは俺たちアースガルズを滅ぼすラグナロクの元凶だよ‼︎」


「おい、お前! 何バカなことを言ってんだ! ルナが邪神なわけが」


「父さんの話を聞いてなかったか? この猿が。十の神を除く神とは全て邪神! その女が十の神である訳が無いだろう! 何故なら十の神は」


「黙れ‼︎‼︎」


 ルナは叫んだ。おおっと、とロキは誤魔化す。


「ル、ルナ?」


「私は邪神じゃない……私は邪神なんかじゃない‼︎」


「減らず口だねぇ。だけどもう遅い。既にエインヘルヤル、神々を率いて来た」


「何を勝手な事を!」


「もうあんたの世代は終わったんだ父さん。こっから俺がアースガルズを守る」


 既に樹は軍勢に囲まれていた。


「ルナをどうするつもりだ!」


 真面目になったレイジは柄に手を当て、聞く。


「殺すに決まっているだろう」


「……‼︎ ふ、ザケンナァァァッ‼︎」


 ロキに向かい、レイジは走った。剣を抜き、飛ぶ。そして大きく振り下ろそうとした。


「無駄無駄」


 直前で静止させられる。


「な……」


「おつむが弱い子は嫌いだ」


 手を動かすとレイジは吹き飛ばされた。


「ゲホ……なんて魔力を持ってやがる」


「さあ行け、我が軍勢よ。ルナを殺しラグナロクを止めるのだ」


 一斉に入り込んで来たエインヘルヤルの軍隊にレイジは唇を噛み、眉間に皺を寄せた。


「ヘイムダルが歓迎しないってこの事だったのか? なら……全力でルナを守るだけだ!」


 軍隊に突っ込んだレイジはひたすら剣を振り回し斬り倒していく。


「待てエインヘルヤル! 私の言うことが聞けないのか!」


「無駄だと言っているだろう父さん。もう俺の支配下なんだよ。それとも何か? ルナは無関係とでも?」


「ああそうだ。彼女は我々とは無関係だ。手出しをする必要など!」


「だからあんたは甘いんだよ。いつまでたっても霧の連中に勝てない。これからは俺がやる。指を加えて見ているんだな」


「貴様……!」


 あまりの数の多さにレイジは処理を仕切れなかった。その結果、悲惨な結末を迎える。


「糞……体力の消耗が……ルナ……大丈夫か⁉︎」


 後ろを見ると、既にルナは多数の刃に貫かれていた。吐血した彼女の顔が見える。その目は既に瞳孔が開き、死んでいた。


「ルナ……ルナァァァッ‼︎」


 その声はもう二度と、彼女には届かない。

次回予告

ロキの娘、ヘルは微笑む。彼女はヘルヘイムを支配するもの。ルナにとっては地獄。

地獄の沙汰も金次第というが、これは命次第。まだ希望は潰えていない。立て、救世主の先祖よ。お前はその程度なのか?


次回、VAGRANT LEGEND 第八説 喪失

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