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異世界人は話が通じない  作者: 肉といえば鶏肉
6/22

6話 先輩冒険者

 目が覚めて最初に目に入ったのは、知らない天井だった。

 形式美というか、お約束というか。一度はやっておかないと駄目だよね。

 なんの事かは割愛。

 

 さて、異世界に来て3日目の朝だ。

 昨日は結局何も思いつかないまま寝たし、ちゃんと考えないと。


 自衛手段は必須だが、剣や魔法などのスキルを覚える為には、早ければ1時間。遅いと1日かかる。

 今の所覚えているスキルがその間に収まっているだけで、もっと早かったり遅かったりする可能性もあるが。

 とは言っても、剣も魔法も当然だが使ったことがないし、基本もきの字もわからない。

 闇雲にやってもスキルを覚えるとは思えないし、覚えるとしてもかなり時間がかかりそうなんだよなぁ。


 手っ取り早いのはそれらのスキルを持っている冒険者に教えてもらう事だが。

 ないな。それはない。

 人に頼りたくないし、貸しを作るのも作られるのも、ぼっちには似合わない。

 

 自分でできる事は自分ですべきだろう。それがぼっちという物だ。


 まぁとりあえずは採取系の依頼をこなすしかないな。稼いだお金で身を守る装備を買う。よし、それで行こう。



 方針も決まった事だし、今日も自畜しますかね。


 はぁ、ベッドから出たくない。





 ベッドの誘惑に辛勝した俺は、冒険者ギルドに着いた。中に入り受付カウンターを見るが、今日は友達のいない受付がいなかった。

 休みか。ちっ、友達いないくせに。

 

 しかたないので友達の少なそうな受付でいいか。

 受付に依頼書とギルドカードを出す。

 

 

 よし、今日も俺は(無言で)依頼の受任を行い、街の外の草原へと繰り出す。

 COOLな俺、カッコイイ。


 

 街を少し出たところで、前を歩く二人組みに目を奪われた。

 二人ともびっくりするぐらいの美少女だ。うお、まぶし。

 

 一人は胸当てと手甲だけ着けた軽装の剣士。歩くたびに腰に下げた片手剣と、腰まで届く1つに束ねた漆黒の髪が揺れている。

 ちらりと見える横顔からはとても理性的な印象を受けた。

 

 もう一人はふんわりとしたミニスカートに、高級感のあるローブを纏った魔術師。半透明で緑色の宝石を先端に付けた杖を大事そうに胸に抱える姿は、庇護欲ひごよくをそそられる。

 肩でそろえた薄いピンクの髪はどこの美容室で染めたのだろうか。

 まさか地毛じゃないよね。いくら異世界といってもピンクはないだろ。ピンクは。

 好みから言えば、もちろんどストライクですが。えぇ。


 いやはや眼福眼福。

 世の中にはびっくりするぐらいの美少女がいるもんなんだねぇ。

 あの格好からして冒険者だろうな。二人パーティーて感じか。

 さて、目の保養もした所で自畜しますか。はぁ、だるい。


 あれ? 待てよ。

 あの二人の後を追って(つけて)魔物と戦う所を(覗い)ていれば、スキルを取得できるかもしれない。

 なんという名案。俺ってば天才。

 決して美少女をもっと見ていたいとか、戦闘になったら激しく動いて見えちゃいけない物が見えたりするかもとか思ってないからな。

 あくまでスキル取得の為、やましい気持ちは一切ない。



 ひゃっほー、ついてっちゃうぞー。


 やばいやばい、犯罪臭しかしない。抑えろ俺。


 

 二人組みの冒険者は、俺が前日採取の依頼をこなした街の南側の草原ではなく、西側の森がある草原へと向かっている。

 正直つけたは良いものの、草原で身を隠す所もないしすぐばれるよね。これ。

 通報されたらどうしよう。

 ストーキングではない。目的地が同じ方向なだけだ!

 よしこれでいける。無理か。

 


 しばらくついていっているが、なぜかばれてない。忍び足とか尾行とかのスキル取得しそうな勢いでばれない。

 むしろすでに持っているのかもしれないな。

 元の世界でも何人かで歩いてる時とか、俺だけ話の中にまったく入れなかったりするし。

 俺の存在を消す能力がここでも役に立ったか。

 なんか違う気がするが、気にしない。


 


 西の森が見えてきた所で、ついに二人組みが魔物と遭遇した。

 俺が昨日逃げ出したゴブリンだ。俺が戦うわけじゃないが緊張してきた。

 

 魔術師が杖を掲げて何かの言葉を発すると、剣士の体がうっすらと光り輝く。

 動いた。と思ったときにはもうすでに剣士はゴブリンの目の前にいて、剣を振りかぶっている。

 気づいた時には、ゴブリンはあっさりとその体を断ち切られて息絶えていた。



 つええええええええ



 まじでか。冒険者ってあんなに強いのかよ。

 俺が弱すぎるってのもあると思うが、それにしてもすげえな。

 

 魔術で剣士の体が光ったのは補助系の魔術を使ったのか?

 魔術師が言っている言葉が聞き取れなかった。と言う事は異世界語(オーセル語)以外の言葉だったと言う事か?

 魔術で使う様の言葉なのかもしれない。

 だとしても剣士の動きは人の物とは思えないんだが。

 

 スキル取得したら俺にもあんな動きができるのだろうか。

 できたらいいな。

 期待が膨らみすぎてやばい。wktk



 その後も何度か魔物に遭遇するが、歯牙にもかけていなかった。

 時には魔術師が炎の魔術で魔物を焼き殺し。

 時には剣士がひらりと敵の攻撃をよけて一刀両断に。

 時には複数の魔物がいても、お互いがお互いをサポートして難なく倒していた。


 しばらくそれを見ていたが、スキルは覚えられていない。

 まぁさすがに見ただけでは無理か。自分でもやってみないとかな。


 とか考えていたら二人は森の中へと入っていった。

 おっと、さすがにあの先についていくのはやばそうだ。

 俺は比較的安全な、南の草原に戻る事にした。

 まだ受任した依頼の草集めてないし。

 仕事しないとダメですよね。




 南の草原に戻った俺は依頼の草を探しながら、剣を持ったつもりでさきほどの剣士の動きを真似してみた。

 傍から見たら完全に変な人だな。

 ま、周りに誰かいるわけじゃないから気にしないが。

 当然ながらスキルを覚える事はなかった。ですよねー。

 

 さてと、草も集めたし一回ギルドに戻るか。

 正直さっきの剣士や魔術師の動きを見ただけでは、何をしているのかよくわからなかったんだよなぁ。

 魔術も何を言っているのか聞き取れなかったし。

 

 さすがにこのまま闇雲にやっていても、スキルを覚えられる気がしない。

 図書館的な場所があれば、そこで参考文献でも読んで基本知識を覚えるかが効果的かな。そうすればいけそうな気がする。

 この世界にはグー○ル先生はいないからつらい。

 元の世界では大変お世話になりました。




 ***




 さて、ギルドへの報告も終わり図書館に来たわけだが。

 元の世界ではあったから当たり前に思ってたが、今思うとこの世界では図書館なんて、ある方が珍しいんじゃね?

 紙とか本て貴重だって聞くし。

 ということは、この街ってこの世界では割と大きいほうなのかもな。

 

 しかもこの図書館結構でかい。

 歴史や魔術関連が主な蔵書っぽいが、それ以外にも剣術から植物図鑑まである。

 現代の図書館の様に娯楽小説などは無かった。この世界にマンガやアニメはなさそうだ。そりゃそうだ。

 残念すぎる。うちの嫁は遥彼方。

 

 

 んじゃま参考書を探しますかね。

 魔術は難易度高そうだから、とりあえず剣術の本にするか。


 そう思い剣術の本がまとまっていそうな所を探す。


 お、あった。なになに、剣術談義。剣術百科。剣豪100選。

 なにこれ面白そう。刀があったら最高なんだが。まぁ高望みはしない。

 

 あの剣士の動きを思い出しながら、俺は小一時間読書に励んだ。




 いやー、楽しかったわ。剣まじでカッコイイ。

 歴代の剣士の技は人間技じゃなくて、参考にはならなかったが果てしなくかっこよかった。

 もちろん基礎的な事も書いてあったから、それは頭に叩き込んでおいた。

 よし、今ならどんな魔物も倒せる気がする。最強の剣士に……俺はなる!


 

 図書館を出てちょっと歩いたところに、ちょいどいい空き地があった。

 そこらへんに落ちていた木の枝を手に、俺は空き地のど真ん中に立つ。

 

 我は無敵なり! 我は……最強なり。


 ふぅ、これで俺も最強の剣客だ。イメージは大事だよ。いやほんとに。

 


 最強になった俺は、一心不乱に本で読んだ動きを真似る。

 ただひたすら同じ型を何回も何回も繰り返す。

 

 同じことを繰り返すのは得意だ。

 何かに集中して周りの景色も雑音も、何もかも無くなり

 ただそこに木の枝を振り回している俺だけが、いる。

 むしろ自分という感覚も、雑念も、時間の感覚さえも、無くなる。

 

 俺はこの集中している時が、大好きだ。愛していると言ってもいい。

 他人と遊んだり、群れたりするより何よりこうなった時が好きでたまらない。


 集中しているこの時間があるから、一人でも寂しく感じた事はない。

 むしろ他人といるとこうなれないから、他人なんて邪魔な存在でしかない。


 アニメもゲームも読書も実際は、この没頭している時間が作れるから見てるだけなのかもしれない。

 何かに没頭できるなら何でもいいんだ。画面の中の嫁でも、剣術でも。







 何時間、同じ型を振り続けたのだろうか。

 気がつけば、周りは日が沈みかけてオレンジに染まっていた。

 掌の皮は剥けて全身汗びっしょり、気持ちが悪い。

 

 しかしステータスを見ても、スキルは取得していなかった。

 まぁ、そんなもんかもな。

 ケンカすらした事のない俺には、剣術はハードルが高い。


 そう自分をなぐさめ、最後にもう一度だけ、ひたすら繰り返した型を振る。

 

 風を切る音と共にすんなり体が動き、ぴたっと枝が止まった。

 

 かなりの時間繰り返しただけあって最初の頃よりは大分ましになっていた。

 ありがとうジン○。きっとキミのおかげだ。





 ――――テロン♪――――


 『ハンネス流剣術LV1を習得しました』




 


 正直嬉しくて、ちょっと泣いたのは内緒。


次回予告:ついに剣術のスキルを覚えた彼。本格的に冒険を始めようとするが?

次回 7話 武器屋

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