第十一説 阿衣
前回のあらすじ
巨人族の里を出た彼らは魔界へ行き、宝玉を魔王に授けた。そして、最後の場所へと向かう。
「うーん、これで残るは風だけだな。究、極もどっかいっちまったし、どこへ置こうか」
自身の属性である風。その宝玉を握り締め、彼らは世界一高い山の麓にいた。
「その二つの宝玉に関しては私も良く分からないわ」
簡単に言ってしまえば、究、極の宝玉に見限られたようなものである。
「ふーむ、宝玉にも意思があるのかね。ま、とりあえず最後は世界の中心かな」
世界地図の中心。現在そこには何もない。ただ島があるのみだ。誰も住んでおらず、無秩序に草木などが伸び、茂っている。
「うわーまさかの未開発か〜。まだ誰も来たことないみたいだなぁ」
「逆に神秘的じゃない?」
「お前がそれ言うか……」
「はは。じゃあ、奥、行こっか」
草を手でよけ、森の中を進んでいく。見たこともない花もあり、自然の凄さを実感する。
「こんなところ置けば下手すりゃ砂漠より探しにくいかもなあ」
しかし、ある程度進んだところで開けた場所に出た。
「ここは自然が及んでいないのか。荒地になってる。……いや、何だ、この違和感。おいルナ。魔力の残骸がないか調べてくれ……ルナ?」
彼女は俯き、黙っていた。
「具合でも悪いのか?」
肩に触れ、揺らすと、突然手刀が飛んできた。
「ガッ⁉︎」
脇腹に直撃し、膝を付く。
「ど、どうしたんだよ……」
「汝、忌者。裏切、勇者交死導」
「ルナ?」
「我、肆大邪神一柱。阿衣」
突然の変貌。ルナだった彼女は醜い邪神へと変わる。
「どういうことだ……糞、とにかく言語を理解するにはこっちも神にならないといけないってことか」
身を引き、神格化する。
「力を貸せ、風来神! 神格化せよ!」
そうして彼は神となり、神の言語を分かるようになった。
「お前! ルナに何をした!」
「何をした? これが私の本当の姿よ」
「はあ?」
「私はね、ルナなんかじゃない。本当の名前は阿衣。肆大邪神の一柱にして心を司る概念であり概念でないもの。貴方は今までずっと騙されていたのよ」
「意味が、分からねえ」
話が通じなかった。彼女は独り言のように話し続ける。
「全ての戦力を失った今、貴方を殺す機会を得た。ずっと待ち侘びていた」
「じゃあ、俺への愛ってのは嘘、だったのか」
「そうさ……全部仕組まれていたんだよ」
「嘘だ……嘘を付くなァッ‼︎ ルナは俺を……いや俺たちは本当に愛し合ったんだ‼︎」
「言ったはずだ! 私はルナなどではない! 阿衣だとな! 貴様はただの憎い存在でしかない!」
「そんな……」
「これが現実だ。深い絶望を味わえ。今まで護っていたものは勇者の敵だったのだと」
「……」
レイジは俯いた。
「くくく、さあその顔を見せろ!」
阿衣は顔を掴み、無理あり上げた。だが、その顔は。
次回、VAGRANT LEGEND、最終回 愛
彼の最期の願い、それは。