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第九説 神々の黄昏

前回のあらすじ

ロキの策略によりアース神族は窮地に立たされる。レイジはルナを救うことは出来たものの、既に手遅れだった。そして最終決戦を迎える。

 北欧最後の戦いが始まった。レイジは天地の剣を抜き、見ていてくれ、先代達。これが俺の戦い方だ、と念を込める。


「残っている宝玉は夢、幻、神、龍、究、極、風の七つか……いけるか、いやいくんだ」


 まずは究極夢幻を嵌め込む。


「先代達よ、力を借りるぜ! 究極夢幻・牙輪愚武零頭(レイガリングブレイズ)!」


 その効果によりレイジは二人になった。


「ほう、幻術の類いか。くくく、それがどうした。分身なら俺だって出来るわァ‼︎」


 ロキは何十人もの分身体を作った。


「ハッ! 俺の分身はただ二人になるわけじゃない! 宝玉を使える数を二倍にすることに意味がある! ただ増やすだけの芸のない事なんてしない!」


「だったらやってみろよ」


「ああ、良いぜ……!」


 残る宝玉七つを全て嵌め込んだ。究極夢幻風龍神と。


「究極夢幻風龍神・雷電‼︎」


 純粋だった。純粋なその名の技は剣先から雷を帯びた龍が顕れる。爆風を放ち、ロキの分身を消し飛ばしていく。


「チィッ……だが」


 ロキはすかさず分身を増やしていく。


 包囲されたレイジはこれが本当の雷電の力と言い放ち、回転した。それに伴って龍は伸び、分身を消していく。音速、いや光速になった龍はロキの分身を増やす速度よりも上回り、ロキ本体まで追い詰めた。ただし、消耗の激しさからレイジの分身も消えてしまう。


「なるほどなあ、これで俺の分身芸も終わりって事か。だったらこれだ‼︎」


 ロキの術によりヴィーグリーズは異世界と化した。


「足元に気をつけなァ‼︎」


 地面から手が生え、レイジの脚を掴む。


「何⁉︎」


 拘束されたレイジは脚を切断し、逃れようとするが、腕もまた掴まれてしまった。


「チッチッチッ。そう簡単に再生されちゃ困るんだよ。天地の勇者に最適な攻撃方法は縛り付けること」


 ロキは擦り寄ってきた。手は顔を伝い、肩に置く。


「……クソ野郎が」


「さっきの勢いはどうした? あの技でお終いか?」


 耳元で囁かれ、レイジは更に嫌そうな顔をする。


「闘いってのはそうポンポンと大技を出すもんじゃない。頭を使え頭を。今までならそれで良かっただろうが、俺はそうはいかない。底を見せた時点でお前の負けだよレイグランジ」


「っ……!」


 ロキはねちっこかった。


「さあさあ、お前の悲鳴を聞かせてくれよ。その為に俺は今わざわざ戦う必要など無いやつと戦ってやってんだからよ!」


 グサリ、と後ろから手刀で背中を貫き、核を弄ぶ。


「ガァッ‼︎」


「レイジ!」


「ルナ、大丈夫だ……」


「ほう……良いのか? こ〜んな無様な姿を晒しちゃってさあ」


「ハッ……確かに無様だな。だが、むしろ見ていて欲しい……俺の闘いを」


「何を言い出すかと思えば」


 核を抜き出すと、彼は完全に停止した。


「これが天地の勇者の核……力強いものだな。だがこれでお終いだ」


 核を破壊すると、残っていた体は霧散した。


「レイジィィィ……んぐ⁉︎」


 叫ぶルナの口を塞ぐ。これをやったのはレイジだ。


「まあ待て待て待て。核をやられたからって俺が死ぬわけじゃねえ。ったく、これのせいで緊張感もありゃしねえ」


「な、何故お前がそこにいるッ⁉︎」


 さすがのロキもこれには驚く。確かに自分は核を破壊した。天地の勇者を殺したのだとばかり思い込んでいた。


「俺の底を見たと言ったよな? 違うな。天地の勇者の本当の強さは技なんかじゃない。この不死身という点だよ。核がある限り、体は再生する。核が破壊されたらまた別の核が再構築されるんだよ。だから負けることも死ぬこともない。ルナ、言っただろ。大丈夫だって」


「ふごふご」


 口を塞がれたままなので上手く言えない。


「おっと、悪い悪い」


 抑えるのをやめるとぷはっとルナは息を吐き出しこう言う。


「心配させないでよ!」


「だから悪かったって。……ロキ、今のでお前の底が見えたぜ。お前、俺に恐怖を抱いただろ」


「何をほざくかと思えば……!」


「見え見えなんだよ、その動揺が。ロキ、お前は確かに強い。だけどな、一度計画通りに行かなければ全て無茶苦茶になる。そんな程度なのさお前は。闘いは頭だってお前は言ったよな。頭を使って戦えばある程度は行けるだろうよ。だがアドリブは効かない。事が上手く運んでくれないと直ぐに堕ちる。お前はもう負けているんだ」


「黙れ‼︎ まだ勝負は付いてなどいない‼︎」


 ロキは形振り構っていられない状態になった。エネルギー弾を展開し、レイジに向かって放つが、彼に全く当たらない。


「勝負ってのは始まる前から見えているんだ。己の心。その心で決まる」


「ふざけるな……何が心だ。そうやっていつも俺を誑かせてきた! お前らに何がわかる……巨人である俺の苦しみが……無理やりオーディンの息子として入れられた俺の悲しみが、わかるってものかァッ‼︎」


 彼はもうわけがわからなくなっていた。何を言っているのかすらも。


「そんなこと、どうでも良いんだよ。お前の事情など知らない。俺の事情をお前に話してもどうでも良いと思うだろ。それと同じだ。闘いにそんなもの必要ない。俺に今必要なのはお前を超えること。ただそれだけで良い」


 天地の剣から全ての宝玉を外した。


「アアアアアアアアアアッッッ‼︎‼︎」


 ロキは莫大なエネルギーを用いてこの世界そのものを破壊しようとした。


「……集中しろ。目の前の事だけで良い。あのエネルギーに気を取られる必要は、ない」


 レイジはこの時、ゾーンに突入した。目の前の出来事がゆっくりとなる。いや、時止めも何も発動していないので実際に起きていることはそのままの速度なのだが、レイジにとっては全てがゆっくりに感じるのだ。


 次に、必要な情報以外全て遮断される。周りの風景は全て真っ暗になり視界に入らない。視覚に入ってくるのはロキだけ。


 この極限状態において、天地の剣は更に磨かれる。持ち主の力に呼応するのが天地の剣だ。


「これが、俺の奥義」


 ロキを通り過ぎ去り、剣を収める。


 ゾーンは解除され戻った。瞬間、ロキは真っ二つになっていた。


「ば……バカな……俺が……こんなあっさり」


「色んな幻術を掛けていたみたいだが……無駄だったな」


「天下は俺のものだというのに……!」


「天下は誰のものでもないさ。自由を求めるものに誰にでも与えられる。それが天下だ」


「ゴポッ……だが忘れるなよ……そいつは邪神だ……いずれお前を裏切る」


「……」


 そのままロキは絶命した。


「レイジ!」


 ルナが駆けつけてきた。と、同時にレイジは倒れ込む。


「悪りぃ、奥義使ったせいか体に負担を掛けすぎたようだ」


 ニッと彼は微笑んだ。その表情は暖かかった。


「無茶しちゃって本当に……」


 ルナは彼を抱き締めると、彼もまた手を後ろに回し、強く抱擁した。




 しばらくし、彼は立てるようになった。


「もう大丈夫なの?」


「すっかり元気さ」


「なら、良いけど。ところで奥義って言っていたけどそれって?」


「奥義、迅雷風烈。ただの一刀だよ」


「奥義とは思えない地味さだったわね」


「そりゃまあ、突き詰めた結果だし。地味なものが多かったりするもんだぜ」


「そういうものかしら……とにかく、お疲れ様。たった一日の出来事だったけど、怒涛のような日だったわ」


「ああ……ちょっと疲れたよ。ルナが死んだ時、本当に俺どうにかしてしまうところだった」


「それは……ごめん。ヘルヘイムにいた時、私はもうあのまま奥に進んでも良いと思ってしまったの。だけどレイジが私を生き返らせようと必死で行動していたのに気が付いて嬉しかった」


「全部ロキが仕組んだ事だってわかったからな。諦めたくなかったんだ」


「それは私も同じよ」


「似た者同士……だな」


 二人は笑い合う。この荒れた大地を。穢れ切った終末を。共に笑い、そして一気に気力が落ちて二人は地に伏した。


 北欧の旅はラグナロクと共に終わった。生き残ったのはレイバテインとその祖母。ムスペルヘイムという名の軍隊を引き連れた皇帝バイス・ユディナ、スルト。そして、レイジとルナ。それ以外にはいない。歴史の中でもかなりの犠牲者が出た戦争だった。それでも、この戦争は誰にも語り継がれない。何故ならばレイバテインは記憶を無くし、祖母はそれを語ることもなく、スルトは孤独で、レイジとルナはこの後悲劇を待ち受けているからだ。物語はまだ終わらない。宝玉は、まだ七つも残っている。次に彼らは何処へ目指すのか。それはまた後日。

次回予告

物語は終局へ。真実を知る者、魔王と会うべく彼らは魔界へと向かう。その時、魔王が口にするものとは。


次回、VAGRANT LEGEND 第十説 終焉に近付く音

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