え、異世界の食事ってこんな感じなの?
がくんっ
誰かに身体を揺さぶられた。
「え、なに。」
俺は、集中しているときは音がまったく聞こえていないというか、周りが気になっていないので誰の声も届かない。
だから、集中を途切れさせるためには身体を揺さぶるしかない。
身体を揺さぶられたということは、俺に用事があるということなのだろう。
誰だろうと思いながら教科書から顔を上げれば、そこにはシエルが立っていた。
「すごい集中力だな。もう昼だ。」
そういって指された時計は俺が見たことのあるものとは違って18時間で一周するようになっている。
どうやらこちらの時間は18時間で半日が過ぎるようだ。
「何時間ぐらい読んでたんだろう。」
「こっちの世界は1日が36時間で、朝起きたのが9時で、読み始めたのが10時ごろ。今はちょうど18時。8時間ずっと同じ姿勢で読み続けていたわけだ。」
若干呆れ気味のシエルに、俺はちょっとだけ悪いなと思った。
「だいぶ読めた。この後時間あるか?魔法の練習したいんだ。」
さっき本を読んで、たいていの基本魔法は頭に詰め込んだ。
それを実際にやってみないとどうなるのかわからない。
「いいよ。今日は仕事ないんだ。とことん付き合うよ。」
ちょっとうれしそうなシエル。
せっかく仕事がない日なのに、しかも俺と出会ってまだ時間もたっていない今なのに、放置しすぎてしまった気がする。
「ごめん。ありがとう。」
俺はそういって起立した。
「じゃ、食堂に行こうか。」
前を歩いていくシエルについて、俺はてこてこと歩いていった。
服はシオンチョイスで、さっき読んだ本の中にあった魔剣士の服装に似ている。
「とりあえず、仮だよ。魔剣士になれって言ってるわけじゃないからね。」
どうやらそうであったらしい。
「わかってる。それより、早く飯を食おう。腹が減ってはなんとやら、だ。」
俺はそういって前に歩き始める。
「うん。というか、もっと子供っぽくしてもいいよ。君はあまりにも大人すぎる。」
「シエルもな。高校生には見えない落ち着きっぷりだ。」
俺はそう返した。だって、シエルのほうがよっぽど大人の物腰なんだ。
「そうか。まぁ、こんな仕事をしているからだと思うよ。」
やっぱり大人だ。下手したらそこら辺の大人より大人っぽいのではないだろうか。
しかも、ちゃんとした大人だ。
「ついたよ、ここが食堂だ。」
つれてこられた先は、豪華な食堂だった。
「ここは普段王に仕えているものの中で特に王に近い者たちが食事を取る場所なんだ。食事が終わったら王に挨拶に行こう。ケイトのことは昨日のうちに話してあるから。」
「王様、か。何か緊張するな。俺が住んでいた国にはいなかったし、厳しいイメージしかないな。」
王様というと、RPGに出てくるような王様か、もしくは王様ゲームの王様しか思い浮かばない。
命令をして、ちょっと厳しいおじさんというイメージだ。
「大丈夫。陛下は優しい方だ。じゃなけりゃ、俺はこんなに楽しく毎日を過ごしていないよ。」
俺はその言葉に少しだけほっとした。
少なくとも、嫌な人ではないようだ。シエルが言うように優しくていい人だといいな。
「ん、これ見た目がグロいけどうまい。」
はじめて見る食事に俺は楽しくなった。
「それはフィッシュアイ。魚の目のような木の実だよ。ちなみにその横の花も食べられるよ。フラワーチップって言って、しょっぱくてパリパリしてるんだ。おやつにもってこいだね。」
魚の目のような木の実は、食感で言うと軟骨とか砂ずりとかそんな感じ。大きさは小指の爪くらいで、スープに入っていて、とてもおいしかった。
フラワーチップは花の形をしていて、ポテトチップスをちょっとぶ厚くして(芋けんぴに似ているかも)、花の香りをつけた感じ。その中に少しだけ甘みがある。
主食はお米みたいなものだが、色が茶色いしさらさらしている。
お箸では食べられそうにない。スプーンとフォーク、ナイフが出ていて、もう一つ見覚えのないものがあった。
「これなに?」
さすがにわからなかったのでシエルにきけば、シエルはちょっと驚いていた。
「あっちにはなかったのかな。それはカプと言って、それではさんで食べるんだよ。」
仕組みはピンセットのようなものだが、先が広がっていてT字型になっている。
「何をはさむの?」
使い方がわからなくてカチカチと空中をはさんでみる。
「砕けるものを食べるときに使うんだ。チップと名のつくものはそれを使うよ。」
なるほど。確かにチップ系のものにフォークを刺したりすると砕けるな。スプーンでは大きさによってはすくえないし。
お箸を使いやすくしたもの、かな。
いっそのことお箸を出してくれればラクなのに。
なんだかんだで楽しい食事も終わり、俺はシエルと一緒に部屋に帰った。