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今、君と同じ空を眺めているはずなのに

作者: P4rn0s
掲載日:2025/12/01

君と同じ星は見れるかもしれないけどさ

僕は君と同じ雲を眺めてたかったんだよ。

そんな言葉を、胸のどこかにしまいこんだまま、季節だけが勝手に移り変わっていく。

夏の終わりを告げる風が、窓の隙間からひゅう、と細く吹き込むたびに、その言葉の輪郭が少しだけ浮かび上がる。


君がいなくなってから、空を見上げる癖だけが残った。

別に空が好きだったわけじゃない。

ただ、ふとした瞬間に上を向いていれば、もしかしたら、あの日の君が見ていた雲の形に触れられるかもしれない、そんな期待を捨てきれずにいるだけだ。

馬鹿みたいだと思う。

でもやめられない。


星ならいい。

どこにいても同じものが見えるし、夜空は広くて、僕たちの距離なんてどうでもよくなるほど静かだ。

けれど雲は違う。

流れて、形を変えて、あっという間に消えてしまう。

その儚さを、僕は君と一緒に分け合いたかった。

「今の雲、なんか犬っぽくない?」

「え、どこが?」

そんなくだらない会話を交わすだけでよかった。


君は覚えているだろうか。

あの日、夕立の後の湿った風の中で、僕たちは公園のベンチに腰をかけて、濡れた空をぼんやり眺めていたことを。

君は飽きもせず雲を指さして、僕の袖をつまんで、「あれ見てよ」と笑っていた。

僕はその横顔を横目で見ながら、雲なんてどうでもよくて、ただ君の声が近くにあることだけに安心していた。

その時間が永遠みたいに伸びていくのが怖くもあり、嬉しくもあった。


どうしてあの時、言わなかったんだろう。

言えばよかったのに。

言葉はたしかに喉の奥まで来ていたのに、「今じゃない」と自分で押し戻してしまった。

そんな“今じゃない”が積み重なって、気付けば君はいなくなった。

置き去りにされたのは、言えなかった言葉ばかりだ。


夜、ひとりでベランダに出る。

星はきれいに見える。

君も、今どこかでこの星の光を見ているのかもしれない。

でも、雲だけは共有できない。

僕の頭上を通り過ぎていくこの形を、君は知らない。

君の街で流れていく雲を、僕は知らない。


それが、たまらなく寂しい。

何でもない日常を、同じ速度で過ごせないというだけで、こんなにも世界は違うものになる。


ねえ、君。

星なんかじゃなくてよかったんだ。

特別な景色なんていらなかった。

ただ、同じ雲の下で、同じ時間を歩きたかった。

それだけでよかったんだよ。


そんな小さな願いを抱えたまま、今日もまた空を見上げてしまう。

流れていく雲のどれかに、君がいた日の影を探すように。

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