第09話 百目木 暴力恐怖支配チーム
第09話 百目木 暴力恐怖支配チーム
百目木 棗は子供の頃からずっと、不幸な家庭環境で育ってきた。父親は仕事に恵まれず酒におぼれて、母や自分に暴力を振るう毎日だった。
思春期で胸が膨らんでもブラすら買ってもらえなかったくらいだ。パンツが少し綻びても大事に履き続けた。棗は体育の着替えで女子に下着を見られたり、胸を男子にチラチラ見られるのは恥ずかしかった。
それでもセパをやっている時だけは辛い日常も忘れらた。やがて少女の心は徐々に失われ、揺れる胸を男子に見られても平気になっていた。棗にはセパの才能があったのかメキメキと上達していった。
彼女のセパスタイルはスポーツと呼ぶのは躊躇われ、チームメイトに対してもまるで日常生活のストレスを発散させるかのごとく激しいものだった。
弱い者へは容赦なく罵声を浴びせ、ボールを落とすなどのミスには暴力も厭わず、チームメイトというよりは下僕のような扱いをしていった。
棗が率いるチームは小・中学校で地区大会優勝へ導き、その名前を轟かせた。
父の暴力は相変わらずだったが、この頃には体力では父すら超えており何とか母を守れるくらいにはなっていた。
私立こおろぎ学園はセパでは弱小の無名だったが、理事長のテコ入れにより大幅な予算を盛り込み、セパ部の改革が決まった。
当然、彼女はスカウトの目に止まった。
棗は実力と指導力を買われこの学園に特待生として招かれ、授業料、寮費、食費一切を免除どころか、生活費まで支給されるプロ顔負けの破格の待遇を受けた。
棗は初めての支給金で憧れの高級な下着を数枚買おうとしたが、やはり安物で我慢した。
こおろぎ学園は、あっという間に強豪校へとのし上がった。学園での棗の発言力は増していき、暴力も大目に見られていた。棗は別れた母に生活費のほとんどを送金していた。
サキチームと対戦していた棗チームは殺気立っていた。ただでさえ目つきの悪いオールバックの棗が睨みつける。
棗はレシーブをミスした華葉のお尻を思いっきり蹴り上げる。
華葉「ギャン!」
棗「バカ野郎、今のは足届いただろ!もっとガバッと股開けやっ、そんなに処女膜が大事かあっ、ああっ?」
皆に聞こえるような大きな声で罵倒され、華葉は小さくなった。ヘビに睨みつけられたカエルの様に萎縮する華葉に、もはや元部長の威厳はなかった。
華葉「うぅ……」
棗「そんなんだから下級生に、主将の座を獲られっちまうんだよ」
続けてもう一人、美羽の巨乳を思いっきりビンタする。
美羽「イギィっ!」
棗「オメーもどこにトスしてんだ? 役立たずのデカ乳がっ」
美羽「は、はい、ごめんなさいっ!」
終始、暴力と暴言が支配し、ミスを許さない。それが棗チームだった。尖った矛先は相手チームにも向けられる。
今のは取れないだろうというボールでさえ、並外れた瞬発力で拾い続ける小さい身体の美晴に、棗はイライラしていた。
華葉から貰ったパスを高く蹴り上げ甘いコースのツータッチで返した棗はそのままボールを追って走り、ネット際に近寄ってきた美晴の顔面をボールごと蹴り上げた。
棗「すみません、大丈夫ですか?(目障りなんだよ、クソチビが)」
サキ「今のはわざとだろ、許さないからな……」 ついにサキの堪忍袋の緒が切れる。
棗「ああん、面白れえ、やんのか?」
棗「アイツのボールはオレじゃなきゃ受け切れねえ……オメーラは下がってろ」
棗「ボールは必ず拾ってオレに戻せ。ミスった奴はケツがボロボロになるまで蹴り飛ばすからな」
相手のボディや顔面を狙う、殴り合いのような凄まじいショットの応酬が始まった。
ネット際では格闘技と変わらぬ蹴りの応酬で、相手を地面に叩きつけるほどの力勝負にもなった。
やがてセットが進むに連れて、棗はサキの強烈なショットに、コートに立っているのも奇跡と思われるくらいズタボロにされていく。
サキの実力のほうが勝っていたのだ。
後一点入れられたら、こおろぎ高校は負ける。
棗(オレはせっかく掴んだチャンスを、この生活を失いたくないんだ)
サキ「これで終わりだ!」
サキが放った改心の一撃から華葉が棗を庇うように飛び出し、ボールは華葉を直撃した。
棗「なんで、オレを庇うんだ、憎くないのか……」
華葉「棗ちゃんが来て、この部は本当に強くなったの。私たちがここまで来れたのも、全て棗ちゃんのおかげなの」
棗は過去がフラッシュバックする
学園の寮に入ることが決まり家を離れる際、家族に暴力を振るう父をボコボコにしている棗の間に母が割って入り、入院するほどの大怪我をしてしまったのだ。
――父と自分、母と華葉が重なる。
棗「ちくしょう、これじゃ、アイツと同じじゃねーかよ……ちくしょう、ちくしょう……」
棗から大粒の涙がボロボロこぼれていく。そういえば何年も泣いたことなんかなかったっけ。
こおろぎ学園のメンバーは抱き合って泣いた。
試合には負けたが、棗は大事なものを得ていた。
サキと百目木は、力強く握手をして分かれた。