Loop World
随分前に書いた、無駄に哲学っぽいもの。すぐ読めます~
世界が生まれた。そこに少女一人。
広い麦畑、穂が風に舞い、光がうまれているようだった。
そこにたって何をするわけでもなかった。ただそこに立ち、自然と一体化していた。
「君はそこでなにをしているの?」
旧世界の遺物なのか、ところどころ機械がむき出しになった、小さなロボットが、少女の前に立った。
「何もしてないよ。」
「でも、君はそこに立ってる。なにか理由があるんだよ」
「旧世界は、すべてなにか理由が無ければ動かなかったの?」
ロボットは黙った。行動は当たり前に、理由で動いていると思ったからだ。
それ以外の考えを持つ、少女の考えが理解できなかった。
「理由で動くわけじゃないけど、ここにいることで、何か生まれるかも知れないね。」
ロボットは顔を上げた。そして、世界を見た。
一面の麦畑に、穂の光、そこに立っているロボットと少女、その事実事態が、何かを生み出すというのだ。
理由で動くだけならば、自然に生まれ来るものを受け入れられない。すべて、その理由を考えた人の想像の範囲以内のものしか生まれない。
自然に任せてみる、そうすれば想像以上のすばらしい何かが生まれるかも知れない。
現に、旧世界でも自然にそうであった生物たちが人間を生み出し、ここに残っているロボットを生み出した。
人間は理由により行動することによって大きなものを早く生み出したが、
その分自然を傷つけ、人間のいた世界は旧世界となった。
「理由のない行動、自然に任せること。」
「私は何も考えてないよ。考えることが、まだ出来ないの。生まれたばかりだから。君はすごくいろんなことを考えているんだね。」
「考えてるよ。でも理解できないんだ。君は、疑問を持たず、受け入れるんだね。すべて。」
少女とロボットはまったく違う。心も、環境も、考え方も。
あまりにも違いすぎて、同じ空間にいること事態がロボットは疑問だった。
「すべてが私にとって新しいから。新しいものに疑問はもてないよ。」
ロボットは自分が古い生き物と理解した。
だから、違和感があるんだと。
ここに存在することは、旧世界の遺物である僕には出来ないんだと。そう理解した。
すべてを知っている。だから、新世界を理解できない。
すべてが疑問だ。
なぜ、新世界が生まれたのか。
なぜ少女がこの麦畑に立っているのか。
なぜ滅びたはずの世界に、人間がいるのか。
少女は疑問に思わない。ロボットは疑問に思う。
「ああ、わかったよ。」
ロボットはそういい残すと、砂になって消えた。自然を受け入れたのだ。
そこには少女と麦畑が残った。
少女は、かつてロボットのいた所に歩き出し、砂をつかんだ。
さっきまで会話していた存在。目の前で砂になって消えた。
彼女にとってはそれも自然だと、受け入れることしか出来なかった。・・・でも。
始めての感情。今まで変化が無かった心に、重たくのしかかる鉛のような思い。
これは変化だった。新しい感情だ。まだ名前は無いが、このような感情があるんだなと少女は理解した。そして、なるべくなら、この感情にはなりたくないと感じた。
まただ。否定の感情。なりたくないと思う気持ち。少女は次から次へと感情を覚えていく。
ロボットが残した最後のプレゼント。旧世界でも渦巻いていたさまざまな感情が、新世界でも次々と生まれていた。
彼女が、喜怒哀楽を覚えたころ、意識を持つ生き物がもう一人現れた。
少女と同じような形をしていたが、少しだけ違った。
そして少女のようには感情を持ち合わせてはいなかった。
二人は同じ空間で過ごすようになっていた。少女が寂しいと感じたからだ。
会話により、もう一人の人間、少年も感情を覚えていった。
二人の会話は、新しい考え、そして疑問の心を生み出していた。
疑問は学ぶ気持ちを促進させ、二人は旧世界の人間のように感情豊かで知識も豊富になった。
旧世界と比べてみると、「やっと人間らしくなった」という段階だ。
まだ精神的にしか成長はしていない。
しかし、その知識で「必要なもの」を作り出すことができるようになっていた。
初めはお互いの「名前」だった。
「ねぇ、私はいつも君の事を、あなたとか、君とか言っているけど、わたしを呼ぶときもそうだよね?」
「そうだね。君には、名前がないね。僕にも無い。空、地面、月、太陽。周りにあるものは皆ついているのに、僕たちには名前が無い。」
旧世界と新世界で共通して引き継がれているもの、空、地面などは、旧世界と同じ名前がつけられていた。不思議なことに、少女はそれらの名前を自然と知っていた。言葉もまたそうだった。
しかし、新世界になって始めて生まれた二人には名前がついていなかった。
「でも、どうやってつければいいんだろう。名前は、物の名前は、何を根拠につけられていたんだろう。」
月はなぜ月なのか、太陽はなぜ太陽なのか、そして彼らの名前は何であるのか。
「名前、作ろうよ。」
少女が言った。
「つけるべき名前は分からない。でも、もしかしたら、付けた名前が付けるべきであった名前に変わるかもしれない。そう、時がたてば。」
少女は、時間による変化に期待した。今までだって、時間がたつにつれ、さまざまな変化が起こった。偶然は必然に変わると、少女は信じることにした。
「わかった。思いつくままにつけよう。それが時がたてば、当たり前の名前になる、そういうことだね。じゃあ、君の名前は・・・。」
作り出すことを覚えた二人。名前という形の無いものから、道具という形のあるものもつくりだし、自分たちの生活を豊かにしていく。それは二人で作り出した「文化」だった。
二人は大人になり、生物の本能に従い、子を産んだ。その子に感情、文化を教え、その子は親が作り出すことが出来なかったものを作り出し、無駄だと思うものを排除していった。
その繰り返し。繰り返しに繰り返した。
時間は立ち、人間は繁栄し、世界が生まれたときには無かったものが溢れていた。
しかし人は何も知らなかった。
自分たちが世界を支配していると、そのことばかりに夢中で、世界が生まれたばかりの美しさや
すべてを受け入れる姿勢、そんなことなど忘れていた。
そして力を過信し、とどまらず次々と欲望のまま物を生み出した結果、また世界を滅ぼした。
世界が生まれた。そこに少女一人。
広い麦畑、穂が風に舞い、光がうまれているようだった。
ふと少女は下を見た。そこにはやせこけた老婆が横たわっていた。
少女はただ老婆を見つめているだけだった。少女にとっては、何もかも自然。疑問には思わない。
老婆は片目で少女を見た。逆光で少女は黒く見えるのに、とても輝かしい。
老婆は思い出していた。
かつて、自分がこの麦畑の真ん中で、ロボットと会話したひと時、遠い、遥か昔の遠い記憶・・・。
あの時、ロボットは少女に「理由」を教えた。そのとき少女は理解できなかったけど。
でもそれがきっかけだった。前の世界があの形になったのは。
世界は、同じことを繰り返した。ならいっそ何も教えず、このままで・・・。
何も生み出さない世界。美しさは保たれ、心は常に揺れ動かず、平和な世界。
でも、この世界は、意味をなさない。悲しみ多かった前の世界、だけども、その分人を幸せにもした。この世界はあっても 無くても変わらない。
「ねえ。」
老婆は口を開いた。かつてロボットが自分にしてくれたように、世界をまた、感情と物とでいっぱいにするために。
世界は滅びては生まれる。物事は繰り返され、むなしい。
しかし、その繰り返しの中で、生き物は、悲しみ、幸せと感じ、愛し合い、悩む。
その感情は決して無意味ではなく、その生き物にとっては、一生の中でとても意味のあるものだ。生き物にとっては、一生が世界。その内容をよりよいものにするために、生き物は、特に人間は、生きていくのだ。人一人ひとりが、よりよい世界(人生)を作っていくために。
人は死ぬ。世界と同じ、生まれては死ぬ。でもその中の色を、人間は作っていくことを望む。
それが、人間らしいということ。
―世界が生まれた。そこに少女ひとり―
この時期はだいぶ重苦しいものを書いていたものだ・・・。