え、お勉強タイム?
俺たちは部屋に移動した。
これからしばらくの間は学校に通えるように猛勉強するらしい。
「今はまだ長期休みなんだ。あと1週間であける。そのときに編入するように手配したから。それまでの1週間は猛勉強だ。」
そういって近くに置いてあった箱の中身を取り出した。
「・・・俺を殺す気か。」
ベッドのサイドテーブルに置かれたのは山積みの教科書類。
30cmはあるであろう大量の書物。
「俺は仕事もあるから、基本は独学ね。魔法の練習所はこの地図のここ。今がここね。」
どうやらここはお城のようだ。
ものすごくたくさんの部屋がある地図の中に、謁見室や王室とか言うのが見えたから。
ここは大魔道士専用の部屋のようだ。
「・・・文字が違うのに何で読めるんだろう。」
俺が思ったはじめの疑問は、文字も言葉も違うのになぜこんなにもすんなり話しているのだろうということだった。
「創ったっていっただろ。ある程度はこの世界に対応できる形にしてあるんだよ、その体。」
なるほど。そんな便利なことが出来るのか。
「じゃぁ、なんであっちの世界で言葉が通じたんだよ。」
これもまた疑問だ。
この体がこっちに対応している身体なら、なぜあっちで本来の身体で会話が成立していたのだろうか。
「魔法。言葉でのコミュニケーションが出来る魔法だよ。長時間は使えないけど。」
そんな便利な魔法もあるのか。
その魔法があっちにもあったらわざわざ外国語の勉強をしなくてもすむのに。
そんなくだらないことを考えてしまう自分。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
文字を変えるのは相当面倒な魔法を使わなければならないらしく、相当量の魔力を消費するとのことだ。
「とにかく、勉強ってことだろ。そのあたりも含めて、全部教科書や書物から学べばいいんだな。」
俺はそういって一つの教科書を手にした。
初等部1年前期用の歴史書だ。まずは基本的な知識を頭に叩き込む。
基礎がわからなければ応用は出来ない。もちろん、基礎がわかっていても応用が出来ない場合もあるが。
「ケイト、自分で全部勉強するのか?」
「いや魔法は手伝ってもらうけど、まずは歴史や文化、マナーを知らないと生活できないだろ。だから、魔法は後で教えてくれ。もちろんシエルが暇なときでいい。」
俺はそういって教科書に集中した。
これでも一応頭はいいほうだったのだ。特に覚えることに関しては得意なほうなので、暗記科目である歴史や語学は得意なほうだった。
思い返すと懐かしいな。毎日代わり映えのしない日々、退屈をしていた毎日、決められたルールとレール・・・
でもその中にあった、変わらない日常の幸せ。
失くしてみて初めて思う、あの日々は幸せだったのだと。
ごく一般的な家庭でごく一般的な生活をしていたんだ。
今になって気がついても遅い。あの日々はもう取り戻せないのだから。