1話 プロローグ
人間は一人でも生きていける。
そんな事は無理って言うやつもいるだろう。
社会の構造上、人が生活していく上で必要不可欠なもの、その全ては社会という人の集まりがなければ手に入らない。
確かにその通りだ。
だが、精神面では?
誰かに頼る事も、期待する事も、任せる事も、求める事も、願う事もせずに生きていく事はできるか?
俺はできると思う。むしろそういう風に生きていきたい。
人間は一人でも生きていける。いや、生きていくべきだ。
人に迷惑をかけてはいけない、自分でできる事は自分でする。
俺は子供の頃からそう教わってきたし、これからもそうしていきたいと思う。
自分の友達多いアピールの為にLINEの「友だち」の数を増やしたり、仕事の愚痴を書くためにツイッターをする同僚とは、俺は違う。
そいつが飲みたいだけの飲み会にも、優越感を得るだけのコンパにも参加しないし、仕事を押し付けて早く帰るためだけの私生活の愚痴も、さぼりたいだけのプライベートな話しも聞かない。
業務以外の話しは全くしていないし、仕事帰りに飲みに行く同僚もいない。
学生時代も似たり寄ったりで、友達がいなかった。
だから休日は誰とも関わらず、一言も話さずに終わるまである。
別に人嫌いだからとかそういう事ではない、自分でできる事はやって他人に任せる事も頼る事もなかった。
そんな風にして生きていたら、気がついたらそうなっていただけだ。
それに一人でいるのは好きだし、一人なら周りに合わせる必要もなく好きな事を存分にできる。
ぼっちで何が悪い。ぼっちは最高だ。
だからさびしいと思ったことはない。
画面の中に嫁もいるしな。
俺の人生にあいつは潤いを与えてくれる。
あいつさえいれば、俺は一人で生きていける。
そう、嫁さえいればね。
むしろその為だけに生きていると言ってもいい。
月5万の課金ぐらい、嫁のためなら安いもんさ。
その為に昼飯をケチり、安いボロアパートに住むのも苦にはならない。
あれ? 夫婦だから二人のはずなのに一人で生きていけるってこれどういうこと?
まぁ、深く考えると悲しくなる気がするから、それは置いておこう。
つまり、パソコンがなければ俺は生きていけないという事だ。
ホント、ここどこだよ?
見渡す限り、草と木と岩しかないんだが……
はぁ、帰りたい……
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日本において家出人捜索願が出されいる人数は、年間約8万人。
しかしこのうち同年中に所在が確認されたものは、約7万9千人と発見率は99%にも上り、いわゆる「日本の行方不明者は毎年10万人」というのは嘘ではないが、本当の事を表しているとは言い難い。
ただし毎年1千人は今も行方しらずのまま、それは紛れもない事実である。
今日も日本のどこかで誰かが人知れず、姿を消しているのだろう。
彼らがどこへ行ったのか、今どこにいるのかは、誰にもわからない。