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第五説 帰還

前回のあらすじ

ルナを守るため、帝国軍十万との戦いに決着を付ける。戦いの後、子どもができるまで帰ることが許されなくなってしまった。

そして一年後ーー。

 あれから一年、彼は十九歳にして子どもがいた。自分が父親になった実感は全く湧かず、またルナが妻になったということも考えられなかった。


「嵌められた感が凄いんだぜ……」


「ハメられたのはこっちなんだけど」


「う、うるせぇ!」


 なんだかんだ言って、バランスの取れた二人ではあるのだが、レイジがそれを認めない。




 一年前、帝国軍を皆殺しにしてから一ヶ月が過ぎた。ルナがもう一度小屋を作り、二人はそこに住んでいた。そしてある日の夜のことである。レイジは寝ていると、何かが蠢くのを感じ取った。


「な、何だよ……」


 起き上がるとルナがいる。


「何してんの?」


「見りゃわかるでしょ。夜這いってやつよ」


「あ、うん」


 ムードもクソッタレもない二人だ。そして夜這いとは男から女にするものが普通ではないだろうか。


「男ってこういうのされるのが嬉しいものではないのかしら」


「知らねえよ。少なくとも俺は嬉しいとは思えねえな。半分恐怖だぜ」


「残念。仕切り直しした方がいいかな」


「好きにしろよ……いや、ダメだ。まだ早いって」


「じゃあいつになったらやれるの?」


「そ、それは……クッ……」


「女好きと公言する割には目の前にすると臆病になるのかしら。そうやって言うのは見栄っ張り? いや、童貞だからわかんないのかしら」


「う、うるせぇぇぇ‼︎ 童貞は関係ねえだろ! 良いよ、わかったよ……どうなっても知らねえからな!」


 結局、流された彼はルナに飛び掛かった。


「キャッ⁉︎ がっつきすぎでしょ……」


 言いながらも笑っているルナは余裕そうだ。そしてそのまま行為を済ませ、月日が過ぎ、今に至る。




「とりあえず、帰るか。なんだかんだで一年が過ぎた。……あ、そうだ。どうせならここに宝玉置いておくか」


「宝玉?」


 ルナは何それはと思いながら聞いた。彼は説明のために宝玉を見せる。


「ああ、これだ。本来俺の目的はこいつらを世界の各地に散りばめる。次の世代の勇者のためにな。何たって次の勇者は救世主らしいからな。そいつのために試練を与えるべく宝玉を色んなところに置く。その一つがここにする」


「ふーん、なるほど……試練ね。いいわ、丁度良いのが思いついた。で、どの宝玉を置くの?」


「水の宝玉にしよう。湖という安易な考えだが」


「じゃあ、それを私に頂戴な」


「ん? おう」


 彼はルナに宝玉を渡すと、彼女は外に出て行った。彼も付いていく。


 彼女が宝玉を湖に投げ入れると、詠唱を開始した。


「我が子よ、大義のために現れよ」


 すると、湖の主とも言える魚のようなそれが現れた。


「すげえ適当な詠唱な気がするけど……」


「別にそんな必要ないしね。じゃ、君、この宝玉を湖の深くまで置いといてね」


「畏まった」


 それは宝玉を咥え、湖の奥まで消えて行った。


「さ、それじゃあ貴方の国に行きましょ」


「ああ……」


 何でお前が指示すんだよと彼は思いながら渋々返事をした。




 帰る途中の事だ。レイジは確認をした。


「もし帰ったら俺は別の女に話しかけるかもしれないし、もしかすると手を出すかもしれないが本当に良いのか?」


「手を出さないはずではないのか? 別に話すくらいならどうということはない。レイテに悪い影響が出なければ特に気にしない」


 ルナは子どもを抱きかかえながら言った。


「ま、まあそうだけど? そうだな……レイテには俺のようになって欲しくないし、父さんのように子どもを放り出して何処かに行くのはダメだよな」


 ただやるべきをことを見つけた以上、自分もそうなってしまうのかもしれないと考えた。


「我慢して子どもに国を預ければ……か。なんかわかった気がするよ……父さんが言いたかったこと。デグラストルは皆、デグラストルは好きだけど何もしないと居ても立っても居られなくなるんだ。基本的に平和だから、歴代の王は旅に出る。故に子どもに国を任せる。……子どもの気も知らないで。はぁ……俺も結局デグラストルの血を受け継いでいるわけか」


 彼が独り言を言っていると、ルナは不思議がっていた。


「どうかしたの?」


「いや……色々と考えていてな」


 今度はレイテが十五になるまで耐えられるだろうか、なんて考えだすと、これはわりとすぐに答えが定まった。


 耐えられるわけがない。


 やはり彼は歴代最低だ。自覚すらしている。一度レイテを国に預ければすぐにでも飛び出すだろう。


「困ったことがあったら相談して」


「別に困ってるわけじゃないんだ。答えはそう、もう見つかってるし」


「そう、なら良いんだけど」


 その後、特に会話もなくデグラストルに帰国した三人だった。




 帰国したというものの、彼はまず城下町を歩いていた。


「いやあ、久々だなあ。一年も離れたらそりゃそう思うか」


 久しぶりの故郷に胸を躍らせるレイジは商店街を練り歩く。


「ここが貴方の街なのね」


「ああ、地下だけど十分明るいだろ。上と遜色ないくらいに」


 しばらく歩いていると彼は一人の女性を見つけ、声をかける。


「おー! クレアじゃん、久しぶり!」


 後ろから突然声をかけられたクレアという女性は体をビクッとさせて振り返った。


「あ、王様……何故こんなところに?」


「いやあ久々に帰ってきたからさぁ。どう? この後空いてない?」


 会話の様子を見ていたルナは初めは大人しかった。自分で話すくらいなら気にはしないと言ったからである。しかし、彼の会話は過激に進む。


「空いてますけど……」


「じゃあ、家に行って良いか?」


「え、えっと」


 妻である私の前で良くもまあ他の女の家に行こうとするな、と考えたルナは余裕が無くなり始める。ああは言ったものの、実際に目の当たりにすると焦るものだ。そして嫉妬もする。


 ルナがレイジの前に立ち、会話を遮った。


「残念ながら私と先約しているんで」


「お、おいルナ」


 あくまでもルナは自分が焦っている素振りを見せずに話す。


「レイジ、彼女の事を考えて言ったか? 若干引いているぞ。そんな押せ押せな話し方では無理だろう」


「そんなことはないと思うけど」


 その言葉を無視した彼女はクレアに向かって話す。


「クレアとか言ったな? 悪かったな、このバカ男が迷惑かけて。もう行って良いぞ」


「は、はい」


 実のところ、というより既に察しているだろうが女好きであるレイジは、その趣向が全国に知られている。故に誘われても嬉しくないというのが大概の女性の本音だ。国王故に断れないというだけである。レイジは全くその事を知らない。見かけはイカした彼であるからこそまだ許されているがこれがもし醜い顔でおっさんでハゲだったらどうする? つまり、そういうことである。性格は気色の悪いおっさんと何ら変わりないのだ。歴代最悪最低の国王と呼ばれるのもこのためである。


 クレアがその場から去った後、ルナはレイジに向かってレイテを差し出しながら言った。


「この子の前でみっともない姿を見せないでくれ。……それに、私も」


「悪かった……つい癖が出てしまった」


 彼はレイテを抱きかかえると、独り言のように呟いた。


「ごめんなレイテ。俺はもっと考えるべきだよな。お前は俺みたいになるなよ……」


 レイテは不思議そうに彼を見つめていた。特に泣くこともなく大人しい。


 しょんぼりとしてしまった彼は寄り道せずに宮殿へと向かった。




「おかえりなさい。随分とまあ長い旅でしたね。……それに子どもも」


 宮殿の入口にヴィントが立っていた。丁度彼は買い物をしていて、その帰りである。


「ヴィント……いや、別に大したことはやってない」


「ライト様から話を伺いました。宝玉を世界に散りばめると。終わったのですか?」


「いや、それが……」


 事の顛末を話すとヴィントに溜息を付かれた。


「だから、言ったでしょう? この国に残れば良かったのに」


「どうかな……」


 彼自身は気付いていないが、もし彼が国に残った場合、どの道帝国との戦争は免れることはなく、戦うことになる。しかもルナの教導を受けた兵士と戦うことになり、より過酷な事になっていた。そのため、彼のやった行動は結果的に良かったのである。


「ところで、そいつは誰?」


 ルナはまた不機嫌になっていた。ヴィントは長髪であり、女顔なので女性と勘違いしているのだ。嫉妬がどんどん溢れている。


「ヴィント・エニシ。俺の付き人で監視役。もしこいつを女と勘違いしてるなら予め訂正しておく。こいつは男だ」


 エニシ家は元々女系であるため、ヴィントは女性が多い中育っていた。また女装をさせられたりもする。長髪であるのもわざわざ女装のために付け毛を付けるのも面倒だと彼が判断したからだ。


「ああ、そう……」


 ルナは自分自身余裕がないなと思っていた。レイテが生まれてから一年経ったものの、マタニティブルーのようなものが起きているのかもしれない。神なのにやたらと人間くさいのがルナの特徴だ。いや、むしろ神だからこそ愛が欲しいのかもしれない。まだ一度もレイジからは本当の意味で愛されていない。


「それで、その子どもは貴方の子どもで宜しいでしょうか」


「あ、ああ。レイテって言うんだ。ちゃんとルールに従って名前を付けた。で、こっちはルナ。俺の……まあ、妻ということになる」


「よろしく」


 余裕がないと悟られる前に彼女は手を出してヴィントに握手を求めた。


「よろしくお願いします。貴女のおかげで王様はこの国に留まらせる口実ができました」


「ん? その件なんだが……」


 レイジはヴィントが子どもがいることで育ち切るまでこの国から出られないはずだと考えていると察して、前に出た。


「なんです?」


「悪いがレイテはそっちが預かって欲しい。俺はライトさんから言われたことをやらないといけないんだ。天地の勇者の宿命というやつさ」


「……どういうことですか」


「だから、宝玉を世界に広めるんだよ。聞かされたんだろ」


「子どもを放っておいてですか」


「ああ、そうだよ」


「まるで貴方の父親と変わりませんね。貴方が! 憎んだ父親と!」


 段々とヴィントは語気が強くなった。今まで溜まった鬱憤で爆発寸前だ。


「……分かっている。分かっているさ。俺が親になって気付かされた。結局俺は父さんと変わりないって事に」


「じゃあ……なんでいつも私たちを置いて行っちゃうんですか」


 エニシにも歴史がある。いつもデグラストルに振り回され、置いてけぼりを食らう。その本音が漏れた。


「……」


 レイジは何も言えなかった。言い返す事が出来なかった。


 そこでルナが出てきた。


「ごめんなさい。勝手な真似をしてしまって。私にも責任があります」


「どういう意味です?」


「この一年間彼に何もやらせず、そして生むように強要させたのは私だから。彼を責めないで」


「はぁ……まあ今回は良いです。彼女に免じて。そしてライト様にも」


「ありがとう」


「本当、やれやれと言いたいところです。何故私はエニシに生まれたのだろうか……」



 ヴィントはぼやきながら奥に入っていった。


「なんか、帰ってきてからずっと嫌悪な空気にしてしまってごめんな」


 不意に彼に謝られたルナは戸惑った。


「何よ急に」


「いや、その、俺が全部悪いのにさ。本当はわかっているんだよ。何もかも俺が原因なんだってこと。多分、現実逃避したいんだと思う」


「そんなに逃避したいのね……なら貴方の言ったとおりにすれば良いと思う。私は貴方についていくわ」


「良いのか?」


「レイテは完全にこの国に任せることにするわ。……親失格だね。だけど私のせいで無駄にした一年間を取り戻さないと行けないから……早いところケリつけたらまたレイテに会えるから」


「そうだな……全部やること終わったら俺も落ち着くかもしれない。突発的に外に出たいということも無くなるだろうし……いや、その時にならないとわからないけど」


「とりあえず中に入りましょう。一旦気分を落ち着かせる必要があるわ。なんか私色々焦ってたみたい……さっきのクレアの件も含めて」


「あ、ああ……そうだな」


 三人もまた中に入っていく。




 レイジは自分の部屋に行こうとすると、部屋の前にライトが立っていた。


「あれ、なんでここにライトさんが?」


 ルナはまた女か、と呟いた。


「待っていたよレイジ。ここに来るのは分かっていたからね」


「予知能力スか……で、何の用事ッスか?」


 彼は上手く敬語を使うことが出来ない。ぎこちないその口調は何とも言えない感覚である。


「案の定水の宝玉しか置いてこれなかったみたいだからね。少し手助けしようかと思って。とりあえず闇と光の宝玉をくれるかしら」


「ういっす」


 彼は二つの宝玉をライトに渡す。彼女は少し懐かしみながら、それらを空中に投げた。


「救世主に新たな試練を……」



 手をかざすと、宝玉は人の形になった。


「なんじゃこりゃあ」


「ダークネス・ヘルとオルタナティブ。救世主は三つの魂に分割され、やがて一つとなるために作ったものよ。素材は私と夫のもの。ただダークネス・ヘルは夫と違って闇を制限出来ないから残虐性が残っているんだけどね」


「夫って先代勇者のレイビのことで良いんすよね?」


「ええ、そうよ。彼もまた勇敢だった」


 その事を聞いたルナは胸を撫で下ろした。敵ではないと判断したようである。


「これをとある場所に封印してくるから、闇と光は任せておいて。あとそうね……もし彼がここを起点として活動開始するならある程度は宝玉を持たせておかないといけないわね。じゃないと戦うことも侭ならないでしょうし」


 彼女はしばらく考え込んで、ようやく決定したようである。


「やはり天と地の宝玉かしら。天地の勇者としてこれは持っておくべきだわ。天は砂漠に放り投げ、地は地下深くに置きましょう」


「サラッとえげつない試練を出しますねライトさん。あの砂漠は生きて帰った試しがないんですよ?」


 あの砂漠。要は迷いの砂漠のことである。一度足を踏み入れれば最後、死ぬまで帰ることは不可能。いや、死んでも帰ることは不可能である。


「救世主にはそれくらいやってもらわねば困る。戦うわけでもなし」


「う、ういっす」


「後はね〜また明日からで良いか。二人の時間も必要でしょう。邪魔して悪かったわね」


 ライトは動いた。そしてルナの横を通り過ぎようとした時、彼女だけに聞こえるような声で囁いた。


「私は貴方の正体を知っている。だけど独りぼっちのレイジを支えてくれるなら私は構わないわ。ちゃんと愛してあげてね」


 その言葉にルナは背筋が凍った。何故正体がバレているのか。まだ神とは言っていない。特異能力でもあるのかと考えた。


「は、はい……」


「良かった」


 ニコッとライトは笑った。この瞬間、ルナはこの人には絶対に勝てないと悟った。


 そもそも、今のライトはレイビの魂と同化してるので、実力は未だに阿部隊(アーミー)を倒した時と同じなのだから、たかがそこらの神では太刀打ち出来ないはずである。


 ライトが去っていくと、深い溜息をルナは付いた。


「どうかしたのか?」


「あの人……怖い」


「そうか……? ライトさんは良い人だと思うけどなぁ」


 血族だけに優しいとは思えない、と彼は考える。でなければ女王は務まらないはずだ、とも。


「……部屋に入ろう。そして寝るか。親子で一緒に、寝るか?」


 若干躊躇いがあり、首を掻きながら聞いてみると、彼女はありがとうと言って、その後朝まで深く寝ていった。

次回予告


旅の行方はわからないものだ。わからないからこそ楽しいことがある。だが決してそれが全てではない。時には帰らなければならない時がある。そして、また旅立つ。帰る場所があるからこそ、旅立てるのだ。


次回、VAGRANT LEGEND 第六説 宝玉散乱


救世主よ、汝はあらゆる試練を乗り越えなければならない。

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