第六説 宝玉散乱
前回のあらすじ
デグラストルに帰ったレイジは早速女性に手を出しかける。しかし、ルナは嫉妬のあまり止めさせた。この時にレイジはただの変態親父ではないかと思われている。その後、ヴィントと話し、エニシの因縁を語られた。
部屋に日が入り、寝ている顔を照らす。段々と温かくなり、やがてチリチリする程になると目が覚める。彼の隣にはレイテがいて、幸せそうに寝ている。
ああ、そうだった、俺は国に帰って来たんだ、そうやって思いに耽るとルナも起きた。
「おはよう……」
欠伸をしながら挨拶をするルナはまだ意識が定まっていない。とても人間らしい神様だ。
「ああ、おはよう。死んだように寝てたな。大分疲れていたのかな」
「まあ、そりゃあね。色々と気疲れしたよ。でも、もう大丈夫。今日からまたやらないといけないことあるからしっかりしないとね」
彼女は自分で顔を叩き、ッシと気合を入れる。
「女の大丈夫という程怖いものはないけどな」
「あら、男の大丈夫という程信用ならないものはないけど?」
「ちげえねぇ……お互い様か」
その後、朝食を食べ終え、ヴィントを呼んだ。
「まあ、大体昨日の今日なんで覚えてるだろうけど、この子を預かって欲しい」
「ええ、かしこまりました」
「ん? やけに素直だな」
昨日あれほど逆上したヴィントが何故ここまで簡単に? と、彼は疑問に考えた。
「ライト様に説教されたので……あの人には逆らえませんから」
流石ライトさん、と思う一方、ルナはやっぱりあの人怖いという印象だった。
「例えば、どんな風に?」
「彼に協力してあげなさい、とか、いずれ未来のためだとかよく分からないことを仰っていました。私にははっきり言って貴方達の家系は理解に苦しみます。ですが立場上断るわけにもいかないので引き受けました」
時が経つに連れてデグラストルとエニシの階級の差、関係の溝は深まってきた。結果デグラストルの尻拭いをするのがエニシであり、何かが起こるたびにエニシが裏で回っているためデグラストルに対してわだかまりが少なからずあるのだ。その集大成がヴィントである。ヴィントがレイジに対して冷たいのはそういう理由がある。そして、その垣根を壊すのもまた救世主であるレインである。彼の策略により息子とエニシの娘を結婚させ、立場を同じにした。彼は一族の因縁だけではなく、エニシの問題も解決していたのだ。今はまだその事を知る由もないので、ただただヴィントには不満が募るのみだが。
「悪かったな……本当に。これが終わったら大人しく国にいるからさ」
「約束してください」
「勿論だ」
レイジは右拳を出すと、ヴィントはやれやれと言って互いに打ち合った。
「これが男の友情というものかしら。私にはそういうのがないから分からないや」
彼女は二人を主従ではなく友情と見た。彼女の目にはそうやって見えたのだった。
「では、レイテ様をお預かりさせていただきます」
「ありがとうヴィント。また帰って来る日まで」
レイジとルナはレイテの頬にキスをする。そして、手を振り、またなと言った。
もう二度と会えないとは知らずに。
「さて、どこから行くか。まずは地の宝玉だよな。宮殿の下には財宝が眠っているらしいが、そこに隠しておくか」
レイジはあまり賢くはないので試練という程の試練は与えることは出来ない。彼の考える試練は宝探しのような感覚に近い。
「ま、最初だしそれで良いんじゃないかしら」
宮殿の地下を歩くと、小さな部屋に辿り着いた。
「ここにあるのか」
部屋に入り、箱を開けると大量の硬貨が目に入った。
「昔はお金を使ってたらしいけど……こりゃどう見ても帝国の通貨だな。初代とかは帝国にいたのか? よく分からないな」
その硬貨にはユディナと刻まれている。実は、レイズ達は帝国を出る前に帝国から金をくすねていたのだ。この話はさて置き、レイジはウィンドを使い、金をばら撒いた。
「で、この底に地の宝玉を置いとくと。んでまた金を元に戻して完成だ」
「凄く簡単なやり方ね。私みたいに番人は置かないの?」
「めんどくさいし、俺にはそんな能力はない。とりあえずそうだな、救世主様とやらは俺が今使ったウィンドを使ってくれたらちょっと嬉しいかも」
十九とはいえ、まだまだ子どものように見える。
「ふーん……次は砂漠に行くんだったよね?」
「行くって言うか直前で投げるけど」
「まあ、そうよね。一回入ったら二度と出て来れないみたいだし……だとしたら救世主はどうやってその試練を乗り越えるのかしら」
「知らん……俺には無理だ。もしかしたら未来では一人くらい生還者がいるかも」
「……大丈夫かしら」
彼らは迷いの砂漠の前に行った。そしてレイジは思い切り天の宝玉を砂漠に向かって投げた。
「良し……未来の勇者、頑張れ!」
何とも投げやりな言い方だが、レインは結局この試練を難なくクリアしている。その事を知るわけはない。
「次はどの宝玉にするの?」
「次は火の宝玉にしよう。どこにしようか」
「じゃあさ、もう一度あの山に行かない?」
「え、今あそこって山じゃなくなってるじゃん」
「あんたがぶち壊したからね……良い事思いついてさ」
「良い事? じゃあルナについて行こう。俺よりもルナのが試練を作るのが上手そうだしな」
「頼られるのは嬉しいけど適当感が否めないのよね」
やれやれと思いながらもルナはあの湖の方へ歩き出した。それにレイジも着いていく。
湖の近くに行くと、邪気のようなものを感じた。
「ねぇ……なんだか様子がおかしくない?」
「ああ、わかる。まるで怨霊がいるみたいだ。まさか……帝国軍の?」
つい最近までここに住んでいたはずである。それまでに感じ取れなかったものが、今はある。
「帝国軍の怨念……悪しき心……邪悪……まさか」
そのまさかだった。邪気は一つに纏まり、視認出来るようになる。ドス黒い衣を纏い、光が放出すると、中から異形の存在が現れた。
「こいつは……⁉︎」
「邪神⁉︎ 不味いよレイジ!」
負の思念から顕れるのは当然邪神だった。天地の勇者が本来倒すべき敵。
「こいつが邪神か……歴代勇者は手こずったみたいだな。俺に倒せるのか?」
「分からない……邪神はそれぞれに特性があって、それがわかるまで弱点が掴めない」
「よく知ってるな。流石は神様ってところか」
忘れられがちだが、ルナは神である。一応、神と邪神はほとんど同じ存在なのでルナは邪神が如何なるものであるかを知っている。
「とにかく、様子を見ましょう。まだこっちには気付いていない……わけないか」
邪神は顔らしきものをこっちに向け、ニタァと笑い、ねっとりとした声を発した。
「汝勇者。汝汝月。我破壊者。我太陽。裏切鉄槌。阿全。我有我阿有」
「何を言っているんだ?」
「神の言葉は私達にしか理解できない。あいつは私達の正体を知っている。そしてあいつは全てを否定するために生まれてきた。……要はあいつが言っているのは私達を殺すということよ!」
「成る程、手っ取り早いな。つまり奴を倒さないと俺達は死ぬということか」
「ええ……そういうこと」
邪神は吠えた。その轟きはこの地域全てに及ぶ。まるで仲間を呼び寄せるかのように。いや、比喩ではない。実際に呼び寄せる咆哮なのだ。この地域の負の思念を全て掻き集め、新たな邪神を生み出している。それに気付いたレイジは苦虫を噛んだような顔をした。
「クソッタレ! 敵が増えてやがるぜ!」
「このままじゃ不味い……本当に……なら、こうするしかない!」
ルナは宙に魔法陣を描いた。
「我らを守護する盾よ、その身宿りて新たな聖域を生み出せ‼︎」
魔法陣は空に浮かび上がり、彼らの周囲約一キロに結界のようなものが張られた。
「セメタリーオブサンクチュアリ‼︎」
「一体何をしたんだ?」
「これであらゆるあいつらの魔術攻撃を無効にしたわ。……だけど使用時間は三分。そして三日に一回しか使えない……それ程までに魔力を消費する魔術なの」
彼女は三分で全ての邪神を倒せと言いたそうだ。レイジはマジかよと思いながらも、やってやるぜと勢い付けた。
「邪神は魔術さえ無効にすれば無力に等しい。ちゃんと物理攻撃は避けさえすれば大丈夫! 頑張ってレイジ!」
「仕方ねえ……俺は勇者だからな! こんな状況、簡単に乗り越えてやるぜ!」
もはや自分が勇者であることを嫌だとは思っていない。むしろ楽しんでいる。これが本来の彼だ。どれだけ辛くても楽しむ。それが彼の強さになる。
「まだまだ宝玉は残ってんだ! 行くぜ風来神! 神格化だ!」
神格化して一掃するつもりなのだろう。しかし風来神は応えなかった。
「……あれ? 神格化出来てないぞ」
「嘘、そんなことってあるの?」
呆気に取られるルナは、自身が神とはいえこの事態になるとは想定していなかった。
「まさか……こいつ……俺に神格化なしで戦えって言うのかーッ! ダーッ! ならこいつで吹き飛びやがれ糞邪神共がぁぁぁぁぁ‼︎」
究、極、幻、風の宝玉を嵌めて叫んだ。
「究極幻風・蝦蟇鼬鼠‼︎」
剣を突き上げると周りの雲がそれに吸い寄せられていく。大量の水に変化し、浮遊する。そして邪神に向かって弾け飛んだ。一つ一つのウェーブは形を持った風のように薄く、鋭い。無抵抗の邪神はスパッと切れ、崩れ落ちていく。
「効いた!」
「いや、まだだよ! あいつら一つになるつもりだわ!」
グチャグチャになった邪神はひとまとまりとなり、巨大化した。
「あいつら……不死身かよ!」
それに答えるかのように邪神は話し出す。
「我形有。我形阿有。汝無力也。全鉄槌」
「もう時間がないよ!」
残り三十秒といったところだ。
「わかってる! くそ、策がねえぞ……なんで神格化出来ねえんだ!」
焦るレイジに段々邪神は近付いてきた。セメタリーオブサンクチュアリの終了を待ちながら。
「クソォォォォォォッ‼︎」
効果が切れた。瞬間、邪神は大きく前屈みとなり、体内から魔導エネルギーを発射した。直撃し、レイジは吹き飛ばされる。
「レイジ‼︎」
「うぐっ……くそ……俺がやらないとルナが……ち、力が入らな……」
ぐったりとしたレイジはそのまま力尽き、目を閉じた。
「レイジィィィ‼︎」
叫んでも彼に声は届かなかった。
ドシン、と大きな足音を出した邪神に彼女は振り返った。
「貴様……!」
「鉄槌。鉄槌。鉄槌」
「良いわ……私の本当の力を見せてやる……平伏良。数多成邪神。全阿概念。我汝神也。権限持制。消去良‼︎」
神の言葉を語り出したルナの前に邪神は止まった。彼女は目を光らせると邪神は一瞬にして消滅した。
「……あまり本気を出させるな愚者よ」
その後レイジに駆け寄ったルナは彼が起きるまでずっと抱き抱えていた。
「……っ」
数時間後、彼は目を覚ました。とはいえ、目の前が真っ暗なので何がどうなっているかわからない。もしかして死んだのか、と彼は手探りで周囲を確認しようとした。一通り自分の身体に触れ、異常がないかを確認し、やがて頭上辺りにきた。何か自分のものではないものに触れる。
「おっ、何だこれ……やわらけえ」
ひとしきりそれを揉んでいると段々とあることを思い出してきた。そしてサーッと背中が冷え、目を閉じた。寝た振りをしようとしたのだ。が、ムギュッと頬を抓られる。
「いでーっ‼︎」
「何呑気に胸を揉んでんのよこのバカ……心配したんだよ⁉︎」
「ル、ルナ……」
胸を彼の頭に乗せていたので説得力に欠ける。わざとやっていたので満更でもないのだ。
「中々起きないから本当に心配したわ」
「……それよりも邪神は?」
「消えたわ。何でかは知らないけど」
しれっと自分が倒したことを隠す。
「で、私の胸勝手に揉んだ謝罪は?」
「あー……ごめん。でも良いだろ? 夫婦なんだし」
「そういう問題じゃ……!」
夫婦漫才はとりあえず置いておくにして、ルナにはまだ隠された力がある。それが何かは分からない。神としての力なのかあるいは別のものなのか。
「いで〜」
彼はグリグリと頭を抑えられ、同時に胸の感触を味わうと何かに目覚めそうになっていた。
「この辺にしといてあげるわ。さて、宝玉を置きましょうか」
「う……で、どこに置くんだ?」
「ちょっと待ってて」
ルナは立ち上がり、手をあげた。それだけで湖の後ろに山が出来た。
「何でもかんでもお茶の子さいさいだな……」
「だって当然でしょ? 神なんだから」
「神だからって許されるもんかね……まあ良いけどよ。そんで、作ったは良いがどんな試練を与えるんだ?」
「簡単よ。あれは活火山にしてあって、その中に放り込むの」
「つまり溶岩の中に入って取って来いと」
「そういうこと。それだけじゃない。溶岩全体に意思を持たせてあって、魔術をほぼ無効にさせるようにしてある」
「鬼畜の所業だな。ま、溶岩くらいなら天地の衣で防げるけど。でも見えない敵と戦うのは嫌なもんだ」
俺は絶対にやりたくないねとレイジは思いながら火山の方へと歩いた。祠の前に辿り着くと、ルナはしたり顔でいた。
「なんだこの趣味の悪い装飾は」
祠はキラキラと光る宝石が大量に飾られている。
「ちょ、ちょっと、結構自信作なんだけど」
「そうか……? ルナの感性は俺にはわからんな」
中に入り、溶岩のカーテンに触れる。
「こっから入っていくということか」
「そういうこと。設置は任せたわ」
「へいへい。ちょっくら行ってくるぜ」
衣のフードを被り、溶岩を潜る。深くまで落ちていくと火の宝玉を放った。
「さて、戻るか。面倒だし転移術で……ってああ、ルナめ、転移術封じやがったな」
転移術は実際ズルしかしないのでルナはその対策を施したのだ。仕方なくレイジはゆっくりと元の場所に戻った。
「転移術封じられたせいで時間かかったぞ」
「あら、後からやるべきだったかしら」
とは言うものの、彼女は何も後悔してない様子である。
「全く……で、次はどうする? 全然考えてないんだけど」
「次はちょっと寄りたいところがあるの。宝玉とは違うんだけどね」
「ん? どういうことだ」
「ま、来てみればわかるんじゃないかしら」
ルナは外に出て、手招きをした。
「わかった。それで何処に?」
「ユグドラシルの谷よ」
次回予告
守るべきものができた。よく分からなかったものがようやく理解できた。彼は否定し、前を向こうとしなかった。だが、今はもう違う。守るべきものーーそれは。
次回、VAGRANT LEGEND 第七説 北欧に眠りし神々
何故自分は今を生きられるのか、どこからやってきたのか。




