crash -墜落-
「隼人おおおおおおおおお!!!」
俺は叫んだ。追撃を受け、隼人の機体が爆散する。
あれでは、生存なんて出来るわけは無い。もしかしたら生きているかもしれない、そんなわずかな希望を残すことさえ、敵は許してくれない。
敵を見た。
敵は悠然としている。まさか、戦闘機の癖にホバリングが出来るとは。まるでこちらが動くまで何もしないというようだ。外見も見たことが無い、黒い機体だ。
レーダにはUnknown-未確認機の文字。新型だろう。
先ほどの隼人が撃った機関銃の避け方、そして健二を落としたときの距離。パイロットも、かなりの腕前だ。恐らく、あれに勝てるやつは皇国にはいない。合衆国の中でも多分、最強だ。
…どうして俺は、ここまで冷静に判断してるんだろうな。仲間が二人も殺されたというのに。なぜ、その相手を評価してるんだ。
俺は自嘲気味に笑う。
ここは隼人みたいに切れるべきなのだ。仲間を殺されたのだ。相手を罵倒し、叫びながら、突っ込むべきなのだ。
だが、長いこと凍りついていた心は、どうやら悲しみを表には出してはくれないらしい。つくづく自分の性格が嫌になる。
なんとも薄情なことだ。あいつらに申し訳ない。
…よし、今から謝りに行くとしよう。
あいつらのところへ行こう。向こうで謝るとしよう。決してお前らが死んだのを悲しんでいないわけじゃないと。
それにあちらに行けば、両親にも会える。兄弟にも、親友にも。
彼女--しおりにも会えるはずだ。
爆撃の前日、お前にプレゼントを買ったんだよ。それをもっていくよ。
胸のペンダントを握り締める。
-だから、もう少しだけ、待っていてくれ。俺にはやらなきゃいけないことがある。
俺は覚悟を決める。
敵を睨み付ける。無機質な黒色の機体。
…あぁ、きっとお前は最強さ。俺なんかがまともなやり方で勝てるわけねぇさ。
でもな、ただ殺されるだけ、なんて絶対にしねぇからな。
俺は速度を上げ、敵に接近する。待っていろ、二人とも。仇は、討つ。
「はぁ……」
私は、溜息をついた。
残る相手は一機。こいつは、さっきの馬鹿とは違い、突っ込んではこなかった。
だが、変わらないだろう。いつも通りじき終わる。私に敵うやつなど、いない。
合衆国の戦闘機のレベルは世界最強だ。そして私の機体は、合衆国でも随一にして唯一である。そして、それを操れるパイロットは一人だけ。つまり私だけ。
このミッションが終わったら、また暗い部屋で時間が過ぎるのを待つだけだ。
別に苦ではない。苦ではないが、気が乗るわけも無い。勝手に溜息が出た。
あぁ、つまらない。 最近感じる感情はこれだけ。 あぁ、つまらない。
-と、相手が動き出した。さっきの馬鹿よりは遅い。特攻用のブースターは起動していない。
となると、私を狙っているのだろう。全く、不毛なことを。
…私が落とされたら、どうなるのかな?
ふと、そんな考えが頭に浮かんだ。 何を馬鹿なことを。
自分が考えたことを、まるで他人事みたいにあしらい、鼻で笑う。
-ミサイル、発射準備。
これで終わり、か。相手を見る。
「……え?」
思わず、といった具合で彼女は言葉を発した。
いつもの彼女を見ている者から見れば、それは驚愕に値する。
彼女は、動揺していた。
俺は敵に向かって飛んでいく。
…ミサイルを撃っても駄目だ。機関銃も。おそらく他の武器も駄目だろう。
さっきの隼人に攻撃されたときのこいつは、あまりにも早く、的確だった。
まるで機械のようだった。それも、かなり精密だ。
武器は封じられた。ただ突っ込んでも駄目だ。ならば、どうすればいい?
…簡単だ。武器以外に飛ばせるものがあるなら、それをぶつければいい。
正直、無理かもしれない。だが、何かをしてやらねぇと気がすまない。
俺は特攻用のブースターの作動スイッチに手を添える。
そしてブースター離脱装置にも、手を添える。
……やってやるよ。
「止めれるもんなら、止めて見せろよおおおおおお!!!!!!!」
ブースター作動。続いてブースター離脱。
ブースターが爆音を上げる。
そして、特攻用に作られ、出力のみを追求して作られた、その巨大なブースターが独りで飛ぶ。
向かう先は、Unknown。
巨大な鉄の塊は飛ぶ。
味方を殺した敵を、叩き潰すために。
「な、なにあれ!」
彼女は声を荒げる。動揺する。
……彼女が目を覚ましてからの3年間で、それは、はじめてのことだった。
普段の彼女なら、それが射出された瞬間に潰せていただろう。
だが、彼女は油断した。これで終わり、と。敵は生きていて、まだ戦意を失っていないのに、彼女は油断した。あまつさえ、もしも死んだら、などと考えた。だから見逃した。遅きに失した。
……ただ、漠然と死を考え、それを一笑した者が、死を覚悟して、なお戦うことに執着している者になぜ勝てる?勝てる道理があるか?そんな道理は、絶対に通らない--!!
「い、いや!」
眼前に高速で迫る巨大な鉄の塊が見えた瞬間、少女は恐れた。
恐れ、「反射的に」身をひるがえした。
それは、ボールが目の前に飛んできた子供の行動と、同じ原理。
だが、遅すぎる。間に合わない。-いや、生きる、という点においてはある意味、速くて、間に合ったのかもしれない。
彼女の機体は翼をもがれた。翼だけで済んだ。
抉り取られたのは、左翼。根元から。
「ひっ!いやだ、やだ!!」
だが、彼女の意識は機体とともにある。だからそれは、左手をもがれたのと同じ。
彼女は、もはやただの少女になっていた。
目の前の死を恐れる、ただの少女に。
…だからこそだろう。
追撃を仕掛けるために接近して、近距離でミサイルを撃とうとしていた敵を見つけたのは。
人は恐怖を感じたとき、脅威の存在を敏感に感じる。それに対抗する術は知らないが。
だから彼女は、自分が唯一出来ることをした。
-弾薬準備。モード・全弾掃射。
死ぬのだけは
「嫌ああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
少女は叫ぶ。ありったけを撃つ。狙いなんて定めない。なにも見ずに、でたらめにぶっ放す。
それはただの本能。人間が生きるためだけにする行為。
だが、それが功を奏した。徹甲弾の一つが、敵の翼をミサイル管ごと吹っ飛ばした。
だが、当然翼を片方無くした状態でそんなに撃てば、宙にとどまっていることなど不可能だ。
そして、空を飛んでいる最中に翼を吹き飛ばされれば、飛び続けるなど不可能だ。
--そして二人は、墜落していった。
中二病全開で書きました。
いや、思ったよりもむずかしいんですね、これ。
その辺のアドバイスをぜひいただきたいです。