え?本来の姿?
「シエルって、金持ちなのか。」
メイドがいる時点でそうであることがうかがい知れる。
言葉遣いもちょっと悪いが、どこか上品というか気品というかそんなものがあふれ出ている気がする。
「一応俺は大魔道士でね。国王に直接仕えるものの一人なんだ。側近とはちょっと違った、魔法のエキスパートみたいなものかな。」
そんなすごいやつが、なぜ俺なんかを使い魔にしたのだろう。
「俺はごく一般的な人間で、暗記力がすごいこと以外、何の取り得もなくて・・・なんで俺なんかをそんな偉い人が使い魔にしたんだよ。」
聞いてみたかった。
ずっと自分には大した価値がないと思っていたから。
必要とされているなら、聞いてみたかった。その理由を。
「言っただろ、君の力は強い。それに、君は優しくていい子だから。たまに見に行っていたんだ。異世界にいるのに力の強い子がいるから、狙われていないかどうかを見に。」
シエルは俺のことを前から知っていたらしい。
少しだけうれしくなった。
誰かに気にかけてもらえる。それはとてもうれしいことだった。
「君が困っている人を助けている場面を何度も見たことがある。君は本当に優しい子だ。だから、見守りたかったんだけど、案の定狙われてしまったね。」
少し申し訳なさそうなシエル。
きっとあのリューイとか言う奴から俺を助けることが出来なかったことや、俺をあちらの世界で死なせてしまったことに負い目に感じているのだろう。
「ありがとう。あのままリューイとかいうやつに連れて行かれていたら、どうなっていたかわからないから。あんたが契約してくれてよかったと思うよ。」
国王に仕える大魔道士だ。話を聞いている限りでも、悪い奴には思えない。
「リューイ・E・ランベルか。彼は相当悪名高い魔術師でね。金のためなら人を殺す。指名手配中の人間だ。彼はきっとまた君を狙ってくるだろうね。」
俺はその言葉にぞっとした。あいつがまた来る。赤いというより紅の目を持ったあいつは、炎の使い手。髪が黒ということは闇とかそんな魔法を使うのだろう。
それに、そんなやつに契約をされたら、俺は何を命令されていたかわかったものではない。世界を滅ぼす恐れがあったというわけだ。
「大丈夫。君は俺が護るし、俺を君が護る。君には魔法を学んでもらわなくてはならないから、学園に通わせようか。初等部なら君の外見でいけるだろう。」
シエルがそういって立ち上がった。
「待てよ。学園ってなんだ。てか、使い魔ってお前から離れていていいのかよ。使い魔が学園に通ってもいいのかよ。」
俺にとっての使い魔というイメージは常に付き添っていて主人の元を離れない、主人の命令を聞くものだった。
「最初に言っただろ、必要なときだけ召還するんだって。使い魔が学園に通うことに関してはちょっと問題があるが、隠して通えば問題はない。くれぐれも人前で本来の姿に戻らないように。」
本来の姿とは何のことなのだろうか。
もとの世界で生きていた頃の姿のことを指しているのだろうか。
「強い使い魔は大きい。君のメンタルや魔力の多さ、性格などがあわさって作られた姿が本来の姿だ。今のは通常時の体だよ。何なら戻ってみるといい。外に行こう。」
部屋の中で戻られたら部屋が壊れかねないと言って俺は外に連れ出された。