第二説 俺の道
前回のあらすじ
旅立とうとするレイジを止めるヴィント。しかしレイジの巧妙な手により逃がしてしまう。レイジは光の国へ行き、ライトに会う。そして、どうすれば自由になれるのかを聞いた。
彼は宮殿を後にし、父のいる元へ向かった。首都から少し離れ、地方に住んでいる彼の家の周りは、畑などが沢山あり、田舎と呼ぶに相応しい場所だった。彼はデグラストルの習わしをここでも実践しているため、自給自足である。そのため、牧畜はもちろん、川へ魚を釣りに行くことも、畑を耕すのもやっている。それが今の彼の生きがいでもあり、重々しい王の位を退いた自由でもあった。
「……父さん」
果物を収穫していた父を見つけたレイジは眉を顰めて話し掛けた。
「レイジ……! 何故ここに? 国はどうした」
「俺は……自由になりたくて国を出てきた。もちろん、認められなかったさ。だけど、ライトさんは良いって」
「そうか……」
「元はといえばあんたが悪いんだ。俺を生んで、十五年過ぎたらすぐに国を飛び出して、助言もせずに逃げたんだ」
「……懐かしいな」
彼の父は笑った。
「何がおかしい。俺を縛り付けておいて笑うだと?」
「いや、何、俺も昔はそんな風だった。俺の親も俺が受け継ぐとすぐに光の国に移住した。俺は辛かった。……まあ、いずれわかるさ。我慢して子どもに国を預ければ」
「俺はあんたとは違う。我慢なんてできないね。だから止めないでくれ。今日はそれを言いに来た。俺は旅をする。ライトさんは後世のために宝玉を世界に散りばめると良いと言った。後々のためにも、俺のためにも、旅をする。それが俺の自由だ」
「止めはしないさ。ライトさんがそう言ったのならな」
「そう、ならこれで」
レイジは踵を返した。
「……あと、たまにはデグラストルに帰って母さんに会ってやれよ。不安とか心配とか、してるだろうしさ」
「……そうだな」
口数の少ないレイジの父は、これ以上何も言わなかった。レイジも何も言わず、空へ飛んだ。当てもない旅の先へと向かって行った。
「いざ、こうやって外に出てきたのは良いけど、どうすれば良いんだ? 宮殿の生活が長かったからな……」
その日の夜、デグラストルから少し北西に向かい、大陸に入り、森に入った彼は、何をするべきかわからなかった。天地の勇者は食事を必要しないとはいえ、口元は寂しいものだ。彼は食料を探すが、何を食えば良いのかがわからない。
「これ、食えるのか?」
その辺に生えている木の葉を千切り、臭いを嗅ぐ。なんとも言えない臭いが鼻の中に入り、苦虫を噛んだような顔をする。
「多分、無理だろうな」
それを捨て、木にもたれた。
「あーだめだ、こんな野生じみた生活できるか! どっかの街に行って女性と食事をしたいものだ」
呆れるくらいの女好きだ。そもそも宮殿を飛び出したのも女と遊ぶ目的もあった。
「はぁ……でも、今更後悔してもな」
溜息を付いたとき、何かの咆哮が聞こえてくる。
「な、なんの音だ?」
興味本位で彼はその声の元へ走っていく。暇過ぎた彼にとって、刺激を求めていたのかもしれない。その選択は間違っていたのか、それとも正しかったのかはまだ彼は知らない。
「なんだこいつ……ドラゴン⁉︎」
声の正体はドラゴンだった。暗闇に現す黒いシルエット。形は正しくドラゴンである。彼は知らないがそのドラゴンはナーグという名前がある。ドラゴンの中では珍しく草食であり、その珍しさから狩人が狙いを付けている。咆哮の原因は、狩人が襲い掛かってきたからだ。それを蹴散らすために唸り、狩人を硬直させ、尻尾で吹き飛ばす。理性などないため、容赦はしない。吹き飛ばされた狩人の体はバラバラになっていた。
ナーグはレイジにも狙いをつけた。ナーグからすれば彼もまた狩人の一人でしかない。
「まずいな……目が合っちまった……」
彼が身構える前にナーグは首を伸ばし、彼の顔面近くで咆哮した。
「ぅ……るさ……‼︎」
体が動かなかった。さっきと同じ咆哮……まさか、と彼は考えているうちにナーグは足を上げていた。そして、落とす。地響きと共に彼の体は潰された。声を上げることも許されない。幸い、土が柔らかかったためダメージを抑えられた。足が上がり、隙を見てよろよろと立ち上がると目の前には既に尻尾があった。
「なっ……」
上半身に直撃し、飛ばされる。木々を薙ぎ倒していき、速度が落ちたところで大木にぶつかり、静止する。
「ガ……ァ……」
地面に伏すと、指が動かないことに気付く。脊椎が骨折している。奴と対面したのは間違っていたのか、こんなことになるなら国を出なければ良かった、などと悔やむ彼は、その後悔する自分に嫌気が差すも、ここまで冷静に考える余地があることに疑問を抱く。これが死に直面した者か、と呟き、目を閉じようとすると付けていたペンダントが光り出した。このペンダントはレイズからずっと継がれてきたものだ。そして、脳内に声が聴こえてくる。
ここで諦めて死ぬか?
「……他にどうしろと」
天地の勇者ならばこれくらい跳ね除けてみせよ。これまでの勇者は全てそうしてきた。天地の勇者は死なない。あらゆる傷もすぐに治癒できる。お前が本当に天地の勇者ならば、立ち上がれ‼︎
「うるせぇ……どいつもこいつも俺に指図しやがって……俺の生き方は、俺が決める。俺の道は俺だけの道だ」
彼は無意識に立ち上がった。既に骨は元に戻っている。傷もない。出血は蒸発し、天地の衣も汚れを落とすので綺麗そのものだ。
「どうせなら……手伝いやがれ! いるんだろう⁉︎ 俺の中に眠る化け物め‼︎」
その時、先程の声とは別の声が頭に流れる。
「我風来神。汝力欲阿欲。阿、既承認済。我汝神格化成敵滅」
今度はレイジが光り出した。金色の鎧を纏い神格化する。これが風来神とレイジの神格化。与えられし能力は絶対回避。攻撃力は下がるものの、あらゆる攻撃を避ける。死角のない攻撃ならば空間移動。詠唱、魔力、精神力も不要。まるで風のように掴むことができないもの。それがレイジの神格化。
「第二ラウンドだドラゴン! いや、ファイナルラウンドだ‼︎」
彼が大声をあげると、それに気付いたナーグは突進してきた。だが、華麗に回避し、隙あらば斬りつける。それを繰り返し、ナーグは傷だらけとなり、行動不能となった。
「死にやがれ‼︎」
ナーグの心臓を貫き、多量の血を浴びる。今まで殺生したことがなかったレイジは心の何処かで罪悪感を感じながらも、殺さなければ殺される、覚悟の上だと合理化で納得し、奥深くまで剣を刺した。ナーグは完全に絶命した。
「……ふぅ」
返り血も直ぐに落ち、神格化を解除する。そしてナーグの肉を取り出した。
「動いたせいでお腹空いたぞ畜生……」
それは錯覚なのだが、食べることで脳が活性化するのは確かである。
生肉のまま頬張り、汚い食べ方をする。
「ドラゴンとは思えないな。意外と美味え。全部食うか」
やっている行動はもはや野蛮人だ。とても王様には見えない。
彼は本当に骨を除いて全てを平らげてしまった。並大抵の大きさではないはずである。
満たされた彼はそのまま眠りに落ちて行った。
次の日、全てを変える出来事があるとも知らずに。
次回予告
如何にも、というような祠だ。湖の中央に島があり、そこに何かがいる。俺はそこに入ると、一人の美しい女性が眠っていた。可愛いとも言えるし、美しいとも言える。なんだ、これ。女神なのか? 俺を狂わせる序曲が始まる。
次回、VAGRANT LEGEND 第三説 ルナ
遊びの領域を超える。




