第三説 ルナ
前回のあらすじ
父と会った彼は、別れを告げる。父はレイジに素っ気なく対応することで彼をより旅に出ようとさせた。それに彼は気付かなかったものの、結果として彼は本当に旅を始めたのだ。
明くる日。木漏れ日が彼を起こす。彼は大きく伸びをする。
「気持ち悪い……」
目覚めたときに起こる喉の気持ち悪さが彼を襲っていた。そのため水分を求め、彼は水のあるところを探そうとした。
「森だけど川くらいはあるよな……」
小高い山なのでひょっとすると川があるかもしれない。しばらく歩いていると、せせらぎが聞こえてきたのでそちらの方へ走って行った。
考えていた通り、水がある。枯れ葉の上を通り、無秩序に流れている。
「これ飲めるのかね……もう少し上流に行ってみるか」
川に沿って山に登るように歩いて行った。するとそこで川は途切れていていた。
「? この水って何処から出ているんだ? もしかして湧き水か。これなら飲めそうだな」
最後の部分を掘り出すと、一気に水が出てきた。
まずは汚れた手を洗い、口の中に残っている気持ち悪さをうがいして落とし、そしてその後飲んだ。ついでに顔も洗う。
「ふぅ、さっぱりしたぜ。こうやって湧き水があるんだからどこか大量に貯水していそうだけどな。地下の可能性もあるが……どうせ登ってきたのなら上へ行こう」
彼は山頂とは言えるかどうかはわからないが、その頂上まで歩いて行く。歩きながら自然の音を楽しむ。野生動物の鳴き声も心地良いものだ。開拓された土地と違い、デグラストルとも違い、彼にとって全てが新鮮だ。
登って行くとそこには大きな湖があった。水は余りにも透き通っていて、まるで誰かに管理されているみたいだ。虫の死骸、藻、枯葉、などといった不純物は無い。下は岩盤で出来ており、その隙間から水が漏れているのが見える。それが先程の湧き水の原因なのだろう。
水を掬い、飲む。やはり先程の湧き水と同じ味である。
「不気味なくらいの綺麗さだな……そして取って付けたような祠がある。あそこにここを管理してる人でもいるというのか?」
彼は立ち上がり、ジャンプで祠まで跳んだ。
「失礼しますよっと」
その祠は下へと続いており、下っていく。人工的な階段であるためますます管理者がいるのではないかと疑う。
「何故この湖に対してここまでこだわるのか……」
考えている内に最下層に辿り着いた。かなり広く、鍾乳石が見られる。それらはまるでライトを取り付けられたかのように白く光っている。太陽光は当たらないのにとても明るい。何も知らない一般人が観れば美しい光景だろう。しかし、懐疑するレイジからすれば不気味でしかないのだ。
広間の中央部分に何かの出っ張りがある。
「なんだありゃ」
ピチャピチャと音を立てながらそれに近付いた。その出っ張りを覗き込むと、中に裸の女性が沈んでいた。
「え……」
殻に閉じこもるように脚を曲げ、固く腕で脚を抑えている。長く白い髪はゆらゆらと動いている。
「水死体……? なんだ、これ」
中に手を入れ、髪に触れる。するとそれはピクリと動き出し、一気に立ち上がった。
「うわっ‼︎」
思わず立ち引いてしまった彼は身構える。すると眼前にはその裸体があり、凝視してしまう。
「美しい……綺麗……可愛い……? なんて言えば良いんだ? というか女の裸初めて見た」
呑気なことを言っている場合ではない。彼は首を振り、尋ねた。
「なあ、俺に見られて恥ずかしくないのかよ」
そっちの質問をするとはバカである。とはいえ、その女は質問に応えた。
「何故?」
「いやだって裸だし……」
「見られて恥ずかしいと思うのは何かコンプレックスを抱いているということ。私にはそれがない」
瞳が紅い女はそう応えた。アルビノだ。
「そ、そうか……で、この湖は一体何なんだ。普通じゃあり得ない事になってる。さっきの様子じゃ管理しているようには見えないのだが」
「それよりまずお互いの名前を聞くべきではないか?」
はぐらかされてしまう。意固地になっても仕方ないので名前を言った。
「レイジだ」
「物事には順番がある……我が名はルナ。この湖を創りし者。所謂神と云うもので、今は人間の形をしている。しかし不完全なものでこの姿となってしまった」
「ふーん……とりあえずこの湖はあんたが作ったということはわかった」
驚くべきところをしれっと流すあたり、何度も言うが彼はバカだ。
「この地にいる神……土着神というやつか?」
「いや、今はこの形を取っているだけに過ぎない。……君の二番目の質問に応えよう。この水は毒だ。あらゆるものを抹消する。最も、この山自体も私が創っているので山にいる生物は影響を受けないのだがな」
故に綺麗すぎる水、毒であるはずなのに影響を受けない葉っぱ、動物がいる。
「ちょっと待て、それじゃあこの山にいるやつ以外は排除するのか。……それって、俺も?」
「例外はある。君のような天地の勇者だ。待っていたぞ天地の勇者。この時を」
「すまん、まるで意味がわからねえ。前半は良いとして、なんで俺を待っていたんだ?」
「必要としているからだ。……頼みがある。ユディナ帝国がこの地に目を付けた。どこから漏れたかは知らないが、私を捕らえようとしているらしい。前に尖兵が送られてきたので問いた時に聞かされた。そこで力のない私に代わり、帝国軍と戦ってはくれないか」
「……結局帝国からは逃れられないのか。はあ……まあ、良いぜ。腕試ししてえしな。それにあんたみたいな美女を糞みてえな帝国に連れて行かれるのを想像するだけで腸が煮え繰り返るってもんだ」
「助かる。帝国を撃退してもいずれ奴らは再び攻めてくるだろう。そこで次に撃退した時、君の妻として隠れ身をさせてはくれないか?」
「いや、ちょっと待てって。話が急に見えてこなくなったぞ。え? 何だって? 帝国ぶっ倒したら俺はお前と結婚すんの⁉︎」
「そうだ。嫌か?」
「わけわかんねえって事だよ。それにあんたは神様だろ」
「子どもは産める」
「そういう問題じゃねえええ‼︎ 俺に執着する理由は一体何なんだ‼︎」
「人が恋しい。私の毒の影響を受けない選ばれし勇者。強い人。出そうと思えばいくらでも理由はある」
「口説き文句かよ……はあ」
まるで昔の自分を見ているかのようだった。王様という立場を利用し、城下町を歩く度に女性に声を掛け、思ってもないことを口にし、その気にさせる。
「ダメか?」
「本当は一人で旅をしたかったんだけど……据え膳食わぬは男の恥とも言うしな……良いよ。これで俺の女癖が減ると良いんだが」
「何を言っているのか知らないが、よろしく頼む」
「まずは帝国を山から突き落としてやる。……いや、まずはあんたが服を着てくれ。刺激が強すぎる」
「ん、ああ、仕方ないな」
ルナは服を創り出し、それを着た。ようやく落ち着いた彼は、いつ帝国がくるのかを聞いた。彼女によるともうあと数日らしい。
「都合良く君は現れ、颯爽と軍を倒し、姫である私を解放させる。良くある展開だ。まるで児戯だな。いや、運命か。君と私は最初から繋がれていたのだよ」
「……ようわからん。俺がわかるのはぶっ潰してあんたを娶るってだけだよ」
全てを狂わせる序章が始まった。いや、彼女は彼を狂わせるのか? それともレインに繋ぐのか? 未来は確定していようとも、そこへ走る道はまだ暗い。
次回予告
「頼みがある」
湖を創りし女神ルナに帝国軍を追い払ってほしいと頼まれた俺は引き受けた。そして、本当に帝国軍が襲い掛かってきた。あまりの量に俺は苦戦してしまう。このままじゃ、ルナが……ルナが‼︎
次回、VAGRANT LEGEND 第四話 風の標
行くぞ、風来神




