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I am Unknown  作者: 雪人
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commander

「おい、コードU!!おい!!」

「駄目です!!応答しません!感情のショートです!!」

「左翼が大破したよう!!墜落の可能性あり!!」

合衆国東山間部司令室は困惑と怒号で埋め尽くされていた。

司令室は三層構造である。一番下のフロアは神経直結型戦闘機『ゼウス』の電気系統、感情回路各種の制御、それを見下ろすようにして戦況を分析するための第二フロアがあり、さらにそれらの上にあるのが司令官の座る第三フロアである。

「ええい、落ち着け!!状況をまとめろ!!」

その第三フロアから、男が階下を怒鳴りつけていた。その顔は岩石から削りだされたかのようであり、青い目が一際存在感を主張している。金色の髪は少し薄くなっており、その年が若くないことを物語っている。

「敵の攻撃が直撃した模様です!!」


ーまさか。


その報告を受けて、男―ゴードン・ラッセル大佐はひどく狼狽した。

それは、40年以上、数多の修羅場を潜り抜け、敵兵士に額に銃口を突きつけられている状態で「煙草を吸いたいんだが」とのたまったという伝説が軍の中でまことしやかにささやかれている男とは思いがたいものだった。

「バカな…」

思わず漏れ出た自分の声に気づき、ゴードンはハッと口元を押さえた。

駄目だ。自分はここの最高責任者だ。毅然としろ。動揺するんじゃない。自分が統率しなくてはここは動けない。

ここが動かなければ彼女はどうなる。


「落ち着け!!!弾が直接コックピットをぶち破ったわけじゃないだろう!!!まだあいつは死んでない!!第一フロアはエンジンの確認!!それから応答があるまで交信を止めるな!第二フロアは『ゼウス』の追跡!森のど真ん中に落ちても絶対に見失うんじゃないぞ!!」

フロアに大音響で響く司令官の声に、隊員達は我を取り戻した。混乱が消えたわけではないが、各自のすべき仕事に取り掛かる。

「望遠カメラの映像、出せるか!!」

大声で指示を出しながら、ともすれば不安が胸のうちを満たしそうになるのを自覚している。


大丈夫…彼女なら大丈夫だ…

「映像、出ます!!」

無意識に両手を組んでいたゴードンの耳に隊員の声が聞こえた。

頼む。頼むから、無事でいてくれ……!!


祈るゴードンの前に粗い映像が映し出される。

そこには、左翼がまるまる無くなり、黒煙を吹き上げながらも水平な姿勢を保ちがら落ちていく、黒い戦闘機が映し出されていた。

「ゼウスの不時着プログラムが作動したようです!!左翼が無くなっていますが、姿勢制御はなんとか出来ています!!」

「おい、このままだと森の中へ落ちる!!大丈夫か!!」

通信兵をまとめるカニンガム少佐の怒号が響く。

「コックピットの保護機能はちゃんと生きています!!機体は大破しますが、パイロットは安全です!!」

口々に報告をする部下たちの声を呆然と聞きながら、ゴードンは椅子にどかりと座り、両手をだらんと垂らした。その時、自分が腰をいつのまにか上げ中腰の姿勢でディスプレイを食い入るように見つめていたらしいことにゴードンは気づいた。


「隊長、彼女、生きてましたね」

その時、ゴードンの横にいた男が口を開いた。

その男は、このフロアで一人だけ浮いている存在だった。

髪の色が黒いのだ。目も黒い。明らかにゴードンの国の人間ではない。顔にはまだ幼さが残っており、口はきり、と結ばれている。

そっけない声であったが、安堵の色が隠しようが無くにじみ出ている。

「ああ、そうだな……良かった」

ゴードンは、思った。よかった。本当に。

「はい、良かったです」

その男も、同調するように言った。

ゴードンは男の手の甲に指の跡が残っているのを見つけた。その跡は両手をきつく握らねば――ちょうど、先ほどのゴードンのように、祈るように握らねばつかない跡であった。

「良かった…」

誰に言うでもなく男―青木 まことは ぽつりと呟いた。


「隊長!!ゼウスが森の中へ墜落!!また、皇国軍の戦闘機も一機、近くに墜落した模様!!」

隊員の報告にゴードンは我に返った。

「何!?生きているのか!?」

「分かりません。ゼウスの落下地点予測を優先したため、敵の生存確認までは…。ですが、直前の姿勢から生きている可能性は高いです」

「…そうか」

まだ気を抜いてはいけない。敵兵士がもし生きていれば、彼女の命がまたもや脅かされるかもしれない。

ここにきて、そんなこと、絶対あってたまるか。

「急いで救援に向かう!俺が出る!!!出せる機体は何機ある!!」

「3機出せます!!」

「上出来だ!!カニンガム少佐、ここの指揮は任せた!!」

ゴードンは椅子から立ち上がった。

「隊長、自分も…!!」

「当たり前だ!!!」

随行を申し出ようとした青木にそれ以上言わせず、ゴードンは一喝する。

「青木副隊長は銃器を三人分もってこい!!俺は今すぐ飛べる人間を探してくる!!」

「は、はい!!」

「いいか、半端な銃は持ってくるな!相手は合衆国最強の機体を落とした相手だ!!」

その一言に青木の顔が引きしまる。

「了解ですッ!」

「いい返事だ!!さぁ、行くぞ!!敵兵士を見つけたら蜂の巣も許可する!!」

戦闘機を格納してあるハンガーへ向かいながら、ゴードンは怒声をあげた。


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