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女騎士、怒り心頭に発する

2026年初の投稿です! ありがとうございます! あけおめはすでに松の内を過ぎているので言いません。

楽しんでいただけたらうれしいです!




 野宿最後の日だからなのか、客も遅くまで天幕に入らず焚き火の周りで話したり、歌ったりしていた。けれどだんだんと人の数も少なくなって、あたしとティナたち不寝番の護衛役三人、それから客の男が二人になった。

 何度かティナから「もう寝たら?」と言われたけどなんか寝る気になれなかったから、うだうだティナの横にいた。客の兄ちゃんたちが焼き燻製肉と焼きチーズをくれた。やば、どっちもうまっ!


 いよいよ明日はバルレイ村に入る。温泉と鉱物で有名な村だ。でも温泉ってなんだ?

 ティナにきいたら自然に沸く風呂だって。風呂か、熱いの苦手なんだよな。


「温泉は気持ちいいよ〜。特にバルレイ村にしかない泡がブクブク湧くのなんか人気だよ」


 泡が、ブクブク…? 石鹸が溶けてんのか?

 首を傾げているとティナがくしゃりとあたしの頭を撫でてきた。


「もう遅いんだから、いいかげん寝に行きなよ」

「眠くねぇ……ガキ扱いすんな」

「そういうこと言わないの。この生意気な十歳児め〜」


 そう、あたしの設定はティナの義妹、十歳。まぁ、ホントの十歳だった頃だってクソ生意気なガキだったからヘンに取り繕わなくて済むから楽だけど。


「ふんっ!」


 ふいっとティナから顔を背けて、あたしは天幕へ駆け出した。手本は上級巫女の誰かだ。気に入らないことがあるとこうしてたな〜と顔を思い出したはいいが、名前が思い出せねえ。まぁいいか。


 うん、たしかに少し眠い。


「あらリアちゃん、おかえり〜」

「悪い、おばちゃん。起こした?」


 天幕の中は静かだった。途中の街から乗ってきたおばちゃんが一人起きてて小声で話しかけてくれたけど、ほとんどの人はもう寝てるみたいだ。なんか、甘い匂いがする。だれか菓子でも食ったんか?


「私なら大丈夫。でもこれからは音はあまり立てないほうがいいわね」

「ああ」


 ボソボソ話してても静かな場所にはよく響くからな。

 与えられた毛布に包まっても前二晩はなかなか寝付けなかったのに、眠気はすぐにやってきた。それがなぜか、あたしは理解するまもなく深い眠りに落ちていった。




*****




「全然似てねーよな」


 天幕へ戻るリアの背中を見送るティナにそんな言葉を投げたのは客の男の一人だった。

 旅慣れた客の中には野宿最後の晩に護衛と夜明かしをしたがる酔狂な客がいる。この男・ベネクスも途中から混ぜてくれーと酒と燻製肉を手土産に焚き火の輪に加わってきた。


「何がですか?」

「あんたとあの妹だよ」

「そりゃそうですよ、血は繋がってないですから」


 ティナがリアを親の再婚相手の連れ子だと話すと、一緒にいた他の人たちは納得した様子だったが。


「でもよ、それでよくあんなに可愛がれ」

「かわいいでしょウチの妹あんなかわいいコそうそういませんよね、ねぇ?」


 食い気味なティナの「否定は認めん」と言わんばかりの主張にベネクスは若干引き気味だ。


「そりゃあ、口は悪いですし、あんまり愛想もないように見えるでしょうけど、ちゃんと周囲に気を使えるいい子なんですよ」


 それはこの、出会ってからこの十日ほどでティナが感じたこと。


 見た目が可愛らしいのは本当だから言うまでもないことだが、中身が可愛いのも間違いない。ぶっきらぼうで口は悪いが、お年寄りに手を貸したり、文句言いながらも人を手伝ったり。そういうことができる子だ。


「ずっと欲しかったんですよ、妹。だから血がつながってないとかどうでもいいって思っちゃうくらいに可愛くて可愛くて可愛くて」


 アークスも含めて周囲がかなり引いているのも理解しながら、虚実織り交ぜてティナは惚気てみせる。


「だから、あの子を悪く言われたり傷つけられたりしたら、その相手をどうするかわたし、自分でもワカラナイナー」

「その棒読みが逆にこえーわ!」


 爆笑しながらのアークスのツッコミが場を少し和ませるが、ティナはどこまでも本気だ。リアに危害を加えるものはきっと死んでも赦さない。


「でも、家族を嫌いな人って」


 いないでしょ、と言いかけて気付いた。いや、いるわ。

 誰でもないティナ自身だ、と。


 家を顧みず、仕事一辺倒だった父。

 兄だけを可愛がり、ティナを疎み続けて死んだ母。

 逆に、妹のティナへ男女の愛情を向けた挙句に酔って犯そうとした兄。


 歪みまくってる家に生まれたから、歪みのない他人への興味が強い。それに気づいた時にティナは自分も相当歪んでるなと思ったものだったが。


「家族かぁ〜、オレは兄貴がキライだったなぁ。いつも見下した態度取りやがってよ〜」

「俺、姉ちゃんと年離れててさ、扱き使われて苦手だった!」

「おれはいまも親父がだいっきらいだ。おれだけじゃなくて妹にもすぐ暴力ふるいやがってよ」


 ティナはぽかーんと家族の愚痴を言い合う男たちを見つめてしまった。

 みんな、家族に対してこんなにも嫌い・苦手を言えるのかと。

 騎士時代に家族のことをあれこれ言おうものなら、なにが起こるか想像に難くない。だからなにも言わないで、言えずに来た。


「そんだけ妹にちゃんと愛情向けられるんならお前ら、わりといい家で育ったんだな」


 ティナはどう思い返してもそういう「いい家」なんかじゃなかったと思う。

 貴族だから恵まれてはいたがそれだけだ。家族はバラバラだった。むしろ他人の方が程よい距離を取れたと思う。

 リアは、ずっと他人の中で育った。身内と呼べる人間は一人もいない。恩人がいる、と言っていたが身内という雰囲気ではなかった。


「リアもお前に懐いてるじゃん」

「そう? ホントにそう思う?」

「ああ、アイツお前がいねぇと捕獲したての野良猫か山猫の仔どもみたいだ。特に男はだめだ」


 女性なら多少マシらしいが、男性は警戒して誰も寄せ付けない、とアークス。どうやら話しかけようとして逃げられたことがあるようだ。

 思わぬところでリアからの評価が聞けたティナはニヤけそうになる顔を懸命に引き締めた。

 そう、時間切れだ。視界の端で客の身体がずるりと倒れ伏した。


「さて、お仕事の時間だね」


 すっと立ち上がって、ある男の正面へ。


「え、どう…して」

「何に驚いてるの? わたしがあなたの前に立ったこと? それとも、『どうして薬が効いてないんだ?』って驚いてる?」


 その言葉に男は弾かれたように逃げかけて、アークスに逃げ道を塞がれた。


「ベネクスさん、まさかアンタだったとはな」

「なんのことだよ。おれが何をした?」

「ティナが言ったろ? アンタが持ってきた手土産、薬入りだろ?」


 昨夜、アークスとその話をしたところだった。


『これまで、不寝番中に無性に眠くなって寝ちゃった覚えってある?』

『まぁ、じつはな〜。たいがい三日目に眠くなるんだ。疲れが溜まってんだろうと思ってたんだが、まさか眠らされてた、とか?』

『可能性はあると思う』

『でもよ、そんなこと誰ができるんだ?』

『自分以外全員疑うしかないね』


 ティナは、護衛役たちに食べるもの飲むものすべて不寝番にと用意してあるものに手は付けず、自前で賄うように頼んだ。

 そして実際、茶に薬が盛られていた。

 護衛役が不寝番で飲む茶は特別濃いもの。それは不寝番中にうっかり寝てしまわないようにだが、今日のは違った。眠り薬が含まれていることにティナが気付いた。

 ティナ自身は多少毒への耐性がある。眠り薬への耐性もつけさせられていた。そして眠り薬は香りでわかる。気を付けて嗅げば独特の匂いがするのだ。


 ベネクスだと気付いたのはアークスたちのもとに無理やり燻製肉を置いてった時。薬入りの茶を飲んでいないと気づいたようで、予備の手段を持ち出してきたのだろう。なんとしても護衛を眠らせねばと意気込んでいるようにも思えた。


「昨日の夜中、馬車に忍び込んだのもあなただね? その時にお茶に薬を混ぜた」

「んだよ。気づいてたのかよ」


 悪びれず、舌打ちするベネクスにティナはかぶりを振った。


「知らなかったよ?」


 ニッコリと笑ってみせればカマかけの挑発だと感じたのだろう。ベネクスは歯を剥き出しにして襲いかかってきた。しかし、多少素早かろうがティナの敵ではない。伸びてきた拳を左腕で一閃、顔面に自分の拳を叩き込むとベネクスは呆気なく意識を飛ばしてしまった。


「やりすぎたかな?」

「まぁ、問題ねえだろ」


 話しながら、アークスがテキパキとベネクスを縄で縛り上げ、小麦袋のごとく抱え上げて連れて行き、もう一人の護衛役が眠り薬入り燻製肉で眠ってしまった客を天幕へ運んでいったのでティナは一人、周囲へ五感を研ぎ澄ます。


 これで解決すればいいのだが。

 そんな気持ちを見透かされたのか、客を連れて行った護衛が慌てたように戻ってきた。


「ティナ、悪いが女用の天幕をみてくれ」

「なにかあったの?」

「男用の天幕にへんな香みたいなもんが焚かれていたんだ」


 天幕に入った途端、むわっと妙な匂いに続いて頭がくらりとしたので天幕から急いで這い出たそうだ。


「女用も、もしかすると」


 ティナはまず荷馬車へ急いだ。


(しくじったな、ベネクスを失神させるんじゃなかったか)


 商品用の荷馬車へ入るが、ぱっと見に前と違いはなさそうだった。少しほっとして次に天幕へ。

 ベネクスに仲間がいないとは限らない。それが男だけとは限らない。もし客に仲間がいて、それが女だとしたらこちらも同じ状況かもしれない。

 女用天幕を開けると、たしかに妙な匂いがした。甘ったるい、頭の奥の方へずずっと入り込むような。

 入口を全開にして換気しつつ、一番手近な人の呼吸を確認する。

 息はしているし、苦しそうな様子もない。ホッとして見回すと、空いた寝床が二つ。


「リアがいない」


 客の顔はすべて記憶している。ここにいないのはリアと、ニアルトの街から乗ってきた中年の女だ。


(待てよ、ベネクスもたしかニアルトから乗ってきたはず)


「そっちはどうだ?」

「アークス、たぶんリアが連れ去られた」

「なっ!? どういうことだ??」


 どうもこうもティナにだってわかるわけがない。

 だがすべて知っている人間が一人だけいる。


「ベネクスに聞くしかないだろう」


 横をすり抜けたティナを、アークスがぎょっとした目で見ていたことにティナは気付いていなかった。

 このときのティナの様子をアークスはのちにこう語った。


「数分で別人になったみたいだったぜ。口調も目つきもまるで違ったしな。あと、気の所為だったかもしれねぇが目がなーんか赤く光って見えたんだよな」





読んでいただきありがとうございました♪

リアが「風呂か、熱いの苦手」とか言ってるのをあらためて読み直して、やっぱこの子はネコだな〜って。

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