表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/14

第十二説 愛

前回のあらすじ

ルナの正体は肆大邪神、阿衣だった。最後の戦い、最後の敵、彼はどう立ち向かう。

 その顔は、笑っていた。


「⁉︎」


 阿衣はただ驚くばかりであった。絶望し、それを喰らい、勇者を殺せると考えていた。


「驚いたか? いやあ俺も中々自分のことで驚いているよ。こんなにも冷静でいられるなんてな」


「何故……何故絶望しない」


「言ったはずだ。俺はどんな姿であったとしてもルナを愛し続けるとな。それは邪神であっても変わらない。確かにルナは邪神かもしれない。けどな、その後ろの奴が何か策を立ててるって事を今の魔力で分かったよ。正体を明かせ、この外道」


「『くっくっくっ、ばれては仕方ないか』」


 彼女から発せられる声とは別の声になった。


「『私は肆大邪神の一柱にして全てを支配する阿修羅。この一連の騒動の全ての原因だ』」


「全ての原因?」


「『ああ、そうだ。貴様ら一族の因縁とやらも含めてな』」


「何もかもお前が裏で糸を引いていたということか」


「『そうだ。そしてこの阿衣もまた操ったのは私だ。だが阿衣は私を裏切った。邪神を捨て、お前に走った』」


「じゃあ、ルナは」


 彼女の意思そのものは彼を愛している、そう希望を抱かせるものだった。


「『私は許せなかった。だが、同時に好機だった。宝玉を捨て、武器も捨てて行く貴様らを見て、これほどの機会はないと思った。よって今、こうしてこいつの体を乗っ取り、貴様を殺そうとしている』」


「へっ、やれるものならやってみなよ。俺は信じている。ルナは俺を殺せない。たとえお前がその体を乗っ取ったとしても、魂が穢されない限り! その器は俺を殺せはしない!」


「『巫山戯たことをぬかすな。良いだろう。死ぬが良い‼︎』」


 黒い大剣を出現させ、大きく振りかざし、打ち下ろそうとした。だが、その直前で動きは止まった。


「『何故……‼︎』」


 彼はニヤリと笑った。


「出て行って。『⁉︎』私から出て行って阿修羅。貴方は私を完全に操っていた気になっていたかもしれない。『黙れ‼︎』だけど、私は貴方に譲る『黙れェ‼︎』つもりは一切ない。私は私なりの運命に従うつもり。『何をするつもりだ』そう、私は自らの意思でこの姿になった。だけどそれはレイジを殺すことじゃない。私の本当のことを知ってほしいから。このまま隠し通すわけにはいかないから。気付かなかったかしら。本当に利用されていたのは阿修羅、貴方なのよ。『巫山戯るな‼︎』さあ出て行きなさい! 発動せよ! 不可侵聖域!」


 それはあらゆるものを拒絶する魔術。己の体にいる阿修羅を吹き飛ばした。


「……ごめんね、レイジ。今まで隠していて」


「謝る……必要ないだろ」


「そう言ってくれるのは嬉しい。だけど……私はこのままじゃダメなんだ。結局、自分の意思とは違って世界を滅ぼそうとする。それが邪神の定めだから。もう、止められないの」


「……そうか。じゃあ、俺が止めさせるさ。最期までずっと、俺はお前を護るからよ」


 最初の頃の彼とは全く異なる人になっていた。それだけ彼は生長していたのだ。


「……ありがとう」


「それを言うのはこっちさ。俺は今までひとりぼっちだったから。ルナがいたおかげでここまで来れたんだ」


「そう、かな」


「そうさ。……帰ろう。俺たちの家へ」


 彼は風の宝玉を捨てた。これで旅の目的は終了した。


「ごめん……それは、できない」


「何で」


「始まってしまったから」


 そう言うと、大きく地面が揺れ、裂けた。


「もう止められない……貴方は私を止めてくれるって言ってくれた。それは信じたい。だけど、本当に止められない。不可侵聖域は私以外全てを破壊する。謂わば今の私は爆弾そのもの……最初から阿修羅の欠片が私の中にはあった。だからいずれこうなるのはわかっていた」


 時間が経つにつれ、どんどん大地が割れて行く。


「……ごめんね。私を殺して。そうすれば、この崩壊も止まるから」


「殺せるわけねえだろ……」


「なんで……でないと世界が崩壊しちゃうんだよ!」


「俺が世界で唯一愛した女を殺せるわけがねえ! 死ぬ刻は同じだ。世界なんてどうでも良い。それで世界を敵に回しても構わない。ずっと守り続けてやるさ。ずっと、な」


「……貴方って人は」


 そして、彼らの足場は崩れた。深い闇の中へと落ちていく。その先にあるのは地球の外核。


「ルナ‼︎」


 彼は彼女を抱き抱える。だが、上昇しようとはしなかった。彼は考えていた。今までの人生の中で一番迷っていた。複雑な表情を浮かべ、そして最後には決意した。


「レイジ?」


「俺、決めたよ。どうすれば良いのか。どうすれば、最低限の犠牲で済むのか」


「何をするつもりなの」


「俺はこのままルナと共に核に沈む。そうすれば一生お前の隣にいれる。ルナも誰にも迷惑かけずに済むだろ」


「それは、わからないけど」


「頼む。最期の、一生のお願いだ。もう戻れないけどさ……親失格だけどさ……最期までずっと一緒にいたいんだ」


「……わかった」


 ルナは彼の決意に応えた。


「ありがとう、ルナ。愛しているよ。世界で誰よりも」


「私も。レイジを、愛しているわ……貴方のその愛に負けないくらいに」


 最期の時まで笑ってやる。彼は胸にそう刻みながら。



 そして彼らは核へ沈みこんでいった。死と再生を繰り返しながら、二十年以上の月日に耐え、最期まで彼は彼女を離さないでいた。そして不可侵聖域の効果も切れる。


 地球への被害は最小限に済んだ。島だけが崩壊し、他には何の影響も無かった。彼の英断が世界を救った。やがて島は変形し、宝玉の祠を作った。彼の魂は天地刀となり、これに納められる。


 だが、この一件は終わったわけでは無かった。ルナ、もとい阿衣は生きていた。


「レイジ……貴方の意志を継ぎ、来たる救世主が現れし日のために、私阿衣……いや、ルナは此処で待ちます」


 目の前で笑いながら朽ちていく彼の最期を見届けた彼女は、自らの使命として、ある日を来るときを待つべく、とある場所に赴き、誰にも干渉されないよう己を封印した。


 誰にも語り継がれない伝説は終わった。記憶に残るのはただの旅人。その旅人も時間が経つと忘れ去られていく。


 ある人物曰く、『十八代目はまるで風のようで、掴むことが出来ない放浪伝説(VAGRANT LEGEND)の如し』だとか。


 時代は移り変わり、遂に全てを終わらせる刻が来る。

エピローグへと続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ